※当記事は2025年1月の内容です。
親なきあとの取り組みにマネジメントの考え方を取り入れよう
はじめに
本稿では、障害のある方の「今の生活の充実」と「親なきあとの準備」の道筋を知っていただくことで、ご本人とご家族様の不安を安心に変えていく方法を知っていただくことを目的としています。
本文は次の3章から構成します。第1章ではみんなの福祉村について紹介し、第2章では取り巻く環境をお伝えします。第3章では親なきあとの準備の取り組み方を総論、各論、個別相談の3点に分けてお伝えします。
第1章 みんなの福祉村についての紹介
株式会社みんなの福祉村は2015年に設立し名古屋市西区、北区、北名古屋市を中心に活動を行っています。「その人なりの成長とハピネスの伴走支援」を理念に、「今の生活の充実と親なきあとの安心感を共に創る」をビジョンに掲げています。この理念とビジョンを具体化するために就労継続支援B型の運営を行い、生活介護、グループホームでの「暮らし支援」、計画相談支援にも取り組み、2018年より親なきあとの準備相談室を開設しています。
第2章 取り巻く環境
(1)諸行無常
平家物語の冒頭のくだり「祇園精舎の鐘の声」「盛者必衰の理をあらわす」は諸行無常、つまりこの世のすべてのものは絶えず変化していくことを表しています。障害のある方も同様で、生老病死など状態は変化し、ご家族様の状況など取り巻く環境も変化していきます。いつかは親なきあとの暮らしが訪れるため、逆算して準備していくことが大切です。
(2)福祉サービスは縦割り
「生老病死」といわれるようにご本人の状況、そして取り巻く環境は時間経過と共に変化します。国の障害福祉、医療、介護は縦割りでそれぞれ独立しており、サービスの利用に際して生じるサービス間の隙間を埋めたり、サービス変更を行ったりするのは「家族による支援」が前提となっています。ところが、2050年にはおひとり世帯が人口の44%になると予測されています。この割合の変化は障害者も同様に直面するものであり、家族に代わる備えをどのように行っていくかが大きな課題です。
(3)将来への意識
人は今見えているものには意識が向きますが、見えていない将来には意識が向きにくいものです。できるだけ早期から親なきあとの生活から逆算して準備を始めることをお勧めします。
第3章 親なきあとの準備の取り組み方
親なきあとの準備には、次の図に示すように3つのステップがあります。以下、それらの概要についてお伝えします。
(1)概論
1)「親なきあとの準備」の定義
私たちは、「親なきあとの準備」を次のように定義しています。「ご本人や親御さんの想いをもとに、将来の目標や未来をデザインし、課題と対策の立案、解決に取り組むこと。また、この活動を通して、ご本人に寄り添い、その人なりのハピネスやより良い生き方を一緒に模索していくこと。これらにより、ご本人、親御さんの心の負担や不安を軽減し、安心感をもたらすことが期待できる」
2)「親なきあとの準備」に取り組む基本的な考え方
「親なきあとの準備」に取り組むうえでの6つの基本的考え方についてお伝えします。
① 伴走支援型セルフマネジメント
生活の質(QOL)を高めるには、「健康」や「お金の管理」の他、「仕事」、「余暇」、「暮らし」などの複数の要素が重要です。これらの要素に対し、それぞれが向き合い、優先順位を付けながら上手くバランスを取っていくことが大切です。このうち、「仕事」は生活を充実させるために重要な要素であることには違いありませんが、唯一、絶対の要素ではありません。無理に仕事をすることによって、健康を損ない、かえって生活の質を低下させてしまうこともあるからです。あくまでも目的は、「個々の成長とその人の思い描くハピネス」です。
② 「登っていく生き方」と「緩やかな生き方」
