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一般公開

#コーディネーターの立場から

第6回 コーディネーターからみた信託の現場 ~コーディネーターの役割~

一般公開期間:2024年10月1日 〜 2024年12月31日

※当記事は2024年10月の内容です。

ある公証役場での出来事

「先生。また家族信託の問い合わせがきてますけど……」

 電話を保留にしている女性スタッフの方の口調は、喜ばしい問い合わせという感じではなく、どちらかというと面倒な電話がきてますよと聞こえるような口ぶりでした。これは、私が家族信託と遺言の手続きでお客様を公証役場にお連れし、待合スペースで待っている際に聞こえてきたエピソードです。
「なんか銀行に相談に行ったら司法書士を紹介され、司法書士を尋ねたら今度は『公証役場で相談したほうがいい』と言われたみたいですよ」
と続きます。
 割とこぢんまりした小さな公証役場でしたので、所内での会話がこちらにも聞こえてくるのですが、公証人の先生も
「司法書士も、公証役場を案内するのはいかがなものか。最近よくありますよね……」
と少し当惑気味でした。

 私のお客様の手続きも無事終わり、その公証人の先生に、
「家族信託の問い合わせが公証役場に入るケースは多いのですか?」
と伺ったところ、直接一般の方が訪ねてくるケースは少なく、大体が金融機関や専門家からの「紹介」というべきか「たらい回し」というべきか、案内されてくるものが多いとのことでした。
 しかしあくまで、公証役場では家族信託の簡単な説明で終わってしまうのみで、実際にそこから組成に進むケースはほぼ無いというお話でした。

 そう言われてみれば、以前私も各専門家の先生方とお話をしていた際のことを思い出しました。
ある弁護士の先生からは、
「家族信託は、報酬が割に合わないから、まずは司法書士の先生を紹介する」
と、聞いたことがあります。また、ある司法書士の先生からは
「家族信託は手間がかかりすぎるから、任意後見を薦めたほうが早い」
とも耳にしました。

 家族信託は、確かに事前の詳しい説明や、後見制度との違いを伝えた上での判断を仰いだり、方向性が決まったら決まったで、受託者の役割や今後必要な手順などを細かに説明したりと、スタートラインに着くまでの時間や労力がかなりかかります。
 親子が離れた場所で暮らしていたり、生活の時間帯が違ったりすると、一同まとめて話し合うというわけにもいかず、親側と子側それぞれに日を替え、場所を替え、別々に説明をしなくてはならなかったり……。
「コーディネーターだから」という役割があるからこそ、時間をかけてその役目を担っていますが、契約書を作ったり実務でお忙しい先生方がその対応をするのは、実際大変だろうなとあらためて感じた出来事でした。
 先生方には契約書作成に集中していただき、その前の説明や打合せ・ご相談者のフォローなど、言葉は適切ではないですが、”大変な”部分の前さばきをしっかりと務めるのが私たちコーディネーターの役目だと、襟を正す気持ちになったある日の公証役場での出来事でした。

簡略化されたパッケージ信託に対抗できるのか?

 先日相続コンサルタント仲間から
「こっちの方が断然楽ですよね」
とシンプルな組成パッケージの紹介がありました。

 各金融機関や各種サービス機関が、家族信託と自社サービスのタイアップで新しい商品を運用しているのは以前からよく聞いていましたが、日頃から信託口口座開設でお世話になっている某ネット系銀行も、信託財産を金銭のみとする「家族信託プラン」を提供しているということで、その仲間は今後それを利用して、家族信託部分のコーディネーターとしての役割は手放そうということらしいのです。

信託口口座開設には費用が10万円程度かかりますが、
・コンサルティング
・契約書作成
・契約締結
を支援する司法書士の報酬は3万円程度で完結するプランらしいと紹介されました。

 この報酬で司法書士の先生が、家族信託コンサルティング・契約書作成・契約締結までの支援をしてくださるとは、とても驚きですが、ご相談者としては費用面の魅力大だと思います。
 ネット系金融機関の商品なので、もしかすると対面での面談や打合せは割愛で、「それぞれ必要事項にチェックを入れていってください」といった専用フォームでの記入・確認のやりとりでほぼ自動的に契約書が作成されていくような感じなのでしょうか?

 私はまだちょっと勉強不足で、その商品の詳細は把握できていませんが、お客様にとって費用を抑えられるという点ではありがたいパッケージプランだなと思います。と同時に、現状私たちコーディネーターと専門士の先生方が組んで丁寧に時間をかけて仕上げている家族信託が、今後は「安くて簡単」という金融機関のパッケージサービスに代わってしまうのか? という心配な面も……。

 しかし、10組のご家族があれば、10通りの家族信託があるのは事実で、今は仲が良くても将来どんなボタンの掛け違いで家族間に紛争性が出てくるかは誰にもわかりません。詳しく状況をヒアリングすることで初めて見えてくる問題点が発覚したり、また、家族信託だけがゴールではなく、遺言をはじめその他の手続きのお手伝いする必要性が出てくるのも日常茶飯事で、そこに更に税理士の先生のお力を借りたり、不動産関係の方・保険業界の方のアドバイスも必要になったりしてきます。
 そんないろんな関係者の方々とご相談者の間に入って、家族信託だけでなく相続対策全般をコーディネートしていくのが私たちの役目ですね。
 デジタル化された簡略サービスでは不安と思われるご相談者もいらっしゃる以上、地味ではありますが、これからも心を込めて組成のお手伝いをしていくのが使命だなと、コーディネーターの役割の意味を今一度再認識することができました。

 

 前回の記事の執筆から数ヶ月。その間に協業して下さる士業の先生がまた増えました。本当に心強い限りです。先生方によっては組成の進め方やお客様への対応の仕方は違いますが、家族信託普及協会の「コーディネーター」という役割を理解くだ下さっている先生方と組ませていただくのはとてもスムーズでお客様の満足度も高いです。
 普及協会の専門士の先生方、今後ともどうぞ宜しくお願い致します。