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一般公開

#家族信託~税理士の視点から

第9回 受益者連続型信託の受益権の放棄の留意点

一般公開期間:2025年4月1日~6月30日

※当記事は2025年4月の内容です。

【本稿の論点と留意ポイント】

○ 家族信託の組成にあたり、相続税を予想する必要があります。
○ 相続が発生してから受益者の変更をすることは、法務と税務で不確定要素があります。
○ 受益権の放棄に関しては、一定のルールがありますが、むずかしい問題点があります。
○ 特に税務処理に関しては、いまだ未成熟な部分があり、解釈が明確でない点があります。
○ 信託の組成にあたっては、出口をよく熟慮して、受益権の放棄は避けるように設計します。
○ 信託終了時の帰属権利者は明確に決めて、別の信託契約にするか、事前に割合も決定します。

 受益権の放棄は法律上、税務上に渡って議論が多くあるところです。
 特に税務処理に関してはまだまだ成熟していません。
 信託を組成する際には、将来に受益者が受益権放棄をすることがないように、十分ご留意ください。

 本稿の概要  ◎ 事例によりイメージ
◎ 税理士がはいって相続税を計算した
◎ 検討1 相続税及び贈与税の課税関係を考える場合の信託の内容の検討
◎ 検討2 受益権の放棄とその課税関係
◎ 検討3 受益権の放棄により信託が終了するか
◎ 紹介 遺言と異なる遺産分割協議 税務の考え方
◎ ちょっと脱線 信託の放棄の時期
◎ 検討4 信託終了時の課税関係の整理
◎ 検討5 帰属権利者の取得の考え方

【事例によりイメージ】

1.信託契約の締結

 平成30年10月に、公正証書により、委託者父甲は、長男である受託者乙に対し、不動産及び金銭等金融資産を信託財産として管理処分することを信託し、受託者乙はこれを引き受けた。

2.信託契約の主な内容

 (1) 本件の信託の当事者及びその身分関係等は、下記のとおり。

 信託財産は①委託者甲及び妻丙の居住用家屋及びその敷地(以下「本件①土地という。)、②長男乙の居住用家屋の敷地(以下「本件②土地という。)、これらの土地を併せて以下「本件各土地」という。)に分かれており、本件信託の清算に当たって、長男乙は、本件①土地の取得を希望し、長女丁は本件②土地の取得を希望している。

(2) 目的
 受託者が本件信託財産を管理、運用、処分することにより、受益者の生活を支援し、もって受益者の福祉を確保することを目的とする。

(3) 信託財産
 本件信託財産のほか、委託者及び受託者と協議の上、追加された金銭及び本件信託財産から生じる利息その他の果実を含むものとする。

(4) 委託者及び受益者
 委託者及び当初受益者(以下第一受益者という。)は甲とする。

(5) 受託者
 受託者は甲の長男乙とする。

(6) 第二次受益者
 本件信託の受益権は、相続によっては承継されないものとし、第一受益者が死亡した場合の受益権は消滅し、第二受益者として第一受益者の妻である丙が新たな受益権を取得する。委託者の地位は、相続により承継しない。

(7) 信託の終了
 本件信託は、委託者、受託者及び受益者の合意により、将来に向かってこれを終了させることができるほか、次に掲げる事由により終了する。

① 委託者及び受益者並びに第二受益者のいずれもが死亡したとき
② 信託財産が消滅したとき
③ その他法定の終了事由に該当するとき

(8) 本件信託は、委託者、受託者及び受益者の合意により、これを変更することができる。

(9) 信託終了時の受託者を清算受託者として指定する。

(10) 残余財産の帰属
 本件信託が終了したときは、残余の信託財産は、第一受益者である甲に帰属する。ただし、委託者及び受益者が死亡したときは、残余の信託財産は、甲及び丙の相続人である長男乙、長女丁(以下これらを併せて「本件各帰属権利者」という。)に帰属する。

(11) 本契約に記載のない事項は、受託者及び受益者が協議の上で決定する。

3.契約の経緯等

 本件の信託契約は、配偶者の財産も多額にある状況で、弁護士主導により、二次相続に係る相続税等も試算することなく諸々決められました。委託者甲の相続開始後に税理士が配偶者の相続も考慮した相続税を計算しました。そこでは、配偶者丙は財産を取得しないで、長男乙と長女丁が取得した方が、配偶者丙の第二次相続をも考慮すると軽減されることが判明しました。
 税理士を含めた甲の相続人乙、丙、丁で相談したところ、第二次受益者丙が受益権を放棄して、配偶者が財産を取得しない方が良いという判断に至りました。

