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#諸外国の信託活用事情

第28回 米国の受益者連続信託 -承継受益権の評価方法- その 1

一般公開期間:2024年4月1日 〜 2024年6月30日

※当記事は2024年4月の内容です。

前書き

 受益者連続信託では、委託者の生前は委託者自身が信託財産を享受し、委託者の死後はその承継先を後々の世代まで指定しておくことができます。遺言ではこのような指定をすることができないと解されているので、受益者連続信託の利用価値が高いのですが、日本に於いては遺留分侵害額請求の場合に民法上承継受益権の評価の方法が明確でなく、相続税法上も承継受益権に対してその経済的価値からかけ離れた過大な課税が行われる危険があります。
 民事信託の先進国の米国に於いて受益者連続信託の受益権がどのように評価されているのでしょうか。このシリーズの前回では米国では承継受益権に対する「ひも付き条項(the String Provisions)」特例による遺産税の課税があるが、二重課税の防止の手当てがあることを報告しましたが、今回は米国の受益者連続信託の承継受益権の評価の方法について報告します。米国の信託受益権の評価方法については、以前に拙著で多少の解説を行いましたが(注1)、本稿では昨年改正された米国の財務省規則等に基づいて報告します。日本では受益者連続型信託の承継受益権の評価について解説した論考は、知る限りにおいて見当たらないので、米国の評価方法が参考になると思います。ただし、米国の評価方法は複雑ですから、複数回に分けて報告します。

注1:共著「受益権複層化信託の法務と税務」日本法令2020年の第5編3章

第1 問題提起

1. 受益者連続信託の受益権評価の問題点

 例えば後継ぎ遺贈型の受益者連続信託で、委託者自らが第一の受益者となり、その死亡によりその配偶者が第二の受益者、配偶者の死亡によりその子が第三の受益者になるように、受益者連続信託では連続して将来に受益権を取得する者、受益権の取得条件、受益の期間等があらかじめ信託行為で定められています。このような多様な受益権を英米法では確定した受益権(vested interest)と未確定受益権(contingent interest)に区別します。受益者連続信託の受益権評価の問題は主として未確定受益権に関するものであり、現行の民法及び相続税法には明確な評価基準等が定められていません。

2. 受益権評価が困難な受益者連続信託の事例

(1)非公開企業の事業承継で受益者連続信託が利用される事例
 例えば、オーナーが委託者になり自社株を遺言代用信託してその死亡により後継者の長男に元本受益権を、配偶者に終身の収益受益権を与え、配偶者が亡くなったら信託が終了するが、後継者が配偶者より早く亡くなった場合に配偶者が指名する新たな後継者に元本受益権を与える事例です。
 この事例の問題点は、民法上配偶者の終身の収益受益権及び長男の元本受益権の評価をどうするか。相続税法では受益者連続型信託の収益受益権は期間制限がないものと見なされ、元本受益権の評価額は零と見なされるが、担税力のない収益受益権に対する課税をしてよいのか等です。

(2)不動産の資産承継で受益者連続信託が利用される事例
 例えば、オーナーが委託者になり次男を受託者としてその保有するオーナーの居宅と賃貸不動産に遺言代用信託を設定し、信託財産の維持管理を信託目的として、受託者がその裁量で維持管理を行い、受益者には信託財産に関し受託者への指図権がない。居宅は受託者が使用するので賃貸収益を生まないが、この居宅の受益権を長男に、長男が亡くなったときは、次男の子にこれを承継させる。賃貸不動産の受益権は兄弟3人に均等に承継させ、賃料収益は各受益者に分配する事例です。この事例では長男が改正前民法に基づき遺留分減殺請求し、裁判所は収益を生まない居宅の信託の部分を無効と判示しました。
 この事例の問題点は、受益者が受託者に対して居宅を換金して収益を生む資産に買い替えるよう指図する権限がないので、民法上居宅の受益権をどう評価するか、第2次承継受益者である次男の子の受益権をどう評価するか、相続税法上居宅の受益権を受益者連続型信託の収益を含む受益権として信託財産の全額の課税をすることができるか等です。

