※当記事は2025年10月の内容です。
はじめに
家族信託に関わる税務署処理の実務で忘れてならない事務のひとつが、法定調書等税務署への提出書類です。ところが、税理士が関与していたとしても、法定調書の提出を失念しているケースが、結構多いようです。面倒だから提出しないというのは大きな問題ですが、そのような意識がなくても、知らないので提出していなかった、という事例も聞きます。以外にも税務職員でもよく理解していない場合には問題とされないこともあるようです。
そこで、今回は税務署に提出しなければならない法定調書その他の書類について記載します。実務の携わる専門家としては、まずは図解の部分でどのような時に提出が必要なのかを把握していただき、「Ⅰ 税務署へのあらまし提出書類のあらまし」で流れを把握してください。ホームページでも書き方等がわからない場合には、税務署に問い合わせをして、遺漏がないようにされることをお薦めいたします。
本稿では、「あらまし」の他に「Ⅱ 受託者と受益者別の整理(詳細)」に受託者と受益者別に詳細に記載をしております。流れを掴んでいただいた後で、家族信託の受託者の業務のサポートまで進めてください。
Ⅰ 税務署への提出書類のあらまし
家族信託に関わる実務として必須なのが、税務署に対しての支払調書とその計算書の提出です。
最近は公正証書遺言の代わりに信託法第3条二項の「遺言信託」の受託者に就任するケースも散見されています。もちろん、この場合にはも遺言そのものではありませんから、税務署への書類は必要となりますので、留意して下さい。
【図解(税務署に提出が必要な場面)】
■ 税務署に提出が必要とされる事象と時期

■ 支払調書、計算書、合計表が必要な場面
(1) 信託財産の異動がある場合
解説1、解説2、解説3、解説5の時点
⇒ 信託に関する受益者別(委託者別)調書及び合計表 (相続税法59条)
⇒ 提出期限は翌月末日まで
(2) 毎年の所得計算に必要な場合
解説4の時点
⇒ 信託の計算書及び合計表 (所得税法227条)
■ 上記の図解の場面ごとに<解説 >提出書類のあらましを下記に記載します。
国税庁のホームページには記載の仕方の解説もされています。
1.信託の効力発生時(信託設定時)における税務
この調書の提出を怠ったり、虚偽の記載をした場合には、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科せられる罰則規定も設けられています(相続税法70条)。調書に記載する信託財産の価額は相続税評価額が原則ですが、算定が困難な場合は見積価額を記載する必要があります(相続税法59条3項但し書き、相規30条7項)。
② 受益者別に評価した信託財産の相続税評価額が50万円以下の場合
③ 信託終了直前の受益者と帰属権利者が同一人である場合
④ 信託終了時に残余財産がない場合
2.信託期間中における税務
実務としては、暦年基準で翌年の1月31日までに前年の決算書が完全に出来上がっていることは、たいへん困難なところがあります。しかし、法定調書ですから、それなりに対応をしなければなりません。
3.信託終了時における税務 <解説5>
税務当局への提出書類(受託者の義務)
信託が終了した日の属する月の翌月末日までに、受託者は「信託に関する受益者別(委託者別)調書」を、所轄税務署に提出しなければなりません(相続税法59条3項3号)。
書き方は上記の2.(2) と同様です。
Ⅱ 受託者と受益者別の整理(詳細)
1.受託者が提出すべき書類の概要
・信託の効力の発生時
・信託期間中に受益者を変更した時
・信託の終了時
・権利内容が変更になった時
ただし、次の場合は法定調書の提出が不要とされます。
・信託財産の相続税評価額が50万円以下の場合
・信託の効力発生時、委託者と受益者が同一である場合
・信託終了直前の受益者と帰属権利者が同一である場合
・信託終了時、残余財産がない場合
2.受託者が提出しなければならない調書の詳細
信託の受託者は以下の事由が生じた日の属する月の翌月末までに、「信託に関する受益者別(委託者別)調書」「信託に関する受益者別(委託者別)調書合計表」を税務署に提出する必要があります(相法59③)。