【税理士がはいって相続税を計算した】

 丙が受益権を放棄した場合の課税関係を検討する。
 第二受益者として指定された被相続人甲の妻丙が、受益権を放棄した場合、信託法99条《受益権の放棄》2項に規定する遡及効により、妻丙は最初から受益権を承継していないことになると考えられるのではないか。その結果として、本件の信託は、受益権の承継者の指定が無い状態になり、第一受益者の法定相続人が受益権を引き継ぐ権利を持つことになるのではないか。その場合、改めて、第一受益者の法定相続人が協議により第二受益者を定めることができると考えることはできないか。

【検討1 相続税及び贈与税の課税関係を考える場合の信託の内容の検討】

 本件の信託契約によると、第一受益者が死亡したときは、第一受益者が有する受益権は消滅し、第二受益者として委託者甲の妻丙が新たに受益権を取得する旨が定められていることから、本件の信託は、信託法91条の《受益者の死亡により他の者が新たに受益権を取得する旨の定めのある信託の特例》に規定する信託、すなわち、相続税法9条の3第1項に規定する受益者連続型信託に該当すると解されます。

【検討2 受益権の放棄とその課税関係】

 1.第二受益者である妻丙が受益権を放棄することが可能かどうかについて、信託法は、受益権の放棄を認めています(同99条1項)。この場合、信託法上は、受益者は、当初から受益権を有していなかったものとみなされることになります(遡及的放棄、同条2項)。

信託法第99条
① 受益者は、受託者に対し、受益権を放棄する旨の意思表示をすることができる。ただし、受益者が信託行為の当事者である場合は、この限りでない。
② 受益者は、前項の規定による意思表示をしたときは、当初から受益権を有していなかったものとみなす。ただし、第三者の権利を害することはできない。

2.一方、受益権を放棄した場合の放棄した者の課税についてみると、大きくは次の二つの考え方があります。
① 受益権放棄の遡及効を認めるもので、妻丙は、当初から受益権を有していなかったとみなされることになるため、相続放棄と同様に、妻丙に対する相続税の課税は発生しないと考える説
② 受益権放棄の遡及効は、信託法上の規定であって、受益権を放棄した妻丙に対する課税関係は、相続税法の規定に従って行われることになるので、第一受益者である甲が既に死亡している以上、第二受益者である妻丙に対して相続税法9条の2第2項の規定によって相続税が課税されることになるとする説

★ 詳細は【検討4 信託終了時の課税関係整理】参照のこと

3.妻丙による受益権の放棄によって本件の信託は、受益者がいないことになると考えられますが、その場合、本件信託は終了するか否かが問題となります。

【検討3 受益権の放棄により信託が終了するか】

★ 税務の検討では、信託が終了するとして検討を進めますが、終了しないとする考え方もあり、こちらも検討を加えておきます。

①終了する場合、②終了しない場合に分けて検討します。

(1) 信託が終了するという考え方
 本信託の目的は受益者の福祉という点からすると、信託目的の不達成として信託が終了したと判断することもできます。信託が終了するとした場合、残余財産の帰属権利者である乙と丁は、信託契約の内容に従って残余財産を取得することになりますが、これは相続税法9条の2第4項によって受益権を放棄した妻丙から贈与により取得したものとみなされる可能性があります。

★ 詳細は【検討5 帰属権利者の取得の考え方】参照のこと

(2) 信託は終了しないという考え方
 受益権の放棄によって、受益者等が存在しない信託となるため、法人税法2条《定義》29号の2のロの規定によって、法人課税信託となり、受託者である長男乙に対して法人税が課税されることになると考えられます。第二受益者である妻丙の受益権の放棄によって本件の信託は、受益者がいないことになると考えられますが、その場合に信託が終了しないときには、第一受益者の法定相続人が妻丙の受益権を引き継ぐ権利を持つことになるわけではありません。したがって、改めて、第一受益者の法定相続人が協議により第二受益者を定めることができると考えることはできないと思われます。

