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一般公開

#諸外国の信託活用事情

第38回 信託に関する日米の裁判制度

一般公開期間:2026年10月1日 ~ 12月31日

※当記事は2026年10月の内容です。

1.信託に関する裁判制度

 今まで米国の民事信託の多様な裁判例を紹介してきましたが、背景となる米国の裁判所制度と裁判手続きには日本のそれらと比べて異なる個所があります。そこで今回は、民事信託の裁判例を読むのに必要な範囲で、米国の裁判所制度と裁判手続きおよび日本の民事信託に関する裁判所制度と裁判手続きを解説します。

2.米国の裁判所制度と裁判手続き

 米国の政治体制は連邦共和制であり、各州がそれぞれ一般的主権を保持しています。連邦は連邦憲法から与えられた制限的主権を持ち連邦裁判所を設けていますが、各州はそれぞれの憲法に基づき独自の裁判所を設けています。連邦の裁判所は連邦問題事件等の連邦に係る事件は管轄しますが、各州の裁判所は連邦憲法又は連邦法で除外される事項を除くすべての事件を管轄します。遺言の検認又は信託の訴訟に関する事件は各州の裁判所が管轄し、各州の裁判手続きにより取り扱われます。
 そこで、以下に各州の裁判制度と連邦の裁判制度を紹介します¹。なお、各州の裁判制度は州ごとに異なるので、代表例としてカリフォルニア州とニューヨーク州の裁判制度を紹介します。

(1)カリフォルニア州の裁判所制度

 カリフォルニア州の第一審の裁判所は Superior Court(上級裁判所)及び各郡に設置される同裁判所の支部です。訴額25,000ドル超の民事事件を扱います。
 Municipal Courts(地方自治体の裁判所)及び Justice Courts(治安裁判所)も第一審の裁判所ですが、訴額25,000ドル以下の民事事件を扱います。信託に関する事件は地方自治体の probate court(検認裁判所)が管轄します。
 Superior Court は Municipal Courts 等の裁判所からの控訴事件も管轄します。Courts of appeals(控訴裁判所)は Superior Court からの控訴事件を管轄します。Supreme Court(最高裁判所)はカリフォルニア州の最上級の裁判所であり上告事件を審理します。

(2)ニューヨーク州の裁判所制度

 ニューヨーク州の第1審裁判所は数種類あります。Supreme Court(最高裁判所)は、名前に「Supreme」と付いていますが、ニューヨーク州の最上級の裁判所ではなく、第1審裁判所です。原則としてすべての事件の管轄権を有するという意味で「Supreme」と呼ばれます。各郡に支部があります。County Courts(郡裁判所)及び Civil Court of the City of New York(ニューヨーク市民事裁判所)は訴額25000ドル以下の管轄権を持ちます。
 また、Family Courts(家庭裁判所)は家族事件、少年事件などを扱い、Surrogate’s Courts(検認裁判所)は遺言書の検認、遺産の管理、信託に関する訴訟を扱います。Appellate Division of Supreme Court(最高裁判所控訴部)は一定の控訴事件を扱います。Court of Appeals(上訴裁判所)はニューヨーク州の最上級裁判所です。

(3)連邦裁判所

 U.S. District Courts(連邦地方裁判所)は各州に設置され、連邦裁判所が管轄権を有する民事事件の第1審として、連邦問題事件、州籍相違事件を中心に審理をします。信託に関する事件は、その価値または金額が75000ドル超の場合に取り扱います。
 U.S. Courts of Appeals(連邦控訴裁判所)は全米の11の巡回区に設置され、各巡回区内の U.S. District Courts からの控訴事件を審理します。U.S. Supreme Court(連邦最高裁判所)は上告事件を管轄します。また、州の最上級裁判所からの上訴事件も管轄します。

1 インフォテック法律事務所山本隆司「アメリカ裁判制度の現状」1994

3.米国の裁判手続き

(1)米国の訴訟の一般的な流れ²

① 提訴・訴状
② Service of process(訴状の当事者への送達)
③ Removal(州裁判所から連邦裁判所への移送)
④ Motion to Dismiss(訴え却下の申し立て)
⑤ 答弁書の提出
⑥ スケジュール命令(Discovery の進捗管理)
⑦ Discovery(原告と被告の証拠開示手続き)
⑧ Motion for Summary Judgement(早期の判決を求める申し立て)
⑨ Trial(正式事実審理)
⑩ 和解/判決

 今まで家族信託実務ガイドで紹介してきた米国の民事信託の裁判例では、多くの場合、Discovery(原告と被告の証拠開示手続き)、Motion for Summary Judgement(早期の判決を求める申し立て)、Trial(正式事実審理)の場面が出てきます。そこで以下にこれらの手続きについて解説します。