② 受益者等(みなし受益者を含む)が変更された場合(受益者等が存することになった場合、または存しない場合を含む)
③ 信託が終了した場合(信託に関する権利の放棄があった場合、権利が消滅した場合を含む)
④ 信託に関する権利の内容に変更があった場合
ただし、以下の場合は、税務署に提出する必要はありません(相法59③、相規30⑦)。
② 受益証券発行信託に該当する信託で、受益権が無記名式の信託法第185条第1項に規定する受益証券に該当するものである場合
③ 信託の効力発生が生じた場合で、以下に該当する場合
・特定障害者扶養信託契約(相法21の4②)に基づく信託
・委託者と受益者等(みなし受益者を含む)とが同一である信託
④ 受益者等の変更が生した場合で、以下に該当する場合
・信託受益権の譲渡等により支払調書及び支払通知書を提出する場合
・受益者等の合併または分割があった場合
⑤ 信託の終了があった場合で、以下に該当する場合
・信託終了直前の受益者等が、受益者等として有していた権利に相当する当該信託の残余財産の給付を受け、または帰属する者となる場合
・残余財産がない場合
⑥ 信託の変更があった場合で、以下に該当する場合
・受益者が同一の者である場合
・受益者等(法人課税信託の受託者を含む)がそれぞれ有する権利の価額に変動がないこと
また、法人課税信託の受託者となった場合には、2カ月以内にその旨の届出書を、法人が受益者となるために対価を支払った場合には、その譲渡があった翌年1月31日までに調書及びその合計表を提出しなければなりません(法法4の二、148、所法225①十二)。
3.受託者が提出しなければならない計算書
受託者は、毎年1月31日までに受託者の信託事務を行う営業所等の所在地の所轄税務署長に信託の計算書を提出しなければなりません(法人課税信託を除きます)(所法227)。その提出期限については、受託者が信託会社である場合には毎事業年度終了後1カ月以内に、信託会社以外の受託者は毎年1月31日までとされています(所法227、所規別表七(一))。
ただし、各人別の信託財産に帰せられる収益の額が3万円(1年未満の場合は1万5千円)以下となる場合は、信託計算書の提出は不要となります。
信託計算書には、受益者別に以下の内容を記載し、受託者の事業所等の所在地の所轄税務署に提出しなければなりません(所規96)。
② 信託の期間及び目的
③ 信託会社については、各事業年度末、信託会社以外の受託者については前年12月31日における信託に係る資産及び負債の内訳並びに資産及び負債の額
④ 信託会社については各事業年度中、信託会社以外の受託者については前年中における信託に係る資産の異動並びに信託財産に帰せられる収益及び費用の額
⑤ 受益者に交付した信託の利益の内容、受益者等の移動及び受託者の受けるべき報酬等に関する事項
⑥ 委託者または受益者等の納税管理人が明らかな場合は、その氏名及び住所または居所
⑦ その他参考となる事項
ただし、収益の額に以下に示す配当が含まれる場合には、信託計算書の提出を省略することができません (受益者が居住者または国内に恒久的施設を有する非居住者であるものに限る) (措法8の5①一~七、所規96三)。
② 内国法人から支払いを受ける公社債投資信託以外の証券投資信託で、その設定に係る受益権の募集が公募により行われたものの収益の分配に係る配当
③ 特定投資法人からの配当
4.受益者等が提出すべき書類
・総収入金額については、信託から生ずる不動産所得に係る賃貸料その他の収入の別
・必要経費については、信託から生ずる不動産所得に係る減価償却費・貸倒金・借入金利子及びその他の経費の別
なお、これらの事項を記載べき明細書の書式は現状では定められていません。上記の事項が記載されていればよいと思われます。
参考として、組合の計算書の様式ですが添付します。この計算書の数値は各受益者ごとのものであり、信託全体に係るものではないことに留意してください。
5.信託に係る罰則規定(税務上)
所法→所得税法、 所令→所得税法施行令、 所規→所得税法施行規則、 法法→法人税法、 法令→法人税法施行令
法規→法人税法施行規則、 相法→相続税法、 相令→相続税施行令、 相規→相続税法施行規則
措法→租税特別措置法、 措令→租税特別措置法施行令、 措規→租税特別措置法施行規則