(3) 法人課税信託とされた場合
 この場合、具体的には、法人税法4条の2《法人課税信託の受託者に関するこの法律の適用》の規定によって信託財産に属する資産及び負債は、信託の受託者に帰属するものとして信託の受託者である長男乙に対して法人税が課税されることになります。
 また、受託者長男乙は、法人税に加えて、相続税法9条の4《受益者等が存しない信託等の特例》第2項の規定によって妻丙から信託受益権を贈与により取得したものとみなされ、贈与税が課税されることになりますが、この場合に受託者に課される贈与税の額については、相続税法9条の4第4項の規定により、受託者に課されるべき法人税相当額を控除して計算することになります。
 受益者等が存しない信託に対する法人課税信託は、信託法の改正により、税法上の信託財産に属する資産を有するものとみなされる者(受益者等)が存しない信託が存在しうることになり、所得税法や法人税法上信託財産に属する資産を有するものとみなされる者が存しない信託であっても、信託からの所得は生ずることから、これに対して何ら課税しないということは適当でないため、一義的な所得や財産の帰属主体である受託者に対し、法人税を課税しようとする趣旨のものと解されます。
 また、相続税法9条の4の規定は、租税回避防止措置として規定されたものであり、受益者等が存しない信託に対して法人課税信託として法人税が課税されることになった場合であっても、このような制度を利用して、相続税(最高税率55%)よりも税負担の軽い法人税(実効税率約35%)の負担で課税関係を終了させようとする租税回避が行われた場合には、受託者に課される法人税等に加えて相続税又は贈与税を課税しようとする趣旨のものと解されるます。ただし、この場合、法人税と相続税又は贈与税の双方が受託者に課されることになることから、これを避けるため、受託者に課されるべき法人税の額に相当する額を控除して相続税額又は贈与税額を計算することとしたものと解されます。

【紹介 遺言と異なる遺産分割協議 税務の考え方】

1.遺言と異なる遺産分割協議

 共同相続人により、遺言書の内容と異なる遺産の分割が行われた場合、いったん遺言に基づいた相続税が課税され、その後に再分割の贈与税が課税されるかという論点があります。実務では結構頻繁に起こります。
 民法上は共同相続人全員が合意すれば、遺産分割協議の全部または一部を解除して、改めて遺産分割協議をすることができるとされています(最高裁平成2年9月27日判決)。また、遺産分割協議の合意解除と再分割は、相続開始時に遡及する法的効果があると考えられるます(民法909条)。
 協議による遺産の分割は被相続人が遺言で禁じた場合を除く外、共同相続人は何時でも分割することができる(民法907)ところから、贈与税の課税が生じないような実務上の対応が行われています。これは、国税庁の質疑応答事例にも明確に記載されています。

国税庁質疑応答事例 (下線筆者)
 相続人全員の協議で遺言書の内容と異なる遺産の分割をしたということは(仮に放棄の手続がされていなくても)、包括受遺者である丙が包括遺贈を事実上放棄し(この場合、丙は相続人としての権利・義務は有しています。)、共同相続人間で遺産分割が行われたとみて差し支えありません。
 したがって、照会の場合には、原則として贈与税の課税は生じないことになります。

国税庁ホームページ【遺言書の内容と異なる遺産の分割と贈与税】

2.分割のやり直しとされた場合の税務

 上記のこととは異なり、当初の遺産分割などにより取得した財産について、各人に具体的に帰属した財産を分割のやり直しとして再配分した場合には、一般的には、共同相続人間の自由な意思に基づく贈与又は交換等を意図して行われるものであることから、その意思に従って贈与又は交換等その態様に応じて贈与税又は譲渡所得等の所得税の課税関係が生ずることとなります。
 このことは、相続税法基本通達でも明確にされています。

平成22年3月2日付、名古屋国税局審理課文書回答事例 (下線筆者)
 協議による遺産の分割は被相続人が遺言で禁じた場合を除く外、何時でもすることができるところ(民法907)、相続税法基本通達19の2-8は「法第19条の2第2項に規定する『分割』とは、相続開始後において相続又は包括遺贈により取得した財産を現実に共同相続人又は包括受遺者に分属させることをいい、その分割の方法が現物分割、代償分割若しくは換価分割であるか、またその分割の手続が協議、調停若しくは審判による分割であるかを問わないのであるから留意する。ただし、当初の分割により共同相続人又は包括受遺者に分属した財産を分割のやり直しとして再配分した場合には、その再配分により取得した財産は、同項に規定する分割により取得したものとはならないのであるから留意する。」ことを明らかにしています。
 このため、当初の遺産分割などにより取得した財産について、各人に具体的に帰属した財産を分割のやり直しとして再配分した場合には、一般的には、共同相続人間の自由な意思に基づく贈与又は交換等を意図して行われるものであることから、その意思に従って贈与又は交換等その態様に応じて贈与税又は譲渡所得等の所得税の課税関係が生ずることとなります。