(2)Discovery(原告と被告の証拠開示手続き)

 Discovery の手続きは日本にはない証拠収集と交換制度であり、裁判所は介入せず、当事者である原告と被告が直接相互に行います。Discovery では相手方から求められた情報はきちんと提出する義務があります。手続きを通じて出てきた証拠は、一定の要件の下 Trial において証拠として裁判所に提出されます。当事者は訴訟を有利に導くためには、次記のように要件事実を証明する証拠収集を行います。

① 相手方に対し Interrogatories(質問書)及び Request for Admission(自白要請) を行う。
 Interrogatories は相手方に事実関係について文書で質問し文書で回答を求めます。例えば交通事故の被害者である原告は加害者である被告に対し、事故当時の車のスピードを述べるよう文書で質問します。被告は宣誓供述書により回答しなければなりません。つまり原告は被告に対してスピード違反をしたかどうかという法的見解を質問するのではなく、時速何マイルで走行していたかという事実関係を質問します。
 Request for Admission は相手方に対し書面記載事実を認めること(自白)を要請する文書です。相手方が自白すればもはやこの事実は Trial の論点にはなりません。

② 相手方に対し Document Requests (文書提出要請) を行う。
 当事者間で請求や抗弁に関係する書面や電子データの提供を求める手続きです。但し、弁護士・依頼者間の秘匿特権(privilege)がかかっている文書は、Document Requests による提出義務がありません。

③ Deposition(証言録取書)の取得を行う。
 Deposition とは訴訟に関係する事実関係を知っていると思われる対象者に宣誓させた上で直接質問してその回答を速記録に残し録画して証拠にする手続きです。証言録取の対象者を当事者の関係者ではなく、専門家にして、その事件の損害額や因果関係を立証してもらうこともできます。この録取書は Trial で証拠として使える可能性があります。米国で伝聞証拠は排除され、日本で使われる陳述書は証拠になりません。

(3)Motion for Summary Judgement(早期の判決を求める申し立て)

 これは Discovery が終了し Trial が開始される前に提出する Motion(申し立て)です。裁判官に Discovery で出てきた証拠を Trial の開始前に審査し判決してもらう手続きです。被告側は訴訟を早期に終了させたいので通常被告側がこの申し立てをします。
 裁判所が被告提出の Motion を認容すると Dismissal with Prejudice(請求棄却)になります。裁判所が原告提出の Motion を認容すると原告勝訴になり裁判が終了します。

(4)Trial(正式事実審理)

 Trial は法廷での弁論と証拠調べの手続きです。裁判所は Discovery で出てきた証拠の信用性や証人尋問による証人の信用性を審理します。原告又は被告が陪審員裁判の要請をした場合、陪審員が審理し判決します。陪審員の判決に不服がある場合は、Motion を提出し裁判官にその判決を覆すよう要請することができます。

2 第2東京弁護士会講演録笹沼穣、大羽裕子「米国訴訟の実務~もしも日本企業が米国で歌えられたら?」2022年

4 民事信託に関する事件

 米国の民事信託の裁判手続きと裁判結果に関する留意事項は以下の通りです³。

(1)裁判手続き

① 裁判所への訴え又は請求の提起
 民事信託の訴えは検認裁判所または民事裁判所に提起します。自分の事件に対し管轄権がある適切な裁判所に訴訟を提起することが大切です。適切な裁判所とは通常受託者の所在地の裁判所です。なお、信託に関する事件が州の裁判所に提起され、この事件が U.S. District Courts で取り扱いが可能な場合は、被告は Removal の申し立てにより事件を U.S. District Courts へ移送してもらうことができます。

② Discovery(原告と被告の証拠開示手続き)と証拠収集
 訴訟の当事者は、訴訟に係るできるだけ多くの情報と証拠の収集を行う必要があります。そこで、Discovery において次のような手続きを行います。

● Deposition を出してもらうべく証人を招集する。
● 裁判所から証人に出頭を命じる召喚状を発行してもらう。
● 相手方に Document Requests を提出する。
● 金融取引記録を集めて隠れ財産を探し出す。
● 証人の陳述書を集める。

③ 裁判前の解決(調停及び仲裁)
 訴訟は費用と時間が掛かり当事者の不和を悪化させるので、訴訟手続きに入る前に紛争を解決すべく、調停及び仲裁のような手順を踏むことが多いと言われています。

