家族信託普及のための実務に役立つ情報を会員の皆さまに定期発信中です!

一般公開

#諸外国の信託活用事情

第36回 受取配当金が信託収益か否かが争われた米国の判例

一般公開期間:2026年4月1日 ~ 6月30日

※当記事は2026年4月の内容です。

1.受け取り配当金は信託収益か否か?

 米国の最新の民事信託の裁判例を検索したところ、信託財産である普通株式から受領したの配当金が信託会計において収益か元本かの認識が問われた裁判例がありました。この事例で、受託者は株式配当金を通常通り信託収益と認識し収益受益者に分配しようとしましたが、受領した金額が大きかったので、残余受益者がこの受領は会社資産の部分的な清算金である、受領した金額を残余受益者に分配すべきであると主張し、訴訟を提起して受託者による収益受益者への分配に待ったをかけるとともに、受託者の責任を追及しました。

 日本において会社の年度の純利益の額を大きく上回る株式配当金が株主に支払われた場合、受託者は信託会計上これを収益か元本かどちらに認識すべきでしょうか。今回はこの米国の裁判例を参考に検討します。

2.この米国の裁判例の概要¹

(1)訴訟の提起

 クライダー家株式信託(以下「この信託」と言う)は2021年に、ハイディー・オッピー・シェフィールドを受託者として設定された。受託者は2021年に信託財産であるマスケゴン・エナジー社(以下「マスケゴン社」と言う)の普通株から多額の株式配当金を受領し、これを収益受益者に分配したが、残余受益者は自分たちに分配すべきであるとして、訴えを提起した。

(2)原告の主張

 ミシシッピー州元本及び収益法²(以下「元本及び収益法」と言う)第91-17-401条は受託者に対し、信託財産から受領した金銭を原則として収益受益者に配分するよう命じているが、事業体から部分清算金として受領した金銭は、例外として収益受益者ではなく元本受益者に配分すべきであると規定している。
 2021年にマスケゴン社から受領した金銭が多額であったので、残余受益者は、この分配金は同社の部分清算であるから、残余受益者にこれを分配すべきである。それにも拘らず、受託者が収益受益者に分配したのは、受託者の忠実義務に違反すると主張し、ミシシッピー州のジャクソン郡衡平法裁判所³(以下「衡平法裁判所」と言う)に訴訟を提起した。

(3)衡平法裁判所の決定

 この信託は2021年の6月と11月にマスケゴン社から株主宛分配金を受領した。受託者はこれを収益受益者に割り当てたが、11月末に残余受益者が衡平法裁判所に対し、受託者が提案した受領金の収益受益者への分配の延期と反対の申し立てを行うと共に、収益受益者に代えて彼らへ分配するように指図することを請求した。残余受益者はこの申し立ての根拠規定を元本及び収益法91-17-401条(d)(2)とした。しかし12月に同裁判所裁判官は受託者が元本及び収益法と信託証書を順守していたと認定し、残余受益者の申し立てを棄却した。

(4)上訴までの経過

 翌年2022年3月残余受益者は一旦上訴を申し立てたが、その後同州の民事手続き規則に従い裁判所に対し新しく発見した証拠に照らして、先に申し立てた上訴の延期を要請した。2022年10月衡平法裁判所にて再度審理が行われたが、同裁判所裁判官は前回の決定を変更することを拒否し受託者の主張を容認した。そこで、残余受益者はミシシッピー州最上級裁判所に再度の通知を行った。

1 IN RE: THE CRIDER FAMILY SHARE TRUST AND THE ESTATE OF LAWRENCEEDWIN CRIDER (2024)
  Supreme Court of Mississippi.NO. 2022-CA-00191-SCT Decided: February 08, 2024
2 Mississippi 州は旧 Uniform Principal and Income Act 2008 amendments を採用している。
  現在の統一法典は Uniform Fiduciary Income and Principal Act2018 である。
3 米国では信託に関する裁判は一般的管轄裁判所が扱う州が多いが、ミシシッピー州等の3州は
  Chancery Court(衡平法裁判所)が管轄する。