社会や会社において“標準”とされる「目標に向けて、時間の管理や生産性を考え、外発的な導きを得ながらキャッチアップしていくこと」が、「登っていく生き方」に繋がります。標準的な人間のあるべき姿ではありますが、この生き方だけを模索すると、障がい、疾病、加齢による介護が必要になったときの負担が大きく、肩身の狭い思いをしてしまうこともあります。対して「緩やかな生き方」は、環境を個人に合わせて、本人の好きなことや得意なことを軸として活動するという自由度の高い生き方のことです。当事者の方が障がい、中途障がい、疾病、加齢などによる介護が必要になったときでも、「登っていく生き方」による支え方以外の選択肢が生まれ、さまざまな立場や事情に合わせて支えることができます。どちらか一方を選択するのではなく、臨機応変にその方のその時の状況に合わせることが重要です。十人十色といいますが、その人にとってより良い生き方、働き方、過ごし方を模索していくことが大切になります。
③ 「内発支援」と「外発支援」の組み合わせ
まず行っていくべきは、要素として掲げた「健康」、「お金の管理」、「暮らし」、「仕事」、「余暇」を整えていくことです。これらの状況が整うと、人は未来への希望を感じ、「ああしたい」、「こうしたい」といった欲望が生まれます。本人の好きなことや得意なことを中心に、これらの欲求を叶えるための支援をしていくことが「内発支援」となります。次に、その人の状況に合わせて、社会的なルールなどを取り入れていく「外発支援」を行います。内側、そして外側からの支援を組み合わせることにより、その人にとってより良い生き方、働き方、過ごし方を見つけることができます。
④ 「強い自立観」と「しなやかな自立観」
周囲に頼ることなく、自分自身で何でもできるよう力強く進んでいく「強い自立観」と、頼り先を複数持ち、分散させることで無理なく自分らしく生きていく「しなやかな自立観」があります。生き方と同じように、どちらかを選択するのではなく、柔軟に取り入れていくことが大切です。
⑤ 「問題解決」と「寄り添いサポート」の組み合わせ
福祉には、今解決できる問題と、今は解決できない問題があります。「解決ができるもの」に関しては、目標となる未来の状態を設定し、逆算して課題を見つけ、解決に取り組んでいきます。一方、「今は解決することができないもの」に関しては、寄り添い、サポートを行っていきます。
⑥ 「今の生活の充実」と「親なきあとの安心感」の両軸で考える
今の生活環境を充実させるためには、「健康」、「お金の管理」、「暮らし」、「仕事」、「余暇」の面を整えていくことが大切です。さらに、その時々の状況に応じた課題に対応していくことで、「親なきあとの安心感」に繋げられます。冒頭でも紹介させていただいた通り、現状の生活の質を向上させることは、「親なきあとの準備」のひとつであり、関連(連続)していることがわかります。具体的な戦略、戦術をもって、取り組んでいくことが大切です。私たちは、「親なきあとの準備計画シート」を用いてサポートをしています。これら6つの基本的考え方考えに基づいて、ご本人やご家族様の不安を少しでも軽減し、安心感のある生活になるよう、支援しています。
(2) 各論
「健康」「仕事」「暮らし」「余暇」などにおいて、育む力やサポートする制度・サービスなどを具体的に学習します。例えば、住まいの選択(ショートステイ、グループホーム等)、ライフスキルトレーニング、薬の管理、身元保証制度、お金の備え方(障害年金、信託)などです。
(3) 個別相談
次の5つのステップで、主にご本人及び親御さんの個別相談を実施します。
② 状況整理:現状や希望、心配事を聴取し、未来型問題解決手法のフレームに落とし込みます。
③ 計画作成:「親なきあとの準備計画」と親心の記録を作成してもらい、支援者に情報提供します。
④ 計画添削:作成していただいた「親なきあとの準備計画」や親心の記録を添削します。
⑤ 計画修正:年1回程度の定期面談により、現状に合わせて「親なきあとの準備計画」を修正します。
おわりに
皆様が親なきあとの準備に取り組んでいかれるうえで、本稿の内容が少しでも「ヒント」や「きっかけ」となれておりましたら幸いです。個別相談を希望される方には、対面かZoomなど、できる限り柔軟に対応させていただきますので、お問合せください。
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