④ 裁判手続きと裁判所の介入
 裁判中、訴訟当事者は自己の求める裁判結果を求めて、それを裏付ける証拠を提示します。例えば受益者は受託者の不正の証拠を提示し、遺産に対する権利を裏付ける証拠を準備します。これに対し、受託者は自己の信託財産管理が信頼できることを示す証拠を提示します。
 裁判所は信託証書の規定を解釈し、受託者がその義務を履行したかどうかを吟味し、訴訟当事者の双方が提示した主張を考慮して、事件の事実を評価します。

(2)裁判結果

 裁判所は当事者が申し立てていない事項について判断できないので(処分権主義)、原告の提示した訴訟物に基づいて判決します。民事信託の裁判では次のような結果になる事が多いと言われてます。

①
受託者の解任又は交代
②
信託財産の交付のやり直し
 例えば、遺産に法的権利がある子が意図せずに信託証書から記載されなかった場合は、裁判所はこの子が、信託証書に受益者として記載されている他の子と同じ比率で信託財産を受領できるように決定します。
③
信託証書の規定の修正
 信託証書の規定が曖昧であるか、有効性が不確かであるために紛争起きた場合において、裁判所は信託証書が大まかに描いた指図に対し修正を加えることがあります。
 例えば、裁判所は、信託証書の一部が不当な影響力の下に追加されたことにつき十分な証拠と裁決がある場合、この信託証書のこの部分を無効と判決することがあります。
④
損失補償
 もし受託者の不正の結果、信託財産に損失を生じた場合、受益者は裁判所の命令により受託者から損失補償を受けることができます。

(3)信託の紛争を予防する方法

 訴訟は費用と時間が掛かり、当事者の不和を決定的に悪化させるので、そのような事態を事前に回避する一般的な方法として下記が考えられます。

① 信託証書は明確にかつ包括的に規定する
② 信託証書を定期的に見直し更新する
③ 信託関係人の間における透明な意思の疎通の維持
④ 専門的受託者の指名
⑤ 仲裁条項を入れる
3 米国カリフォルニア州の法律事務所 RMO LLP のパートナーScott Rahn“Litigating Family Trust Disputes: A Comprehensive Guide for High-Value Estates”

5.日本の信託に関する事件の裁判管轄と裁判手続き

(1)信託に関する事件の裁判管轄

① 信託に関する訴訟は一般の裁判所の管轄です。訴訟目的の価額が140万円以下の請求は簡易裁判所、この額を超える請求の第1審は地方裁判所の管轄になります。裁判所の管轄は被告の住所等によることになっていますが、信託行為に定めることもできます(民事訴訟法3条の2~3条の7)

② 信託に関する非訟事件手続きは受託者の住所地を管轄する地方裁判所の管轄に属します(信託法262条1項)。非訟事件手続法40条及び57条2項第2号の規定は適用されません(同法263条)。
 なお、遺言の確認、遺言書の検認は家事事件手続法に従うので、家庭裁判所の管轄になります(裁判所法31条の3第1号)

(2)信託に関する裁判手続きの準拠法

 信託に関する訴訟手続は信託法の規定による他、民事訴訟法によります。信託に関する非訟事件手続は信託法の規定による他、非訟事件手続法によります。

6.信託に関する訴訟手続き

(1)信託に関する第一審訴訟手続の流れ⁴

一般の訴訟手続の流れと変わりません。

① 原告による裁判所への訴状の提出
② 裁判所による訴状の審査
③ 裁判所から被告へ訴状を送達
④ 裁判所による口頭弁論期日の指定・呼び出し
⑤ 被告による裁判所への答弁書の提出
⑥ 弁論準備手続きとして、当事者が準備書面を提出し、争点・証拠の整理手続きを行う
⑦ 裁判所にて当事者による口頭弁論
⑧ 当事者による裁判所への証拠の申し出
⑨ 裁判所にて証拠調べ
⑩ 口頭弁論の終結
⑪ 判決の言い渡し又は和解

(2)信託に関する訴訟手続きの類型

その訴訟類型を例示します。

●
受託者が受益者に適正な給付を怠っている場合は、受益者が受託者に対しその給付を求める給付訴訟。
●
受託者が忠実義務等に違反し、受益者が損害を被った場合、受益者が受託者に対しその損害賠償を求める給付訴訟。
●
受託者がその任務に違反し信託財産に著しい損害を与えたことその他重大な事由がある場合、委託者又は受益者による裁判所に対する受託者の解任を求める形成訴訟(信託法58条4項)。
●
信託契約の条項の有効性が問われている場合、受益者が受託者に対する有効性の確認訴訟。
●
信託契約の締結について、無効が確認された場合、委託者が受託者に対しその信託財産の所有権の移転、及び信託登記の抹消手続きを求める登記訴訟。
●
受託者がその権限を越えて信託財産を処分する危惧がある場合、受益者が受託者に対する民事保全法に基づく信託財産の処分禁止の仮処分の申し立て。
●
受託者の固有債務の債権者が信託財産に属する財産に対して強制執行をした場合、受託者又は受益者による異議の申し立て。この場合は民事執行法38条及び民事保全法45条の規定が準用されます(信託法23条5項)。
4 日本行政書士連合会監修「行政書士のための要件事実の基礎」日本評論社6頁