(3)受益権評価の困難な場合
上記事例を含み受益権評価の困難な場合を列挙すると次のようになります。
① 受益権が複層化され、収益受益権の評価の基礎となる年次収益が変動する可能性がある場合
② 受益権の対象となる信託財産が居宅等の収益を生まない資産である場合
③ 新たな受益権の取得に先行する受益者の死亡等の停止条件が付いている場合
④ 先行する受益者が後行受益者に信託財産を残すかどうかわからない場合
⑤ 受益権取得に複数の受益者の生存等の停止条件が付いている場合
⑥ 受益権の享受に受託者の裁量権がある場合
⑦ 受益権の取得が受益者指定権の行使による場合
⑧ 受益者が不治の病である等の事情により人口調査の統計に基づく生命表による評価ができない場合
⑨ 信託財産が償却資産の場合

第2 米国の受益者連続信託と受益権評価

1.英米法の不動産権

(1)不動産権の種類
 信託の歴史は英国の中世の封建的な不動産法に遡ります。その当時財産と言えば土地であり、所有者の生前にそこから発生する収益を享受し、所有者の死亡によってその相続人に移転するものでした。不動産権としては、これを無条件 に無期限に占有・収益できる権利(以下「絶対的単純不動産権」と言う)だけでなく、時系列で区切って期間収益する不動産権が認められていました。例えば被相続人の生存中のみ土地から発生する給付を受ける権利(以下「生涯権」life estate と言う)、被相続人の死後に一定期間給付を受ける権利(以下「定期不動産権」term of years と言う)等です。定期不動産権のように権利の利益享受の時期が将来になるものは「将来権」future interest と呼ばれ、このような権利の設定は多くの場合信託により行われました。残余財産受益権 remainderも将来権であり、確定している場合と条件付きで不確定な場合とがありました。
 不動産権は期限が到来すると消滅し、絶対的単純不動産権に復帰します。この「復帰権」reversion は将来権です。また、権利の帰属者を指名する権利を「権利取得者指名権」power of appointment と言います。この権利は信託設定者が留保する場合と他の者に付与する場合とがあります。権利取得者指名権は指名されて帰属権利者になる者の範囲を限定するもの(特定的指名権)と、限定しないもの(一般的指名権 general power of appointment)とがあります。一般的指名権を有する者は自分自身を帰属権利者として指名することができるので、実質的に受益権を有すると考えられます。

(2)英米の伝統的な受益者連続信託
 英国の中世では、不動産に信託の前身であるユースを設定し、その期間受益権として年金権、生涯不動産権、定期不動産権を設定者の家族に付与することが行われました。受益者の死亡等により期間受益権が終了すると信託財産が残余財産受益者に承継されました。信託設定者が復帰権を留保している場合は残余財産が信託設定者に復帰しました。これが英米の伝統的な受益者連続信託です。
 注意すべきは、受益者連続信託は、日本では資産家が資産承継目的に利用するものと見られていますが、英米では委託者が生前の信託収益を享受し、その死後は家族が信託収益を享受することを目的に利用するものであり、信託収益の享受権の期間が終了し、その結果として信託財産が承継されます。

(3)信託制度の変遷
 このユースの制度は衡平法(エクイティ)上の権利ですが、ヘンリー八世制定のユース法により否定され、ユースで認められた期間受益権は普通法(コモンロー)上の権利に転換されましたが、その後ユースは信託(トラスト)として復活しました。現代の英国では期間受益権は信託受益権としてのみ認められます。これに対し米国では期間受益権は多くの場合に信託受益権ですが、普通法上の権利の場合もあります。現代は信託財産には不動産に限らず、金銭、有価証券等があり、また年金権には保険商品、運用目的の信託には金融商品があります。しかし、本稿では民事信託の受益権に限定して検討します。

2.米国の不動産権の評価方法

(1)評価方法の定め
 米国では、内国歳入法の施行のための財務省規則として、遺産税は20.2031-7条及び20.2036-1条、贈与税は25.2512-5条及び25.2702-1条に、年金権、生涯不動産権、定期不動産権、残余財産権、復帰権の遺産税又は贈与税の課税のための評価方法が定められています。これらの定めは信託受益権だけではなく、普通法上の権利に対しても適用されます。また不動遺産に限らず、金銭、有価証券等の多様な財産権が対象になります。受益者指名権の評価については財務省規則に遺産税は20.2041-1条及び20.2041-3条、贈与税は20.2514-1条及び20.2514-3条にそれぞれ定めがあります。なお、償却資産の残余財産権の所得税(法人税も含む。以下同じ)の評価方法については財務省規則 1.170A-12 に規定がありますが、これは普通法上の権利に適用があり、信託受益権に適用がありません。

