※当記事は2025年1月の内容です。
公証役場当日を迎え
家族信託や遺言の長くかかった組成を経て、無事公証役場手続きにたどり着くとほっとします。
数日前までには、関わってくださった士業の先生を含めて念入りにご家族と読み合わせをし、今後の受託者の役割りなども確認していただきます。 また私たちコーディネーターは前日にもお持物等の確認や待ち合わせ場所や時間の確認をして、その日に備えます。
そして当日は、公証役場の近くのカフェで1時間前にお客様と合流するようにしています。
この際は士業の先生は同席していただかず、手続き当日のご案内役という意味で、私の方で対応させていただいています。
以前は公証役場での待ち時間に現地で直前確認をしていたのですが、初めて足を踏み入れる「公証役場」という場所に、お客様はこちらが思っている以上に緊張されていて、どうもその場では頭に入りづらいというお声もあり、最近では1時間前カフェ待ち合わせをすることが多くなりました。
まずはあらためてお持物の確認をして、公証役場での手続きの流れを説明します。
そして信託や遺言の内容を再度確認して、質疑応答の練習をするのですが、頭では理解されていてもちょっと質問の仕方や聞き方が変わってしまうと途端に答えられなくなるのは、緊張しているというだけではないかもしれません。
例えば「自宅横の空地は誰にあげますか?」と聞かれるとすぐに答えられるものの、「地番○○の雑種地はどう相続しますか?」と聞かれると急に答えられなくなってしまうようなケースがよくあります。
やはり日頃聞きなれていない言葉のやり取りは、特にご高齢者には難しく聞こえてしまうようで、いろいろな質問パターンに対応できるよう質疑応答練習をしていきます。
また、「もしかすると公証人からこんなことを言われることがあるかもしれませんが……」というケースも想定してお伝えしています。
当日この場に及んで、
「本当に家族信託でいいんですか? 任意後見にした方がいいのではないですか?」
と念を押してこられる公証人がいらっしゃいます。関東では出会ったことがありませんが、家族信託がまだまだ後進の九州では、残念ながら時々あります。
後見制度と信託の説明と、メリット・デメリットのお話も済ませた上で、家族会議で皆さんが選択された家族信託の公証役場手続きのその場で、こんな質問が飛んでくることもあるので、お客様が驚かないように、前もって心の準備をしていただいています。
今、この原稿を書きながらふと気がついたのですが、公証人からみた「家族信託コーディネーター」という肩書は、もしかすると、
「家族信託をぐいぐい勧める人」
「家族信託を売り込むセールス」
のように映っているのかもしれません。
あるいは、危機管理ということでしょうか。お立場上、ご自分でも念を押して後見制度でなくて本当によいのかを確かめられているのかもしれません。ただ、お客様は、「え? 本当に家族信託で良かったのかな?」と急に若干不安な表情をされるのが残念です。
繰り返しますが、ちゃんと後見制度も説明していますし、お客様が納得の上で家族信託を選択していますので、当日ひっくり返そうとされるのは、できれば避けていただけると嬉しいです。
一方でこの時間を、温かくほっこり「家族信託とは」とお話をまとめて下さる公証人の先生には本当に感謝です。公証役場を出る際に「家族信託が無事完成して良かったです!」と一点の曇りもなくお客様が喜ばれるのはこんな公証人の先生に当たった時です。
絶対にそれだけは言わないで
質疑応答ロールプレイングでは完璧に答えてくださる委託者たるご高齢者ですが、時々ポロっとつい口にする
「もう歳なんで 何もわからんのですよ」。
……とにかくこれだけは言わないようにしてほしいと、1時間前のカフェでの事前すり合わせでは念を押すものの、実際公証人から質問された際に、つい
「もう歳なんでね、 よく わからんのですよ」
と、満面の笑みで応えてしまうことがたまにあります。
一瞬凍り付きますが、カフェの和やかな練習を思い出してくださるのか、今のところ一度も失敗に終わってないのはありがたい限りです。
ぽろっと口から出る「よくわからん」。毎日冷や冷やする、公証役場立会いでの醍醐味です。
士業の先生への連携
公証役場での手続きには、遺言の証人として立ち会っていただく以外は、士業の先生の同行は毎回必ずではありません。
「担当司法書士に代わり、コーディネーターが本日お手続きに立ち会わせていただきました」
ということで、特に今のところは支障は出ていません。
手続き終了後には、速やかに専門士の先生に終了報告を入れ、お客様には今後の流れと受託者の方への役割りの再確認(この際に家族信託普及協会の「受託者ハンドブック」がとても役立っています)をして、その足で信託口口座開設の銀行に同行しています。
ここでも連携の士業の先生は、金融機関と事前のやり取りを完璧に済ませてくださっているので、当日の同行は特に必要ないということで、コーディネーターが窓口手続きのフォローしています。
その待ち時間には、公正証書のPDFを司法書士の先生に送り、その間に法務局の手続きをしていただく流れで、連携は非常にスムーズにいっているように感じていますが、全国の他のコーディネーターの方々は当日はどんな動きをされているのでしょうか?
もちろん、公証役場も銀行も比較的近い場所にある場合は、連携士業の先生にも一緒に同行していただくこともありますが、遠方でオンライン打合せにて進めた場合は、このケースが割と多いです。
コーディネート部分の報酬を按分して協業していただくからには、連携士業の先生の右腕となり、事前準備と前さばきをしながら、こちらでできるエスコート部分はコーディネーターの役目かと思いながら動いています。
このコーディネーターとの協業に理解ある士業の先生は、残念ながら多くはなく、時々痛い目に遭うこともありますが、家族信託普及協会に所属していらっしゃる先生方はその点とても分かってくださっているので、本当にありがたいことです。
他のコーディネーターの方々も私と同じような悩みや苦労を感じながら活動されているのだろうか?と想いを巡らせながら、昨年もいろいろなケースの家族信託を経験することができました。
日々進化している「家族信託」に置いて行かれないよう、協会の「フォロー研修」は毎回貴重な学びの場となっています。