3.最上級裁判所⁴における検討

(1)原告の上訴理由

 残余受益者の計算によれば、マスケゴン社からの株主宛の分配金総額はマスケゴン社の資産の21.945%に達する。残余受益者は、マスケゴン社からの分配金は元本及び収益法91-17-401条(d)(2)の部分的清算に該当するので、これを収益受益者に割り当てたのは受託者の忠実義務に違反すると主張した。残余受益者は最上級裁判所に対し、分配金の残余受益者への割り当てを受託者に強制することを求めて、衡平法裁判所の決定を覆し、同裁判所に差し戻すよう要請した。

(2)最上級裁判所の判断基準

 当裁判所は原審の法解釈と適用を改めて審査する。当裁判所の究極の目的は、法律が曖昧か否かにかかわらず、立法者の意図を見分けこれを有効にすることであり、法律を拡大解釈も縮小解釈も行わない。

(3)争点の検討

A.マスケゴン社の分配金が部分清算においてなされ、これが元本及び収益法91-17-401 条(c)の、
  受託者に対して受領した分配金を信託元本に割り当てるさせる引き金になったか否か。
① この事案に関する元本及び収益法91-17-401条の条文:
(b) この条に別段の定めがある場合を除き、受託者は事業体から受け取った金銭を収益に割り当てなければならない。
(c) 受託者は事業体から受領した以下の金銭を元本に割り当てなければならない。
. . . (3) 事業体の全部または一部の清算で受け取った金銭。そして . . . .
(d) 受領した金銭は下記の限度又は場合に部分清算金とみなす:
   (1) 事業体が、分配時または近時に、部分清算での分配であることを示す限度で、または
   (2) 分配または一連の関連する分配で受け取った金銭および財産の合計額が、最初の受取時の直前の事業体の年度末財務諸表に
    示される事業体の総資産(gross assets)の 20%を超える場合⁵。
(e) 受領された金銭は、金銭を分配する事業体からの課税所得に対して受託者または受益者が支払うべき所得税額を超えない限度で、
  部分清算において受領された金銭とはみなされず、また、(d)(2)項の規定の結果に従って部分清算金と見なされることもない。
② この条文のこの事案への適用

 この条文は事業体から受け取った金銭は収益に割り当てるとの原則とその例外を規定する。マスケゴン社の社長は会社には部分的にも全面的にも会社資産を清算する意図はないと言明している。同社の2020年の株主宛分配金は清算金ではなく同法91-17-401条(d)(1)に規定する例外に該当しない。

 さて、残余受益者は、同社の2021年の株主宛分配金総額を2020年末の資産総計(total assets)で割り、同分配金比率が21.945%になると計算し、同分配金比率が同法91-17-401条(d)(2)に定める20%を超過するので、この例外規定に該当し、清算金になると主張した。
 しかし同例外規定は、株主宛分配金比率を直前期末の総資産(gross assets)で割って算出することになっている。

 受託者は、一般的な総資産(債務を負担しない公正市場価額)の定義に基づき、2020年のマスケゴン社の資産はその年の減価償却額及び減耗償却額により調整されなければならないので、これらを資産総計に加算して総資産を算出すると主張する。更に株主宛分配金比率の計算において同条文(e)を考慮する必要があるので、株主宛分配金総額から税債務を控除して計算すると株主宛分配金比率は15%まで低下し、同法 91-17-401条(d)(2)の例外規定にも該当しないと主張する。
 残余受益者は、この反論として部分的清算を決定する際に所得税額を考慮しないとのカルフォルニア州の控訴裁判所の非公開の判決を引用したが、衡平法裁判所裁判官を説得できなかった。同裁判所裁判官は結論として、事業体から受領した金銭は例外が証明されなければ所得であるとの推定があるので、今回の審理において、前回の決定を覆すための十分な証拠が見つからなかったと意見を述べた。
 当裁判所は衡平法裁判所裁判官の再度の決定を支持する。

