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一般公開

#「親なきあと」問題を考えよう

第4回 「親なきあと」相談室の活動報告~一般社団法人親なきあと相談室関西ネットワーク

一般公開期間:2024年4月1日 ~ 6月30日

※当記事は2024年4月の内容です。

 はじめに 
 「親なきあと」の障害者の生活を支えるためには、手厚い福祉サービスがあれば解決するわけではありません。また、お金がたくさんあれば安心というわけにもいきません。福祉とファイナンスの両面からのサポートが必要となります。そのためには、本人に関わる支援者が、地域の専門家と連携することが重要であると考えています。
 そこで今回は、関西に拠点を置くさまざまなジャンルの専門家がメンバーに集っている「一般社団法人親なきあと相談室関西ネットワーク」を取り上げました。「親なきあと」相談室の中でも、いち早く地域のネットワークを構築されている団体です。共同代表理事の藤井奈緒さんは、家族信託普及協会の会員でもあり、講演会等で全国各地を飛び回っておられます。
レポート
  一般社団法人親なきあと相談室関西ネットワーク 代表理事 藤井 奈緒

1 個別相談とセミナー

 「うちの子には知的障がいがあって、1人で生活することができません。私がいなくなったあと、どうやって暮らしていくのか心配です。何をしておけばあの子は幸せに暮らしていけますか?」
 このような内容のご相談が、メールや電話で毎日のように寄せられます。
 まずは詳しい状況をお伺いし、何をいちばん心配されているのかを整理した上で、当相談室の専門家が、情報提供を中心に電話や面談などで対応させていただいています。
 当相談室には、私を含めて10人の相談員が所属しています。全員が何らかの障がいのある子の親や親族の立場であり、障がい児者家族の将来に関わる福祉制度や障がいのことに詳しい専門家です。
 例えば私と共同で代表を務める藤原由親税理士は、障がい者家族の相続を手掛けるスペシャリストです。そのほか、お金に関する専門家(ファイナンシャルプランナー)や社会保険労務士、相談支援専門員、住宅アドバイザー、市民団体の代表などがメンバーです。そして私は、障がい者のいるご家庭の終活全般のご相談に応じる終活カウンセラーです。それぞれ本業を持ちながら、相談活動はボランティアで行っています。 私たちは皆、年齢や性別、障がいの種別も重さも違う子の親や親族の立場なので、それぞれの障がいの特性によって違う「親なきあと」の備え方について、メンバー全員で意見を交換しながら対応させていただくよう努めています。
 また、当相談室が行う活動の1つとして、毎月開催している「親なきあとセミナー」があります。内容は、「親なきあと」の備えに関する全般的なことや、障がいのある方が生活していく上で必要となるお金や住まいのこと、成年後見制度などについてです。相談員や外部講師がリアルとオンラインで行っています。
 その他、相談員はそれぞれの専門分野のセミナー講師として、自治体や特別支援学校、親の会などから依頼を受け、日々全国を飛び回っています。

一般社団法人親なきあと相談室 関西ネットワークでは、「親なきあとセミナー」を毎月開催している

2 「家族の、家族による、家族のための」窓口

 「親なきあと」の子どもたちを、社会全体でどのように支えていくのかという問題は、ここ数年、多くのメディアで取り上げられるようになりました。そのような流れから「親なきあと」相談室という、多くは民間が手掛ける相談窓口が全国で多数開設されました。役所の窓口や福祉事務所などが対応していた相談を、民間がフォローする仕組みが徐々に構築され、私たち「一般社団法人親なきあと相談室 関西ネットワーク」も2019年6月に、仲間と共に活動を開始しました。
 多くの障がい児者の親御さんたちは、既存の相談窓口で子どもの将来の不安や悩みを打ち明けても、安心に繋がる情報が得られなかった、という辛い経験をしています。
 そこで私たちは、どのようなご相談にも当事者目線で相談にのることができ、なるべくワンストップで応じることのできる組織を作りたいと考え、志を同じくする仲間を募り、「障がい者家族の、障がい者家族による、障がい者家族のための相談窓口」を開設しました。 また、相談件数が増えるにつれ、相談内容も多岐にわたるようになり、相談員だけでは対応しきれなくなったため、障がいのことに詳しい各方面の専門家5名にサポーターとして加わってもらいました。コロナ禍の間もオンラインを活用して活動の幅を広げ、今年で6年目を迎えます。

