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一般公開

#「親なきあと」問題を考えよう

第6回 「親なきあと」相談室の活動報告 ~ 一般社団法人障害のある子のライフプランサポート協会

一般公開期間:2024年10月1日 ~ 12月31日

※当記事は2024年10月の内容です。

 はじめに 
 今回ご寄稿いただいた佐藤さんは、ファイナンシャルプランナーとして、障害のある子のいる家族のライフプラン全般の相談窓口を開設されています。さらに、思いを同じくする福祉や教育の専門家とも連携して、徐々に活動の幅を広げています。
 親子のライフプラン作成や、福祉型信託の取組みなど、多くの相談を受けられていて、今回の原稿では実際のサポート事例についてもご紹介しています。「親なきあと」の課題を解決する、信託や遺言を活用した具体的な取組みの例として、ご参考になれば幸いです。
レポート

  一般社団法人 障害のある子のライフプランサポート協会 代表理事 佐藤加根子

1.障害のある子のライフプランサポートとは?

 障害のある子のライフプランサポート協会、代表理事の佐藤です。
 私には今年33歳になる知的障害を伴う自閉症の息子がいます。シングルで息子を育てながら、ファイナンシャル・プランナーとして、多くの方にお金に関するアドバイスをしてきましたが、50歳を超えたある時、急に不安に襲われたのです。「自分がもし死んでしまったら、残された息子はどうやって暮らしていけばいいの?お金はいくらあればいいのだろう?」と。
 自身でライフプランやお金を扱う仕事をしていながら、障害のあるわが子の親なきあとの準備ということについは、恥ずかしながら全く知りませんでした。ショックを受けると同時に、同じような親御さんにお伝えしなければと思い、この活動を始めました。
 福祉のサポートは相談窓口がありますが、障害者家族のお金やライフプラン全般に関する窓口はありません。もちろん相続に精通した専門家はたくさんいらっしゃいますが、障害のある人やそのご家庭への親なきあと問題を含めたアドバイスができる方は少ないのが実情です。
 中でもお金の持ち方、残し方について、親の気持ちを一緒に考えてサポートできる窓口が必要と強く思い、2020年に中沢信義司法書士(理事)の協力を得て、一般社団法人障害のある子のライフプランサポート協会(以後、サポート協会)を立ち上げました。
 現在は、社会福祉士で発達障害者の自立生活をサポートしている吉田佳代子氏にも理事に加わっていただき、「お金・法律・福祉」3つの輪で活動しております。

2.理念と活動について

 わが子に知的や発達障害があると、親はライフステージの色々な場面で選択肢が限られてしまうという苦い経験を持ちます。それ故に未来に希望が見いだせず、自分たちが子を見守ることができなくなった「親なきあと」への不安はより一層大きくなるのではと考えています。

〈サポート協会の活動理念〉

障害のある人とそのご家族が『これしかない』という選択肢から多様な未来を描ける社会を創り出し、親子が共に心豊かに生きるためのサポートを全力で行います

 サポート協会ではこのような理念のもと、まずは多くの方に情報発信していくことを重要課題として取り組んでいます。具体的には、講演会やブログ・SNSでの発信と定期的なオンライン講座の開催を軸に活動しております。

3.オンライン講座について

 具体的には、毎月1回福祉や教育、医療も含めた様々なジャンルから専門家をゲストにお招きし、ZOOMとアーカイブ動画でオンライン講座を開催しています。ここでは2023年度に開催した親なきあとに関する講座の一部をご紹介させていただきます。

◎ 間違いだらけの成年後見!後見制度の第一人者に聞く~親がしてよいこと・してはいけないこと
  講師:宮内康二氏(後見の杜代表)

◎ 親の想いを未来につなぐ民事信託(家族信託)~きょうだい児や親せきの負担を減らす準備とは?
  講師:上木拓郎氏(アンド・ワン司法書士法人行政書士法人代表)

◎ ここでしか聴けない銀行&保険信託~事例でわかる!今やること、やってはいけないこと
  講師:佐藤(サポート協会)

 中でも、成年後見制度を利用した人たちのトラブル事例は大きな反響を呼び、講座をお聴きになった親御さんたちの間で、民事信託や商事信託を活用しての資産管理ニーズが高まったと感じました。ご参考に福祉型信託講座に参加された親御さんの感想を一部ご紹介させていただきます。

・子の障害年金をどう管理すれば良いのかこのままで良いのかと、漠然と心配するだけの日々でした。具体的にどのようにすれば良いのか、方法の一つとして信託を具体的にご教示いただけて良かったです。(57歳 母親)

・親なきあとに障害のあるわが子が困らないようお金を残したいと思いつつも、どのようにして残せば良いのか分からない状況でした。今日の講座を受け、残すためには様々な方法があるということが分かりました。そして、その家庭やその時々により臨機応変に対応していくことが重要ということを学べて良かったです。(41歳 母親)