国税庁ホームページ【事前照会者の求める見解となることの理由】
相続税法基本通達19の2-8 分割の意義
 法第19条の2第2項に規定する「分割」とは、相続開始後において相続又は包括遺贈により取得し財産を現実に共同相続人又は包括受遺者に分属させることをいい、その分割の方法が現物分割、代償分割若しくは換価分割であるか、またその分割の手続が協議、調停若しくは審判による分割であるかを問わないのであるから留意する。
 ただし、当初の分割により共同相続人又は包括受遺者に分属した財産を分割のやり直しとして再配分した場合には、その再配分により取得した財産は、同項に規定する分割により取得したものとはならないのであるから留意する。

ここでのポイントは、財産を共同相続人等に「分属」をしたかどうかということになります。

【ちょっと脱線 信託の放棄の時期】

 受益権の放棄の意思表示は(信託法第99条1項)は、時期に関係なく、受益した既履行分は不当利益として、返還すればよいとされています(条解信託法495、496ページ)。

信託法第99条
① 受益者は、受託者に対し、受益権を放棄する旨の意思表示をすることができる。ただし、受益者が信託行為の当事者である場合は、この限りでない。
② 受益者は、前項の規定による意思表示をしたときは、当初から受益権を有していなかったものとみなす。ただし、第三者の権利を害することはできない。

 時期に関係なく放棄の意思表示が可能ならば、著しく税務処理が不安定となってしまいます。受益者が使用収益を享受していたり、信託に関する行使をした後で、放棄をされてしまうと、課税の機会を逃してしまうので、税務では受益権の放棄は認められず、いったん信託行為により課税をするということになってしまいます。
 「遺言と異なる遺産分割協議」の共通点として、事実認定が問題となる場面です。

【検討4 信託終了時の課税関係の整理】

1.受益権の放棄による課税

(1) 相続税と贈与税が課税されるという考え方
 相続税法第9条の2第2項により、当初受益者から第二次受益者への相続税課税、帰属権利者への贈与税課税が生じると考えられます。信託法第88条第1項により、第二次受益者は当然に受益権を取得することとなり、この段階で第二次受益者は適正な対価を負担せずに受益者としての権利を現に有する者に該当することとなります。

信託法(受益権の取得)第88条
 信託行為の定めにより受益者となるべき者として指定された者(次条第一項に規定する受益者指定権等の行使により受益者又は変更後の受益者として指定された者を含む。)は、当然に受益権を取得する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
2 受託者は、前項に規定する受益者となるべき者として指定された者が同項の規定により受益権を取得したことを知らないときは、その者に対し、遅滞なく、その旨を通知しなければならない。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。

 信託法第99条において、受益者は受益権を放棄する旨の意思表示ができるとされ、その場合には当初から受益権を有していなかったものとみなされますが、税務上は一度確定した財産の帰属を、当事者の任意で変更する場合には別途の課税関係が生じるものと考えられます。規定上も、別途の課税関係で整理せざるをえないと考えられます。

信託法 第99条
 受益者は、受託者に対し、受益権を放棄する旨の意思表示をすることができる。ただし、受益者が信託行為の当事者である場合は、この限りでない。
2 受益者は、前項の規定による意思表示をしたときは、当初から受益権を有していなかったものとみなす。ただし、第三者の権利を害することはできない。

(2) みなし遺贈の課税(相続税)だけという考え方
 第一受益者から帰属権利者へのみなし遺贈と整理できるかという論点です。
 相続税法第9条の2第2項において贈与税(または相続税)の課税が生じるのは、「新たに当該信託の受益者等が存するに至った場合」、「当該受益者等が存するに至った時」、「当該信託の受益者等となる者」に対してであり、第二次受益者が「受益者としての権利を現に有する者」に該当せず、信託法上も受益者等が存するに至っていない状況であれば、第二次受益者に対する相続税課税は生じず、当初受益者から遺贈により取得したものとみなして帰属権利者に対する相続税課税として整理できる余地はあると考えられます。
 第二次受益者が、第一受益者死亡により「受益者としての権利を現に有する者」や「信託に関する権利について新たに利益を受けることとなるとき」に該当しないよう、信託法第88条第1項ただし書きの別段の定めにおいて、第二次受益者が当然に受益権を取得せずに、第二次受益者の受諾を必要とするように定められれば、第二次受益者が受諾しない限りは、第二次受益者に対する相続税課税は生じず、第一受益者から帰属権利者へのみなし遺贈(相続税課税)で整理可能と考えられます。

2.信託終了時の帰属権利者への課税

 信託契約を結ぶ際に、残りの信託財産をどの帰属権利者に帰属させるのかを定めておくことができます。
 そして帰属権利者を複数として、それぞれの帰属権利者が信託財産の共有持分を取得すると規定することは可能です。ただし、この場合、共有持分は確定してしまいますので(共有持分を予め決めておかない場合には、各帰属権利者の持分は均等とされます。)、帰属権利者1人の持分を他の帰属権利者に移す場合には持分を譲渡することになります。この際、譲渡にあたって課税関係が発生する可能性がありますので、税務面についても留意が必要となります。