B. 受託者は残余受益者に対して負っている忠実義務に違反したか。

 信託契約書はこの信託の会計上の全ての純利益は収益受益者に分配しなければならないと規定している。当最上級裁判所は、衡平法裁判所の裁判記録に含まれる証拠により、受託者が信託契約書⁶もミシシピー州の信託法典⁷も順守しているとの衡平法裁判所の判断を支持する。

4 ミシシッピー州の最上級裁判所は Supreme Court of Mississippi である。
5 前掲の Uniform Fiduciary Income and Principal Act の 401 条(e)(2)も引き続き 20%の比率を維持している。
6 信託契約書は「受託者はこの信託の信託会計上の純利益の全てを収益受益者に分配しなければならない」と規定する。
7 ミシシピー州の信託法典 91-8-1006 は「受託者は信託証書の条項に合理的に準拠して事務処理する限り、
  その準拠の結果として信任の違反があっても受益者に対する責任を負わない」と規定する。

4.最上級裁判所の判決

 当最上級裁判所は、衡平法裁判所の決定を支持する。事業体の部分的清算の計算は元本及び収益法91-17-401条(e)に基づき税引き後で判定されなければならない。

5.筆者のコメント

 会社の株主宛に支払う分配金が株式配当金か部分清算金かどうかは会社法の規定によります。信託の受託者が会社からの分配金を収益と認識するか、元本と認識するかは信託会計の定めによります。

(1)米国のモデル会社法典の規定

 米国の会社は所在地の州の会社法の規制を受けます。過半の州の会社法は、米国法曹協会(American Bar Association)の企業法務部会が起草した「モデル会社法典」を採用しています。「モデル会社法典」は会社の株式配当金(distribution)の支払い及び会社の清算分配金の支払いに関して次のように
規定しています。

① 株式配当金の支払い可能額
6.40条(a)会社は、定款の定め及び(c)項の制限に従って取締役会の承認を得て株主宛に株式配当金を支払うことができる。
(c)次の場合は株式配当金を支払うことができない。
  (1)会社が通常の営業中に期限が到来する債務の支払が不可能となる場合、
  または、
  (2)会社の総資産が、総負債の合計額に(定款で別段の定めがない限り)、配当時に法人が解散したと仮定した場合に配当を
    受ける株主よりも優先権を有する株主の解散時の優先権を満足させるために必要な資金を加えた合計額を下回る場合。
② 清算の効果
 14.05条(a)解散した会社は、存続するが、その事業及び事務を清算し、清算するために必要な事業(以下のものを含む。)を除き、
いかなる事業も行うことができない。
● 資産の回収
● 株主に現物分配されない財産の処分
● 債務の弁済又は弁済のための準備
● 株主の利益に応じて残余資産を株主に分配すること(以下略)
(c)本条に基づく清算における清算分配金の支払いは、解散した法人のみが行うことができる。

(2)米国の信託会計の定め

① 会社の分配金

 米国の会社は株式配当金を会計年度の純利益だけでなく広く剰余金からも支払うことができます。普通株の株主は、米国の会社法上は優先株の株主には劣後するものの、会社の純資産がある限り会社の資産の分配を受けることができます。そのためにこの裁判例で問題になったように、会社の分配金が株式配当金かそれとも会社資産の部分的な清算分配金かどうかが問題になります。
 旧統一元本及び収益法典に準拠する、ミシシピー州の元本及び収益法では株主宛分配金額が事業体の総資産の20%を超える場合に部分的清算金になります。

② 統一元本及び収益法典(Uniform Fiduciary Income and Principal Act)

 2018年の新統一元本及び収益法典でも、会社資産の部分的な清算分配金になる株主宛分配金の比率は次のように変わりませんが、次のように信託が事業体に有する持ち分の「公正市場価額の20%を超える場合」に変更になりました。