4.親子のライフプラン作成(未来準備マップ)

 ここからは、個別相談と実務サポートについてお話させていただきます。講座をお聴きになった方の次のステップは、「わが家の場合を詳しく知りたい」という思いです。希望される方には無料でご相談をお受けし、このような流れでサポートしております。

 <ステップ1> 子のパーソナリティーと親の思いのヒアリング   親子のライフプランを作成していく上で、最も重要なことはヒアリングです。お子さんの障害の程度はもちろんのこと、個々の特性や性格、自分の意思を伝えることがどれくらいできるのか、にぎやかなのが好きなのか苦手なのか、そのようなことで将来の暮らし方・お金の残し方は全く違ってきます。生まれた時からずっと見守っている親だからこそ感じるわが子のことを最初に時間をかけてお聴きしています。
 <ステップ2> 親子のライフプラン作成(親子の未来準備マップ)   親御さんはお子さんの将来を心配するあまり、自分たちの老後を含めたライフプランには目を向けていらっしゃいません。そこで、親自身の健康寿命~健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間~を考えて、親子のライフプランを考えてもらっています。そして、「いつ・何を・いつまでに」やるのかを“見える化”することによって、重くなりがちな腰を上げていただいています。
 <ステップ3> 実務サポート   このような流れで、それぞれのご家庭で必要な準備をご案内します。FPと司法書士ではできないサポート(障害年金・保険信託・税務対策など)に関しては、必要に応じて専門職のサポーターを加えて、チームでサポートさせていただいております。

5.個別のサポート事例

 ここでは、実際のサポート事例をご相談者の同意を得てご紹介させていただきます。

<ご家族構成>
父 (会社役員) 75歳  母 (主婦) 72歳
長男 42歳 … 発達障害があり体調すぐれず現在無職、活動支援センターに通う
次男 40歳 … 医師・結婚して独立

<ご相談の経緯と内容>
 相談者である母のお母様 (95歳) の相続問題もあり、社会福祉協議会の相談会で2人の弁護士に相談されるも全く解決しなかったため、ネットで見つけた弊協会に相談にいらっしゃいました。発達障害のある息子さんは病気がちで親の見守りが必要なのに、ご自身の体調もすぐれないため、早目に親なきあとの準備をしたいが、なにから手をつけたらいいかわからないというご相談でした。

<実施した対策>
 お祖母様は施設で過ごされ、すでに認知症で遺言などの対策ができないため、対策でできるところからやっていきましょうとお話し、以下の対策をご提案・実行させていただきました。
・ご夫婦それぞれの遺言を作成。
・長男名義の預金が1000万近くあるので、親が生活費として計画的に受取りし、親の名義で管理する。
・生命保険信託・特定贈与信託も比較した上で、最終的に次男を受託者とした民事信託が一番ニーズに合うとのことで、今後実行サポートしていく。
・ご夫婦の預金は、老後資金の運用と認知症発生時の資産凍結予防を兼ねて、受取人を次男にした一時払い終身保険にそれぞれ加入。

<対策後のご感想>
 お母様のご感想をいただきましたので、ご紹介させていただきます。

 息子や自分自身の体調も今後どうなるかわからない中で、親なきあとの準備をどこから手を付ければいいのかわからず、漠然と不安な日々を送っていました。相談してみると、まずは自分たちでできる遺言とお金の流れを整えていきましょうということ。実務もしっかりサポートしてもらい、不安が安心に変わりました。息子のお金に関しても「息子の口座に貯めておくしか方法はない」と思っていたので、選択肢が広がったのがうれしいです。

6.今後の活動について

 最後に、サポート協会の今後の活動目標をお話しします。

① 親子のライフプラン作成サポートの推進
 自分で意思決定ができない障害のある人が家族にいる場合、ただ資産を残すだけではなく、いかに本人のために有効に使ってもらうかが重要です。サポート協会では、親子のライフプラン作成の大切さを親御さんやご家族だけではなく、支援者の方々にも知っていただくために、福祉・教育・医療など多彩なジャンルの専門家とネットワーク作り情報発信してまいります。

※写真はオンライン座談会「住まい方の選択肢を広げる」配信の模様、
左から吉田理事、南山達郎氏(NPO 法人ぱれっと)田中恵美子氏(東京家政大学教授)佐藤(サポート協会代表)

② 福祉型信託の推進
 今までご相談させていただいた500件を超える親御さんやご家族のニーズを踏まえて、福祉事業者や民間サービス提供者との連携を今後も進めて行くと共に、資産管理は親が結んだ信託契約に沿って行う方法を多くの方に知っていただきながら、親なきあと準備の選択肢を広げてまいります。
 最後までお読みいただきありがとうございました。