3 お金の相談が最多

 当相談室にご相談を寄せられる方のうち、約8割は親御さんからで、残りの2割が兄弟姉妹の方(「きょうだい」と平仮名で表記します)からです。その他、支援者の立場の方からや、時には障がいのある本人さんから「親がいなくなったら、自分はどうやって暮らしていったらいいですか?」とご相談を頂くこともあります。
 数十年前に比べたら、障がいのある方が暮らしていくための制度はたくさんできましたが、「安心して暮らしていく」にはまだまだ十分とは言えません。また近年、「障がいがあっても住み慣れた地域で暮らす権利がある」と言われるようになりましたが、障がいが重ければ重いほど、実際には入居できるグループホームの数が少なかったり、居宅サービスの担い手が不足していたりするため、安定した暮らしが約束されているとは、到底言えません。そのような状況にあるからこそ、親御さんたちの心配は尽きることはなく、様々なご相談が常に寄せられています。
 親御さんからのいちばん多いご相談は「お金はいくらくらい残しておいてあげれば十分に暮らしていけますか?」ということです。現行の社会保障制度は、「物質的に豊かに暮らす」という意味においては十分とは言えません。そこで、我が子のためにどれだけの額の財産を残してあげたら、不自由なく暮らしていけるのかを気にされている方が非常に多いのです。
 一方で、多額の現金を残したところで、その財産を我が子が適切に管理できないとなると、誰が管理してくれるのか?という問題が出てきます。そこで、「残し方」についてのご相談も後を絶たず、例えば成年後見制度や家族信託など、専門的で具体的な情報を得て適切に備えたい、という方も多くおられます。

 その次に多いご相談は、「住まい」についてです。
 障がいのある人の住まいの選択肢も、以前に比べてかなり増えてきましたから、どのようなタイプの住まいが我が子に適しているのか?という情報を集めたい親御さんからの問い合わせが増えています。
 例えば、一部の地域においては親の介護が必要になってから、子どもと一緒に暮らすことができるタイプの住宅もかなり増えてきました。ただ、それについては、「親離れ」「子離れ」という観点も大切であることも伝えています。
 その他、学齢期の子の親御さんの関心事は、卒業後の進路のことや、未成年の間にしておくべき備えについてです。当相談室では「親なきあと」に直結するご相談内容でない場合でも、障がいのある子の将来についてのご相談として、仲間で知恵を出し合って丁寧に対応するよう心掛けています。

4 様々な世代の相談員を求めて

 時の過ぎるのは早いもので、当相談室を立ち上げたときから相談員の子どもたちも成長してきました。 私の長女は相談室の設立当初、支援学校高等部に在籍していて、卒業後の進路をどうしたものかと、ご相談者様と一緒に頭を悩ませていました。それが20歳になって、昨年秋よりグループホームで暮らし始めました。母親としては「子離れの一歩を踏み出せた」と喜んだのは束の間のことで、今度は娘の加齢に伴う健康や医療の問題について悩み始めました。このように、親の心配というものは、いつまでたってもなくならないものだということを、改めて痛感しています。
 だからこそ、どの世代の子の親御さんやご家族さんからのご相談も、我が事のように想像し、お話をお聴きできる相談室であることを目指しています。幼児期から成人期まで、年代も、障がい種別も様々な子の親や親族の立場にある専門家が必要であり、我々と共に相談員として活動してくれる若い世代の協力者を増やしていきたいと思っています。
 また、日本全国で活動する他の「親なきあと」相談室との連携を深め、地域をまたいでも安心してご相談いただける相談室を目指したいと思っています。

一般社団法人親なきあと相談室 関西ネットワークのメンバー(編集部注:藤井奈緒氏は前列右から2人目)