(事業体からの受領金の種類)
新統一元本及び収益法典 401 条
(a)本条では「資本的分配」(capital distribution)とは、(A)資本の払い戻し(return of capital)、(B)事業体の全部または部分的清算における分配金、を言う。
(c)受託者は、(1)事業体から受領した金銭、(2)事業体から受領した額面金額がある有形動産、を収益に割り当てなければならない。
(d)受託者は、(1)事業体から受領した金銭及び額面金額がある有形動産以外の財産、(2)事業体に対する持ち分と交換して事業体から受領した金銭、(3)受託者が資本的分配と判断した事業体から受領した金銭、(4)規制された投資会社から受領した金銭、を元本に割り当てなければならない。
(e)受託者は、(1)事業体が示す事業体の分配金の種類を信頼して、(2)事業体に有する持ち分の「公正市場価額の20%を超える場合」、(3)事業体の経常利益等の額を考慮して、事業体から受領した金銭を資本的分配と決定することができる。

(3)日本の会社法の規定

 日本の会社法は、会社の配当金の支払い及び会社の清算金の支払いに関して、次のように米国のモデル会社法典より厳しい規制を課しています。

① 配当可能額

 株式会社はその株主に対し剰余金の配当をすることができます(会社法453条)が、剰余金の配当は分配可能額を超えてはなりません(461条1項8号)。
 分配可能額とは剰余金の額に臨時決算による期間損益を加減し、自己株式の取得に要した財源を控除して算出します(461条2項)。剰余金の額はその他資本剰余金及びその他利益剰余金の合計額です(446条)。剰余金の配当は株主総会の決議が原則ですが、会計監査人設置会社は例外的に定款の定めにより取締役会が定めることができます(454条、459条)

② 会社の清算

 株式会社は解散等をした場合は会社法第9章の定めるところにより清算しなければなりません(会社法475条)。清算する会社は清算株式会社と言い、清算が結了するまではなお存続するものとみなされます(同法476条)。清算株式会社は債務を弁済した後でなければ、その財産を株主に分配することができません(同法502条)。清算株式会社は残余財産を分配しようとするときは清算人または清算人会の決定により(同法504条)、清算人がその職務として残余財産の分配を行います(同法481条3号)。

(4)日本の信託会計の定め

① 信託会計と会計の慣行

 信託の会計は一般に公正妥当と認められる会計の慣行に従うものとされます(信託法13条)。
 企業会計基準委員会が定める企業会計基準適用指針第3号「その他資本剰余金の処分による配当を受けた株主の会計処理」によれば、株主がその他資本剰余金の処分による配当を受けた場合、それが売買目的の有価証券からの場合は受取配当金として計上します。株主が売買目的でない有価証券からの場合は、配当が投資の払い戻しの性格を持つので、配当額を当該有価証券の帳簿価格から減額します。配当原資が不明の場合は受取配当金に計上できます。

② 所得税の扱い

 剰余金の配当を受領した個人または法人は、配当所得又は益金として課税されます(所得税法22条、24条、法人税法22条)。受益者等課税信託において株式配当等の信託収益は受益者に帰属するものとみなされます(所得税法13条1項、法人税法12条1項)。
 なお、公募型株式投資信託の収益分配金については、投資家の個別元本を上回る部分から支払われる分配金を普通分配金と言い、配当所得として課税されます。個別元本を下回る部分から支払われる分配金を元本払戻金(特別分配金)と言い非課税になります。元本払い戻し金支払い時には個別元本が減額されます。

③ 受託者の会計処理

 会社の株式配当額は会計年度の損益そのものではありません。会社は当該年度の純利益を大きく超過した額を株式配当金として株主に支払うことができます。当該配当金がその他資本剰余金の処分による配当である場合、受託者は、それが売買目的の有価証券からの配当金の場合は受取配当金として計上し、売買目的でない有価証券からの配当金の場合は当該有価証券の帳簿価格から減額します。清算株式会社がその残余財産を支払った場合は、受託者は受領額を帳簿価格から減額します。