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一般公開

#家族信託~税理士の視点から

第3回 信託終了に係る課税上の留意点 ~相続財産ではない

一般公開期間:2023年10月1日 ~ 12月31日

※当記事は2023年10月の内容です。

 委託者死亡により信託を終了した場合に、帰属権利者が放棄をしてもらい、委託者の相続人間で新たに協議をすることにより、遺産分割を進めようとする事案が増えているようです。特に委託者の相続人間で、相続税の負担を軽減することを目的として、委託者が亡くった後で、遺産の再分割を考慮するようです。
 実務上、遺言があったとしても相続人全員(及び遺言執行者)の合意があれば、遺言と異なった内容の遺産分割を行うことはできますが、信託の場合に、これと同じことができないかについて、法律の専門家ではありませんが、注意喚起だけをさせていただきます。

・ 信託内容と相違する遺産分割

1.遺言書と異なる遺産分割の場合

 相続税の課税取扱いにおいては、相続人全員の協議で遺言書の内容と異なる遺産の分割があった場合には、その遺言書に係る受遺者の全員がその遺贈を放棄し、そのうえで、共同相続人間で遺産分割が行われたと考えます。したがって、各人の相続税の課税価格は、相続人全員で行われた分割協議の内容によることとなります。
 なお、受遺者である相続人から他の相続人に対して贈与があったものとして贈与税が課されることにはなりません。

(参考)国税庁タックスアンサー No.4176
遺言書の内容と異なる遺産分割をした場合の相続税と贈与税
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/sozoku/4176.htm

2.委託者死亡後の相続税の節税

 信託契約では、委託者の希望により財産を特定の者に帰属させたいとする希望が多く、委託者の死亡により信託終了事由が生じ、受託者から帰属権利者または残余財産受益者に権利が移転することになります(信託法182条)。しかし、相続人からすると委託者が決めた相続財産の相続先とは相違する遺産分割で進めたいとする希望が少なからずあります。
 そこで、相続税も考慮して税理士から信託契約とは相違する遺産分割が、相続税の負担上有利であるいう提案を受けた場合にどのような点に留意したら良いでしょうか。

3.家族信託と遺産分割

(1) 信託財産及び受益権の相続財産性
 信託された財産は受託者の所有となっているため、委託者兼当初受益者の相続財産ではありません。また、被相続人は、受益者として受益権を有していることになりますが、この受益権は委託者の死亡により消滅するとされている契約が多いと思われます。この場合委託者の受益権は相続財産になりません。

(2) 帰属権利者による権利の放棄
 信託法では、帰属権利者による権利の放棄は規定されています(信託法183条3項)。
 信託行為の定めにより帰属権利者となった者は、信託行為の当事者(委託者又は受託者)でなければ、その権利を遡及的に放棄することができます。すなわち当初から帰属権利者としての権利を取得していなかったものとみなされます(信託法183条4項)。

(3) 信託行為の定めにより帰属権利者となった者が信託行為の当事者ではない場合
 信託行為で指定されたが帰属権利者の権利を放棄すると、当初から帰属権利者の権利を取得していなかったとみなされ(信託法第183条第4項)、信託法では「信託行為に委託者又はその相続人を帰属権利者として指定する旨の定めがあったものとみなす」と規定されています(信託法182条2項)。
 そして、相続人が帰属権利者となった場合の課税関係としては、相続税法第9条の2第4項により、相続人は被相続人から遺贈によって取得したものとみなされ、相続税が課税されることになると考えます。

(4) 信託行為の定めにより帰属権利者となった者が信託行為の当事者である場合
 信託行為の定めにより帰属権利者となった者は、受託者に対し、その権利を放棄する旨の意思表示をすることができますが、信託行為の当事者である場合は、放棄することはできません(信託法第183条3項ただし書き)。
 このただし書きによると「帰属権利者となった者が信託行為の当事者である場合には、この限りではない。」とされています。「信託の当事者」とは、信託契約の場合には委託者及び受託者を指すと解されています。そうすると、受託者は遡及効のある権利の放棄はできないことになります。仮に、受託者が権利の放棄をしたとしても、それは将来に向けて権利を放棄したと解されますので、遺言があるケースと同じ結果にはならず、贈与税の課税対象になるものと考えます。
 帰属権利者が複数である場合に、信託契約と異なる内容の残余財産を承継するために協議を行ったとすると、残余財産の交換又は贈与になりますので、贈与税課税の問題が生じることになることに留意して下さい。

信託法183 条(帰属権利者)
信託行為の定めにより帰属権利者となるべき者として指定された者は、当然に残余財産の給付をすべき債務に係る債権を取得する。ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところによる。
2 省略
3 信託行為の定めにより帰属権利者となった者は、受託者に対し、その権利を放棄する旨の意思表示をすることができる。
 ただし、信託行為の定めにより帰属権利者となった者が信託行為の当事者である場合は、この限りでない。
4 前項本文に規定する帰属権利者となった者は、同項の規定による意思表示をしたときは、当初から帰属権利者としての権利を取得していなかったものとみなす。ただし、第三者の権利を害することはできない。

4.まとめ
 家族信託を利用した場合には、原則として、帰属権利者間において分割協議を行うことはできないと思われます。しかし、例外的に、家族信託を利用した場合でも相続人間の遺産分割協議により、その承継する財産を決めることは可能となることがあるようです。その際には、それが可能となる内容の信託契約にしておかなければなりません。
 実務では、受託者が帰属権利者となる事例が多いと思われます。帰属権利者間で分割協議ができないにもかかわらず、分割協議を行い、相続税の申告をしているケースがあるので注意が必要となります。