※当記事は2026年7月の内容です。
後続登記申請の想定―売却処分
将来、信託不動産の売却処分を想定するのであれば、その売却した時点で、そのような売却処分に基づく所有権移転登記及び信託登記の抹消登記の申請がすんなりと通り、かつ、登記の実行を確実にしておくように、それらの登記申請権を保全しておくわけです。信託開始後に、信託財産を売却する必要が生じたとして、売買に基づく登記申請ができないとなれば、売買代金の決済ができませんので、結局、信託財産の売買は不成立となってしまいます。
そこで、信託不動産の売買を原因とする所有権移転登記の登記申請権を保全しておくためには、信託の目的に関する信託条項、そして、受託者の権限に係る信託条項などを整理し、登記官が一発でわかるように的確に要約して、信託目録に記録すべき情報として法務局に提供しておくことです。
後続登記申請権の保全と信託登記の登記事項との峻別
後続登記申請の想定は、個々の民事信託案件に応じて異なってくるとは思いますが、典型例としては、受託者の変更に関する情報、受益者の変更に関連する情報、受益権の処分に関する情報、委託者の地位の移転に関する情報、信託監督人に関する情報などがあります。
ですので、例えば、信託登記のある不動産に対して抵当権を設定したり、あるいは、売却処分したり、また、信託の変更その他の登記事項に関わりのある行為を行い、そのような処分に基づく登記を申請しようとする場合には、登記されている信託目録をよく見て、該当する記録事項があるかどうかをよく確認することです。
また、信託法の強行法規は、わざわざ信託目録に記録されませんし、別段の定めが記録されていなければ、デフォルトルールが想定されていると登記官は推定いたします。後続登記申請の審査を行う登記官の立場にたって信託目録を眺めてみることがよいと思います。そして、信託目録は、単なる信託契約書の要約ではなくて、あくまでも登記として、登記に関係する情報だけが記録されているものである、という認識が大切です。
なお、注意しておきたいのは、将来に起こるかもしれない後続登記申請の可能性があり、それを想定して、そして、そのときのための登記申請権の保全のための措置をとることの必要性を説明しましたが、しかし、そのこと自体が、直ちにイコールで、不動産登記法97条1項各号の信託登記の登記事項であると言えるというわけではないということです。
後続登記申請の可能性理論に対する誤解
要するに、後続登記申請の可能性を想定しての、将来の登記申請権の保全のための工夫は、あくまでも、資格者代理人としての執務規律であり、善管注意義務の内容としての問題です。それゆえ、将来、登記申請ができなければ、それは、資格者代理人である司法書士の責任となってしまいます。
ですので、資格者代理人の執務としての必要性という観点なのです。その一方、信託登記の登記事項であるか否かは、公示としての必要性という問題です。ですから、後続登記申請のための登記申請権を保全するための情報それ自体は、信託登記の登記事項にそのまま該当すると考えられるわけなのですが、それ以外の情報でも、信託登記の登記事項に該当して、公示し得る場合があるということです。
要約の必要性
ところで、信託目録には、信託契約書と同様の長い文章で書かれたものも存在するのですが、これは、あまり良い信託目録とは言えません。信託目録に記録すべき情報は、何よりも、登記申請の審査を行う登記官に理解してもらう必要があります。また、第三者に対する公示ですので、誰もが理解できるように、簡潔で明晰なものである必要があります。信託契約書は、個別具体的な要件と効果を定める必要があるので、その信託条項の文言は長くなり、複雑になりがちです。
それゆえ、信託登記の登記事項も、公示の作法として、他の登記類型と同様に、わかりやすく要約して、要件だけを記録することになります。そうすることで、後続登記申請との内容の整合性を判定できるようにして、登記官の恣意的解釈を最小化して、後続登記申請に対する審査の予測可能性を確保しておきたいところです。
受益者取消権と信託登記の効果
信託内容の登記は、受託者の権限外行為に対する受益者の取消権の行使の問題と関係しております。受託者の権限外行為に対する取消権の行使は、受託者との取引の相手方の主観的態様に応じて、その可否が決まるわけですが、旧31条では、信託登記があれば、相手方の主観的態様に関わらずに取消権の行使ができました。
いうなれば、信託登記があることで、相手方の悪意が擬制されるような効果があったわけです。これは、信託登記の内容を見れば、受託者の権限がわかったはずだ、ということが理由であったのだと思います。
しかし、現行法では、信託登記の存在は、相手方が、受託者の行為が、信託財産のためにされたものであるのかどうかを知っていた、ということに代わるものであると修正して、その効果を縮減させております。
民事信託での特色
民事信託では、受益者として、認知症患者や障害者などの弱者が想定されているわけですから、信託設定後における変更登記や更正登記などがやりずらくなってしまう場合もあり得ると思いますので、なるべく、将来、変更や更正等の登記が不要なような形で、なるべく完全な形で、司法書士ならば司法書士に対して、しっかりとした信託目録に記録すべき情報を作成してもらうことを依頼することが重要だと思います。
信託登記の必要性と効果
信託登記は、信託法34条1項にて、不動産の信託の分割管理の内容となっており、受託者の義務となっております。そして、31条2項で、そのような義務は免除することができないとしております。