【検討5 帰属権利者の取得の考え方】

 最終的な信託財産である本件土地の取得にあたっては、長男乙は本件②土地を、長女丁は本件①土地を取得することを希望しています。なお、この本件①土地と本件②土地は価額に差があり、長男乙と長女丁とは不平等ですが、協議によりそれでよいと承諾をしています。
 実務では以下のふたとおりの見解があるようですが、本稿では両方の見解を紹介するに止めることにします。実務では、信託法の解釈とともに税務処理が伴いますので、慎重に帰属権利者の条項を定めておく必要があるのではないかと思われます。

1.帰属権利者の取得は共有財産となるという見解

 複数の帰属権利者が指定されていた場合における各帰属権利者が取得する権利各帰属権利者は、信託契約に基づき、信託財産に属していた不動産の給付を受けることになります。そして各帰属権利者は、当該不動産に関して共有持分を取得することになり、これは遺産共有ではありません。
 この共有状態を解消する場合には、共有物分割の手続が必要となります。なお、帰属割合が明記されていなかった場合には、各帰属権利者の共有持分は相等しいものと推定されます(民法264条・250条)。
 そこで、本件に当てはめると、信託財産は信託の終了とともに共有となり、信託契約に定めがないため、等分の共有関係として相続税が課せられると考えられます。そしてその後に各々の共有持分から財産の帰属を変更した場合には、共有物が分割されものとして、課税関係が生じるものと考えられます。

2.各帰属権利者が協議により取得可能とする見解

 本件のように帰属権利者が複数あり、それぞれの帰属権利者としての権利の割合が定められていない場合に、信託に係る残余財産を清算受託者と帰属権利者の協議により清算受託者から引き渡しを受けたときには、以下のような考えもあるところです。

① 相続における遺産分割と同様に考えて、各帰属権利者が実際に取得した財産については、それぞれが遺贈により取得したものとみなして相続税が課税される
② その信託に係る残余財産は、遺贈により各受益者が等分で取得したものとみなして相続税が課税されることになる
③ また、②の場合に各帰属権利者間の残余財産の分割の協議は、共有物分割や交換に関する契約と捉えて新たな課税関係が発生することになる
④ 各帰属権利者が取得した財産の価額に差が生じた場合は、その差額相当額については、新たに贈与税が課税されることになる。

 信託法182条1項2号によると、信託が終了した場合のその信託に係る残余財産は、帰属権利者となるべき者として指定された者に帰属する旨規定しており、その者が複数いる場合に、それぞれの者の帰属割合が定められていないときには、それらの者は、その残余財産を等分の割合で取得することになったと考えられないわけではありません。
 しかし、信託法2条《定義》6項は、「受益者」とは、受益権を有する者をいう旨、また同条7項は、「受益権」とは、信託行為に基づいて受託者が受益者に対し負う債務であって信託財産に属する財産の引渡しその他の信託財産に係る給付をすべきものに係る債権(以下「受益債権」という。)及びこれを確保するためにこの法律の規定に基づいて受託者その他の者に対し一定の行為を求めることができる権利(以下「受益債権を確保するための権利」という。)をいう旨規定しており、信託の清算中、受益者とみなされる帰属権利者の有する権利は、①受益債権及び②受益債権を確保するための権利であって、信託に係る残余財産を直接所有する権利ではないと解されます。
 そして、本件信託契約《契約に定めのない事項》では、本件信託契約に記載のない事項は、受託者及び受益者が協議の上決定する旨定めており、また、本件信託契約の委託者及び受益者が死亡したときは、残余の信託財産は、本件各帰属権利者に帰属する旨の条項は、本件信託に係る残余財産を本件各帰属権利者に対して等分の割合で取得させる趣旨のものではなく、本件信託に係る残余財産の帰属権利者間及び清算受託者の間の協議に委ねる趣旨のものと解されます。 そうすると、清算受託者兼帰属権利者である長男乙並びに清算中は受益者とみなされる帰属権利者である長女丁の協議により、それぞれ取得する旨を決定したときには、本件各帰属権利者が清算受託者である長男乙から引渡しを受けることになった信託財産については、いずれも本件信託に係る第二受益者(二次相続に係る被相続人)から本件各帰属権利者がその協議に基づき遺贈によって取得したものとみなして、相続税が課税されると解するのが相当であると考えられます。