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一般公開

#家族信託の潮流

第11回 家族信託のための信託登記とは何か(その6)

一般公開期間:2026年10月1日 ~ 12月31日

※当記事は2026年10月の内容です。

● 現行不動産登記制度における信託登記の枠組み

 信託の登記を申請するため、「信託目録に記録すべき情報」または「信託目録に記録すべき情報を記載した書面」を作成する必要があります。冒頭に掲載した信託登記の例を参照していただくとわかると思いますが、信託の内容の公示としての信託目録が、登記官によって作成される必要があります。そして、信託目録に記録すべき情報の提供が、その素材となります。
 信託契約書を以て、信託目録に記録すべき情報とするためには、信託登記の登記事項の理論と基準に関する知識を前提とします。そして、登記事項が含まれる信託条項の選択、更には、選択された信託条項から登記事項に該当する要件の抽出、更に、要件に当てはめるための情報の要約が必要となります。

□信託目録に記録すべき情報を作成するための手順
1)信託契約書の全体構造の理解と個別信託条項の読解
2)信託登記の登記事項としての判断枠組の確認
3)信託登記の登記事項の判断枠組に基づく具体的基準(要件)の確認
4)3)の判断基準に照らした信託条項の選択
5)4)で選択した信託条項から、実質的に登記事項の要件に該当する情報の抽出
6)5)で抽出した情報を、公示の作法(一覧性等)に適合させるための要約作業
7)6)で要約した文言(情報)の登記事項への当てはめ

 信託契約書を読んで、その意味内容を理解します。そして、不動産登記法97条1項各号の登記事項の意味内容を解釈することで信託登記の登記事項としての規範を定立(確認)いたします。そこから、信託登記の登記事項に必要となる信託条項を発見し、切り出すわけです。
 そして、切り出した信託条項から、登記事項となる要件を分解・分析し、登記事項に該当する要件を抽出するわけです。当該要件に従って抽出した情報について、公示の作法に従った要約を行い、登記事項の要件に当てはめることは、他の登記類型における登記事項の選択の場合と同じとなります。

 この点、抵当権設定登記や他の登記類型の登記事項の場合と異なるのは、次の点です。
 信託登記以外の登記類型については、予め、登記実務の記録例という形で選択・抽出・要約の形が示されておりますが、信託登記の登記事項を記録する信託目録の場合、今のところ、かような記録例が存在しておりません。
 更にいえば、売買契約書、金銭消費貸借契約書、そして、抵当権設定契約書などの、ある程度、定型化された契約書を読解するよりも、非定型的な信託契約書を読解することのほうが難しいということが言えます。

 信託登記の場合、不動産登記法が、登記事項を特定するための概念として「その他の信託の条項」(不動産登記法97条1項11号)のような不確定概念を用いているところが、難しいところです。
 例えば、抵当権や根抵当権の登記でも、その登記事項として、債務者などの確定された登記事項に加えて、「その他の抵当権の条項」などという不確定概念が用いられてしまうと、混乱してしまいますよね。
 そこで、資格者代理人である司法書士が、不動産登記法の原理・原則から導き出された基準に基づき、その具体的な要件を確認し、そのような要件に照らして、個別具体的な信託条項から登記すべき情報を確認し、抽出するという2段階の確認過程を要することになるわけです。この点、信託登記の効果を縮減した現行信託法(旧31条から現行27条へ)の下では、判断基準となる法律は、主に不動産登記法であることに注意を要します。

 もちろん、信託登記を以て信託の効果の対抗要件であると規定しているのは信託法14条ですから、信託法上の効果という観点から、登記事項たるべき情報を選択していくことも可能かもしれませんが、残念ながら、未だ信託法からの信託登記の理論は生成されておりません。

□信託目録に記録すべき情報の完成までのステップ
1)信託登記の登記事項とは何か、という理解(趣旨・規範・理由)
2)個別の信託契約書の全体構造の読解(信託の仕組みの読み取り)
3)信託契約書上、信託の成立と有効性の確認(登記の無効原因)
4)信託契約書上、信託の適法性、法的拘束力、執行可能性の確認
5)登記事項として必要となる信託条項はどれかの分析と選択
6)信託条項の構文分析
7)登記事項としての要件の確認
8)切り出した信託条項から、確認した要件に該当する情報の抽出
9)抽出した情報を登記事項に当てはめるための要約
10)当てはめによる信託目録に記録すべき情報として完成

 信託契約書上の信託条項群から行われる、信託目録に記録すべき情報の抽出と要約は、決して資格者代理人の自由裁量や感覚に基づくものではなく、不動産登記法上の登記事項としての原理、その機能と仕組みに関する強度の規律に従うことになります。

● 民事信託の契約書について

 案件固有の利益状況や背景事情等に応じて、信託条項や文言の選択も変化します。
 そもそも、民事信託契約書のための確立した雛形や標準形が存在しないのが、現時点(2026年現在)での民事信託実務の現状だと思います(2021年に行われた日本弁護士連合会と日本公証人連合会による信託条項のモデル化などは、民事信託契約書の標準化への試みであるのですが、かような試みの存在は、従来、標準形が存在してこなかった事実を裏から証するものだと思います)。民事信託分野の一部である家族信託の契約書についても然りでしょう。