ですから、信託を設定したにも関わらず、登録免許税信託登記を留保してしまうと、信託違反を構成してしまうわけです。信託登記は、当該不動産が、信託財産に帰属していることの対抗要件となるわけですので、信託登記がなければ、第三者に対して、倒産隔離などの信託の効果を対抗できません。
また、そもそも、信託登記を留保した場合には、信託登記と同時申請である信託を原因とした所有権移転登記も具備していないということになるでしょうから、信託譲渡の対抗要件を具備していないということは、信託が成立しているのかどうかも、わからないということになりかねません。
「信託の内容」の登記における「登記すべき事項」を考えるための判断枠組み
信託法だけから見ると、信託登記が、信託の対抗という法効果発生のための法技術であれば、それが「信託の内容の公示」を要する必然性はありません。信託登記それ自体は、単に、信託における権利の帰属だけを公示することで足りる、とすることも可能であるかもしれません(これは信託目録廃止論で言われた主張です)。このことは、信託の内容の登記の、その「内容」とは何か、という「内容」の実質という問題にも関わります。
更には、信託の内容をどこまで公示すればよいのか(すべきなのか)という「内容」の範囲あるいは射程という実務問題にも関わります。それにしても、「信託の内容」の登記が、実体法である信託法だけでは、その必要性の根拠が見いだせないということは、何を意味するのでしょうか。それは、いくら信託法だけを読んでみても、信託登記における「信託の内容」の範囲を確定することができないことを意味します。
なるほど確かに、「信託登記」が必要であることの法的根拠は、実体法である信託法の中にあります。信託法14条は、信託財産に属することを第三者に対抗するためには、信託登記を要する、としております。当該不動産が、信託財産に属することを対抗するということは、信託財産であることの対抗である、つまり、第三者に対して信託の効果を対抗することを意味します。
信託法14条 登記又は登録をしなければ権利の得喪及び変更を第三者に対抗することができない財産については、信託の登記又は登録をしなければ、当該財産が信託財産に属することを第三者に対抗することができない。
しかし、現在の信託登記の態様である「信託の内容の公示」そして「信託の内容の公示のための登記」の必要性の根拠は、信託法だけからは導き出せません(信託法27条参照)。
家族信託を勉強している皆さんには、信託の内容の登記を考えるときには(具体的には、信託目録に記録すべき情報に関する書面を作成する場合となるが)、「信託の内容」の登記は、どうして必要なのか、その一つ一つの信託行為の定め(信託の条項)を登記することの必要性と許容性は何か、その法的根拠は何か、公示のための合理的関連性はあるのか、などの諸要素を考えるようにしてほしいと思います。
信託の内容を公示することの法的根拠は、実体法である信託法ではなく、第一義的には、手続法である不動産登記法に存します。それは、不動産登記法97条1項各号です。
第九十七条信託の登記の登記事項は、第五十九条各号に掲げるもののほか、次のとおりとする。 一 委託者、受託者及び受益者の氏名又は名称及び住所
二 受益者の指定に関する条件又は受益者を定める方法の定めがあるときは、その定め
三 信託管理人があるときは、その氏名又は名称及び住所
四 受益者代理人があるときは、その氏名又は名称及び住所
五 信託法(平成十八年法律第百八号)第百八十五条第三項に規定する受益証券発行信託であるときは、その旨
六 信託法第二百五十八条第一項に規定する受益者の定めのない信託であるときは、その旨
七 公益信託ニ関スル法律(大正十一年法律第六十二号)第一条に規定する公益信託であるときは、その旨
八 信託の目的
九 信託財産の管理方法
十 信託の終了の事由
十一 その他の信託の条項
2 前項第二号から第六号までに掲げる事項のいずれかを登記したときは、同項第一号の受益者(同項第四号に掲げる事項を登記した場合にあっては、当該受益者代理人が代理する受益者に限る。)の氏名又は名称及び住所を登記することを要しない。 3 登記官は、第一項各号に掲げる事項を明らかにするため、法務省令で定めるところにより、信託目録を作成することができる。
信託の内容の登記における、その内容の範囲に関する判断基準は、まずは手続法である不動産登記法の規律から考える他ないと思います。要するに、信託の内容として、何を公示すべきか、どのように公示すべきか、などの判断枠組みは、手続法である不動産登記法の規律に支配されているわけです。不動産登記法の手続構造から生じうる判断枠組みを徹底的に探求してみる必要がある所以だと思います。
このように「信託の内容」の登記に対して、その内容を確定するための判断枠組みは、不動産登記の手続から生じる法効果から導き出される他ないのです。もっとも、不動産登記法という手続法だけを解釈すれば足りるというわけではありません。不動産登記法の手続構造から判断枠組みを定立して、その枠組みから眺めて、信託法の仕組み解釈に基づく法効果を考えることで、はじめて信託内容の公示のための登記の登記事項を確定できます。不動産登記法の手続構造を基本として、信託法の仕組み解釈が必要となり、それによって信託内容の公示のための登記事項の選択の判断枠組みが定立できる、ということであり、その過程は複合的です。