※当記事は2023年10月の内容です。
コーディネーターとしての役割
コーディネーターの役割といっても、周囲にコーディネーターとして指導を仰ぐ先輩もおらず、さて何からどう関わっていけばよいのやらがわからなかった当初は、相続案件を受注する単なる営業だったと記憶しています。しかもほぼ認知症対策にターゲットを絞ったセミナー開催等が中心で、その名の通り「家族信託の普及活動」が主な役目だと思ってやっていました。
そしてご相談者の「認知症対策をしたい」というご希望の先に、後見制度と家族信託の違いを説明したり、親側・子側またはそのご家族に家族信託の仕組みをご案内する。
コーディネーターとは「家族信託のスタートラインに就かせてあげる役目」であると自覚し活動をしていました。
士業の方々が「そこに時間を割けていられない」と言われるここの部分は、確かに一番エネルギーを費やすところです。また、国家資格を持たず、バッジのない私たちからの説明は時に「新手の詐欺師」と疑われることもあり、まずは信頼を得るために随分苦労するこの役割は、コーディネーターの皆さん同じ悩みをお持ちなのではないでしょうか。
受任後の役割は、それぞれのお客様に適任と思われる士業の方を選び、共に組成に入って行くわけですが、ご家族の相続対策は、単なる認知症対策だけでないケースがほとんどでしょうから、現在の私の受任は、家族信託のコーディネートに限定せず、「相続対策全般」ということで受けています。巷にあふれる「ワンストップサービス」とやらを、各専門家にたらい回しにせずに、責任持って最後まで中核のプロデューサーとして関わっていく、そういう立場でお客様のゴールまでご一緒しています。そんな中、実際の現場における最近の気づきをいくつかご紹介させていただきましょう。
預金の総額ではなく内容でびっくり
ご相談を受ける際は、ご相談者の財産額等は一切お聞きしないで進めています。相続税がかかりそうかどうかは、ちらっとお尋ねしますが、預金の金額や不動産の価値についても全く触れません。先述の通り、私たちコーディネーターは時に怪しい者と警戒されるので、財産を狙っていると思われたくない点と、財産の大きさで受任の熱意を変えたくない点からそうしています。
しかし、正式に相続対策全般のコンサル受任をした後は、もちろん具体的な財産をお尋ねし、財産目録までをコーディネーター側で作成してから、税理士はじめ専門士業に詳細をお繋ぎするという流れです。家族信託組成前の下地となる部分でしょうか。
先日80代―60代親子案件の財産目録を作っていた際に驚いたことがありました。
ある金融機関に普通預金口座が一つ、そして定期預金口座が38口もありました。しかも全て定期預金「証書」という形でお持ちという状況でした。聞くと、金融機関の外商さんが年に2,3度定期預金のお願いに来られて、その度お付き合いで定期預金証書を作っていたということでした。もちろんネットバンキング等で自由に動かせる状態であるはずもなく、この先は、ご高齢のご本人が窓口で38回手続きをしなくては解約できない口座です。 認知症になった際も困るでしょうが、対策無しで相続が発生した場合もさぞやご家族の手続き大変なことになるところでした。
信託財産として信託口口座へ移す前に、早速親子で定期証書預金の解約手続きに行っていただきましたが、82歳のお母様、同じ書類を38枚書かされてかなりぐったりされていました。けれどもこのタイミングで手続きできたことは不幸中の幸いだったかもしれません。
財産の中身を丁寧に拝見して財産目録を作成することの大切さを噛みしめると共に、税理士に出す前に、中身の分析をして下さるファイナンシャルプランナーの方にいつも感謝です。
「全体の金額だけでなく、内容を確認して差し上げること」はこれからも労を惜しまずにいたいと思います。
へんてこな保険商品をもっている高齢者
財産目録を作る上で、お持ちの保険商品もしっかり確認をして差し上げるようにしています。と言っても、私自身は保険の知識がほとんど無く、特定の保険会社との結びつきもありませんので、純粋に俯瞰的に確認できる立場であることはお客様からは喜んでいただける点ではあるかもしれません。私は内容がわからないので、元保険会社のFPの方に分析していただくことが多いのですが、首をかしげたくなるような保険に入っている高齢者がとても多いです。
92歳のお母様がお持ちだった生命保険です。
60代の息子さんが亡くなったら、お母様が保険金を受け取れるという内容の生命保険に入っていました。保険の担当者からは相続対策と聞いて以前加入したとおっしゃっていましたが、保険の非課税枠は消化できていないまま、変な保険をお持ちであることをお伝えさせていただきました。FPさんに解説してもらいましたが、保険会社の営業マンが、なんとか保険契約を獲得する為に、「敢えてまだ保険に入れる息子さんの身体を被保険者に充てた」という保険だったということは、私にとってもとても勉強になりました。このお客様は、早速そのへんてこな保険を解約されて、ご自分の施設入居の一時金として充てられました。
財産目録を作成する時、保険の内容にも目を光らせて差し上げることは、相続対策全般のお手伝いをする中では、手の抜けない部分だと思い知りました。もちろんここで、保険の非課税枠を使っていないお客様にはきちんと保険のお話もしますが、ここは私の専門外。信頼のおける保険パーソンが周りにたくさんいますので、お客様のカラーに合った保険の方をお繋ぎします。
・・・と言っても、お繋ぎして保険パーソンから、ここでまさかのへんてこな保険商品を営業されると困るので、了承の上で同席させていただき、横でしっかりと「本当にそれは相続に必要な保険なのか?」を聞きながらお客様をお守りしています。
下地を整え信託組成へ
ひとまず作成した財産目録を、ファイナンシャルプランナーや税理士に目を通してもらい、お客様と信託の具体的な内容のお打ち合わせに入りますが、始まったら始まったで、また色々な問題に直面します。
一番大きいのは士業の方々を誰に入っていただくかが悩みどころではありますが、その先の公証役場も対応が大きく違ってきますし、毎回はらはらしながら日々勉強です。オンラインの普及により、士業の方々もあらゆる面で柔軟に合わせて下さる方が増えてきて、そこは本当に助かっています。コーディネーターの役割を理解下さり、一緒に組もうと言って下さる士業の方が声をかけて下さるようになり、有難いかぎりです。
また次回、コーディネーターとしての失敗談や実際に困ったケースをご紹介しながら、お恥ずかしい部分も惜しみなくシェアできれば幸いです。