 これに対して、数十年に及ぶ大量の実務蓄積と、これまで多数の弁護士や信託実務家らによる検討を経てきた営業信託の不動産信託契約は、ある程度、枠組みが固まっております。その意味では営業信託の契約書のほうが、個々の家族信託の契約書よりも理解しやすい傾向があります。一般に営業信託の不動産信託契約書のほうが、総じて分厚いのですが、民事信託のそれよりも具体的であり、わかりやすいということが言えます。これに対して、信託条項の数も少ない民事信託契約書の内容のほうが、むしろ、抽象的で、難しいという逆説があります。
 ですので、信託条項の数が少なく、かつ、1つひとつの信託条項が短いからわかりやすい契約書となる、というのは錯覚ではないでしょうか。1つひとつの信託条項が、抽象的、一般的すぎて信託の開始後、実際に、受託者が何をすべきか、わからなくなる場合もあります。とりわけ、長期にわたる受託者の信託事務指針としては、信託条項の数が足りなすぎることがあるわけです。この点、営業信託では、一般に、標準的な信託契約書の枠組みに収まらないものは、受託されないというか、できません。だから、一定の枠組みの標準形が成り立つわけですね。

 一方、家族信託契約は、その親族の個性と事案の利益状況に応じて仕組みの枠組みが異なり、内容の細部が異なるし、信託条項の要件および効果の選択が難しいのです。営業信託のような一定の枠組み(許容範囲)や監督官庁である金融庁による行為規範というフォルムもなく(営業信託の場合、①信託法による基準、②信託業法・兼営法による基準という2段階の枠組みがある)、民事信託分野では、あるがままの多様な現実を信託法に従って法律整序せざるを得ないのが原則です。

□信託目録に記録すべき情報に至る技術的プロセス
1)信託原簿制度から信託目録制度への転換(差異)の確認(手続法上の意味の確認)
2)信託法改正による信託登記の効果の変化の確認(実体法的意味の確認)
3)信託登記の登記事項の具体的な要件の確認
4)信託契約書の読解と分析
5)必要な信託条項の発見と選択
6)3)の要件に照らしての情報の抽出
7)登記事項としての要約方法の確認
8)抽出した情報の要約
9)要約した情報の登記事項の要件への当てはめ

 実体の細部を無視して、無理やり、家族信託契約書の雛形を使用している場合もあるかもしれませんが、実体とズレが生じることも少なくありません。それに、例えば2015年~2016年頃に流行ったような家族信託契約書の起案ものでは、もはや古くて、通用しないという現実もあります。
 この辺りの事情は、2016年前後までに出版された解説書に掲載されております信託契約書の雛形を読んでいただければ、わかると思います。今振り返れば、受益権証書の発行禁止なる謎の信託条項が掲載され、なぜ、そのような雛形が推奨されていたのだろうか、という過渡期的状況もありました。
 しかし、毎年、新たな論点が発見され、議論が修正されている。家族信託契約書の内容は、その時点での流行り・廃りによってだいぶ異なってきたことを知っておきたいところです。

● 選択作業と要約作業の密接不可分性

 信託契約書から、信託目録を生成していく過程では、比較的膨大な量の信託契約書の中から、信託登記の登記事項となるべき条項とその要件を選択していく作業が必要となります。そして、観念的には、次に、当該要件に該当する情報を公示のために要約する作業が続くわけです。

 しかしながら、実は、選択(抽出)と要約の作業は密接不可分であり、実務的には切り離せない表裏の関係にあります。ここに、信託目録の作成過程に潜む最大のポイントの一つがあるわけです。

□信託目録への基本作業の3つの段階
選択
信託登記の登記事項に照らした信託条項の選択(切り出し)
抽出
信託条項から登記事項の要件に該当する情報の抽出(分析と判断)
要約
抽出した情報の要約による要件への当てはめ(要件としての必要最小限の要約)

 これらの作業の大前提として信託登記の登記事項に関する正確な知識が必要となります。家族信託の契約書といえども、数十年にも亘りうる長期の契約であるわけですから、信託の成立、信託事務の遂行、信託の計算、信託清算その他の手続が全て網羅されている必要があるわけです。
 家族信託は、一般の利用者のための契約書であるからこそ、受益者の権利保護・保全のため、また、受託者の信託事務遂行の指針としても、信託開始から清算結了までの必要な要件を網羅しておく必要があります。

□信託目録の内容の3要素
1)信託登記の登記事項とは何か(何が信託登記の登記事項なのか)
2)登記事項としての構成要件は何か(個別の登記事項の要件の発見)
3)要約のための必要最小限度とは何か(公示の作法に応じた要約の技術)

 一方、それら長期に亘る信託事務の準備のための信託契約書の内容のすべてが、第三者に対して公示をすべき登記事項であるというわけではないのは当然かもしれません。