7.信託に関する非訟事件手続きの類型

(1)受託者等の選任等が適切に行われない場合

●
遺言信託において、受託者の指定に関する定めがないとき、又は予定した者が受託者を引き受けないときは、利害関係人の申し立てにより、裁判所が受託者を選任することができます(信託法6条1項)。
●
受託者の信託事務の処理に関し、不正の行為又は法令若しくは信託行為の定めに違反する重大な事実があることを疑うに足りる事由があるときは、受益者は、信託事務の処理の状況並びに信託財産に属する財産及び信託財産責任負担債務の状況を調査させるため、裁判所に対し、検査役の選任の申立てをすることができます(同法46条1項)。
●
受託者がその任務に違反して信託財産に著しい損害を与えたことその他重要な事由があるときは、裁判所は、委託者又は受益者の申立てにより、受託者を解任することができます(同法58条4項)。
●
受託者の任務が終了した場合において、信託行為に新たな受託者(以下「新受託者」という。)に関する定めがないとき、又は信託行為の定めにより新受託者となるべき者として指定された者が信託の引受けをせず、若しくはこれをすることができないときは場合に、裁判所は、利害関係人の申立てにより、新受託者を選任することができます(同法62条4項)
●
受託者の任務が終了した場合において、新受託者が選任されておらず、かつ、必要があると認めるときは、新受託者が選任されるまでの間、裁判所は、利害関係人の申立てにより、信託財産管理者による管理を命ずる処分をすることができます(同法64条1項)。
●
受益者が現に存しない場合において、信託行為に信託管理人に関する定めがないとき、又は信託行為の定めにより信託管理人となるべき者として指定された者が就任の承諾をせず、若しくはこれをすることができないときは、裁判所は、利害関係人の申立てにより、信託管理人を選任することができます(同法123条4項)
●
受益者が受託者の監督を適切に行うことができない特別の事情がある場合において、信託行為に信託監督人に関する定めがないとき、又は信託行為の定めにより信託監督人となるべき者として指定された者が就任の承諾をせず、若しくはこれをすることができないときは、裁判所は、利害関係人の申立てにより、信託監督人を選任することができます(同法131条4項)。

(2)受益権取得請求があった場合

 信託の変更等がされる場合に、これにより損害を受ける恐れのある受益者は受益権取得請求をすることができますが、受託者と受益者との間に受益権の価格の決定について協議が調わないときは、受託者又は受益者は、裁判所に対し価格の決定の申立てをすることができます(同法104条2項)。

(3)特別の事情による信託の変更または終了を命ずる裁判

●
信託行為の当時予見することのできなかった特別の事情により、信託事務の処理の方法に係る信託行為の定めが信託の目的及び信託財産の状況その他の事情に照らして受益者の利益に適合しなくなるに至ったときは、裁判所は、委託者、受託者又は受益者の申立てにより、信託の変更を命ずることができます(同法150条1項)
●
信託行為の当時予見することのできなかった特別の事情により、信託を終了することが信託の目的及び信託財産の状況その他の事情に照らして受益者の利益に適合するに至ったことが明らかであるときは、裁判所は、委託者、受託者又は受益者の申立てにより、信託の終了を命ずることができます(同法165条1項)。
●
裁判所は、不法な目的に基づいて信託がされたとき、受託者が法令若しくは信託行為で定めるその権限を逸脱した場合等において、公益を確保するため信託の存立を許すことができないと認めるときは、法務大臣又は委託者、受益者、信託債権者その他の利害関係人の申立てにより、信託の終了を命ずることができます(同法166条1項)

(4)条件付債権等に係る債務の弁済

 清算受託者は、信託財産責任負担債務のうち条件付債権、存続期間が不確定な債権その他その額が不確定な債権に係る債務について不確定なままに弁済することがでますが、これらの債権を評価させるため、裁判所に対し、鑑定人の選任の申立てをしなければなりません(同法180条1項)

8.信託財産の裁判所における破産手続

 清算中の信託において、信託財産に属する財産がその債務を完済するのに足りないことが明らかになったときは、清算受託者は、直ちに信託財産についての破産手続開始の申立てをしなければなりません(信託法179条1項)。
 信託財産が破産した場合は破産法に基づき破産手続きにより清算します(破産法244条の2以下の「信託財産の破産に関する特則」)。