※当記事は2026年1月の内容です。
受託者の権限と「信託財産の管理の方法」
信託登記実務上、「信託財産の管理の方法」として記載されるのは受託者の権限です。更には、受託者の権限に対する制約です。所有権移転や抵当権設定などの将来の信託財産の処分に基づく登記申請を想定して、受託者の積極的権限、そして、権限に対する制限を記載します。その意味では最重要の登記事項の一つであると言うことができます。この受託者の権限に関する信託条項は、信託の目的との整合性がとれていることが重要です。
でも、皆さんは、どうして、不動産登記法97条1項9号の「信託財産の管理の方法」が、他の諸々の信託財産の管理方法に関連する信託条項を差し置いて、「受託者の権限」あるいは「受託者の権限に対する制約」に関する信託条項を意味することになるのか、疑問に思いませんか。その答えについては、この連載の中心的なテーマの一つとして議論をしていくことになるのですが、皆さんにも素朴な疑問を大切にして、考えてほしいと思います。
信託の終了事由に関する定め
不動産登記法97条1項10号は、信託の終了事由です。主に、信託法163条9号の信託行為による終了事由の定めを記録し、同法164条3項の合意終了に関する別段の定めがあれば、それも記録します。信託法の条文は次のとおりです。信託法163条は少し難しいかもしれませんが、家族信託実務の中でも最重要な条文の一つです。文言通りに素直に読んでみてもらえれば良いのです。
一 信託の目的を達成したとき、又は信託の目的を達成することができなくなったとき。
二 受託者が受益権の全部を固有財産で有する状態が一年間継続したとき。
三 受託者が欠けた場合であって、新受託者が就任しない状態が一年間継続したとき。
四 受託者が第五十二条(第五十三条第二項及び第五十四条第四項において準用する場合を含む。)
の規定により信託を終了させたとき。
五 信託の併合がされたとき。
六 第百六十五条又は第百六十六条の規定により信託の終了を命ずる裁判があったとき。
七 信託財産についての破産手続開始の決定があったとき。
八 委託者が破産手続開始の決定、再生手続開始の決定又は更生手続開始の決定を受けた
場合において、破産法第五十三条第一項、民事再生法第四十九条第一項又は会社更生法
第六十一条第一項(金融機関等の更生手続の特例等に関する法律第四十一条第一項及び
第二百六条第一項において準用する場合を含む。)の規定による信託契約の解除がされたとき。
九 信託行為において定めた事由が生じたとき。
信託法百六十四条 委託者及び受益者は、いつでも、その合意により、信託を終了することができる。
3 前二項の規定にかかわらず、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
例えば、営業信託の信託登記の場合は、信託契約の解除による終了に関連する解除事由が複雑に定められる場合がありますので、かような定めをどこまで記録すべきなのか、という問題があります。解除事由が細かく規定されているような場合には悩ましいです。
解除は、あくまで、民法の契約法の問題ですので、これは、信託法上の終了事由との関係はどうなるのか、両立するのか、9号の信託行為において定めた事由となるのか、などの問題がございます。
信託と信託契約の違い
信託は、信託契約を使って設定することができますが(信託法3条1号)、しかし、信託を設定するための信託契約、そして、その結果として設定される信託それ自体とは、別物であると言うこともできます。信託契約は、あくまで契約ですので、民法の契約法が適用されるように見えます。
しかし、その結果として設定された信託は、信託法が適用されるからです。
この辺りは、信託を理解するための難しい部分ですが、勉強となるところでもあるので、皆さんも、少しだけ、考えてみてください。前述のとおり、信託が終了してしまう事由は、信託法で決まっております。信託法163条1号から8号までの終了事由は強行規定です。そして、このような終了事由に加えて、同条9号で、信託の当事者が、任意で、終了事由を定めることができるわけです。そして、前述のとおり、信託法164条1項で、委託者と受益者による合意で以て、いつでも信託を終了させることができる、とされているわけです。
それでは、このような信託法の規定ぶりは、それら以外の場合には、信託を終了させることができないということを意味するのでしょうか。問題は、信託を契約によって成立させている場合、契約に関する民法上の取消しや無効の法律が、信託の終了事由として機能するのか否かです。民法上の解除の問題はもちろんそうですし、民法総則の詐欺や錯誤による取消し、そして、通謀虚偽表示のような主張で以て信託は無効となるのか、ということです。
解除と信託終了事由
信託の受託者が、信託の開始後、遊んでばかりで、きちんと信託事務をやってくれず、信託を放置してしまっている場合を想像してみましょう。このような場合、信託契約の当事者である委託者は、信託事務をちゃんとやらない受託者に対して、信託契約の債務不履行であるとして、相当の期間を定めて催告することで(民法541条)、信託契約の解除ができるのでしょうか。
信託契約の債務不履行による解除は、信託法163条にも同法164条にも規定されておりません。
信託の終了の原因が、信託法の規定する事由に限るということであれば、民法541条は排除されなければなりません。しかし、信託契約によって成立させられた信託は、れっきとして信託契約が存在しますので、契約であることに間違いありません。それゆえ、契約上、受託者のやるべきことが書いてあれば、それを懈怠してしまえば、契約の債務不履行として催告して解除できるはずである、と感じられます。あくまでも契約であれば、そういうことです。
この辺り、どのように理解したら良いのでしょうか。信託と、信託契約の二重性のようなものがあり、信託法に規律される信託と民法に規律される信託契約が、重層的に存在し、お互いがお互いに影響を与え合っていると考えるべきでしょうか。あくまで契約であるのに、それが信託の成立を目的とする契約であれば、民法が排除されてしまうというのは、少し安易な考え方なのかもしれません。
実務上の解決方法はどうするのか
もっとも、実務上の結論としては、そのような疑問を感じるところ、よくわからないところなど、信託法の条文を読んでも一義的に明らかにならないところは、信託契約書を作る際に、積極的に、信託契約書の中に、こうします、こうなりますよということを書いておくということです。信託契約書の中に信託条項として書かない限り、疑問はそのまま疑問として継続するだけです。それでは、将来の紛争予防にはなりません。曖昧なところを残すということは、それだけ紛争となり得るところを残してしまうということなのです。
ですから、営業信託における不動産信託に関する信託契約書などでは、信託法を読んでもわからないところは、全て、信託条項にしておきます。そして、そのようなニーズは、民事信託の場合でも同じです。むしろ、新しい実務である民事信託のほうが、先例が少なく、疑問が多いので、信託契約書の中にきちんとルールを書いておく必要性が高いのです。
信託契約書の作成を支援する専門家自らが、よくわからないということで、それを信託契約書の中の信託条項にしないで放置してしまえば、それは専門家による懈怠であり、依頼者に対する委任契約、準委任契約、請負契約等に基づく仕事の瑕疵であり、契約不適合の責任を負うことになってしまいます。