(2)簡便な評価方法
 これらの権利の評価の簡便法については、財務省の発行する保険数理表及びその解説書があります。解説書 A4は遺産税及び贈与税のために一般の受益権、B4は遺産税及び贈与税のためにユニトラスト受益権、解説書C4は所得税のために償却資産の残余財産権を評価の対象とします。

(3)評価方法の改正
 この評価のための財務省規則、保険数理表及びその解説書は、10年毎に実施される人口調査(国勢調査の相当)に基づく生命表により、10年毎に改訂されることになっています。そこで2010年の人口調査に基づく生命表により2023年に財務省規則、保険数理表及びその解説書が10年ぶりに改定されました。米国の財務省規則による受益権評価については、2023年改訂規則に基づき米国の評価方法を紹介します。

第3  改正財務省規則に基づく権利の評価方法

1. 遺産税に関する改正財務省規則 20.2031-7 条(d)

(1) 年金権、生涯不動産権又は定期不動産権、並びに残余財産権又は復帰権
 これらの権利の公正市場価額は、本規則により、内国歳入法7520条の標準的又は保険数理表に記載された特定の保険数理因子を使用して決定される現在価値とされます。但し、保険商品の年金及び保険契約(内国歳入法7720条)の価値は別途に同規則 20.2031-8条により決定されます。また同規則 20.7520-3(b)条に定める保険数理表の使用制限のある特定の権利は例外されます。現在価値の算定は本条の定める計算式、同法7520条の定める相続発生時の利率(以下「基準年利率」と言う)、及び、その適用がある場合は、人口調査に基づく生命表記載の被相続人の年齢の死亡率から導かれる基準によります。

(2)各権利の評価方法
 ① 共同収益基金と公益残余権年金信託
⚫ 合同収益基金(pooled income fund)は、各贈与者が委託者として公益団体に残余財産を寄付することを目的とし共同で設定する公益残余権信託の一種であり、同規則 1.642(c)(5)で定義されています。各贈与者が受託者に資産を移転し、残余財産権を公益法人に取り消し不能の寄付を行い、信託収益を留保して各贈与者が指名した個人の受益者に一定期間又は終身の間に給付します。各贈与者の贈与資産は合同して運用し、各贈与者の贈与財産の割合の応じた運用益を各贈与者の指名受益者に支払うので、多数の贈与者が比較的少額の財産を持ち寄って寄付するのに適した仕組みです。合同収益基金の残余財産権の公正市場価値は信託財産の価額から年次の信託収益の給付額の現在価値を差し引いた額になります(同規則 1.642(c)-6(e))。
⚫ 公益残余権年金信託(Charitable Remainder Annuity Trust)は贈与者が指名した個人の受益者に年金を支払った後の残余財産を公益団体に寄付する信託であり同規則 1.664-2(a)で定義されています。公益残余権年金信託の残余財産権の公正市場価値は信託財産の価額から年金の現在価値を差し引いた額になります(同規則1.664-2(c))。

 ② 普通の残余財産権及び復帰権
(A)確定期間の残余財産権及び復帰権(以下「残余財産権等」と言う)

 確定期間後に効力が発生する普通の残余財産権等の公正市場価額は信託財産の価値に対して、適用される基準年利率(以下「適用利率」と言う)と期間に対応する残余財産権評価率を乗じて算出されます。残余財産権評価率は適用利率と期間による複利現価率ですが、便宜的に内国歳入局が計算した保険数理表Bの残余財産権評価率を使うことができます。なお、「普通」とは収益受益者への年次の支払いが期末に行われるものを言います。
(B)1名の者の生涯に依存する残余財産権等
 1名の者の死後に効力が発生する残余財産権等の公正市場価額は、適用利率とその者の年齢に対応する残余財産権評価率を乗じて算出されます。死亡による普通の残余財産権評価率は当該年齢以降の年次死亡率の適用利率の現在価値の合計による計算式から算定しますが、便宜的に内国歳入局が計算した保険数理表Sの残余財産権評価率を使うことができます。

③ 普通の定期不動産権及び普通の生涯不動産権
 確定期間又は 1 名の者の生涯の間に特定財産の所得又はその使用に対する権利(以下「収益に対する権利」と言う)の現在価値は、当該財産の価値に適用利率、期間又は年齢に対応する収益に対する権利の評価率を乗じて計算されます。確定期間の普通の収益に対する権利の評価率は、1.000000から同じ期間の普通の残余財産権評価率を差し引いて求められますが、便宜的に内国歳入局が計算した保険数理表Bの収益に対する権利の評価率を使うことができます。1 名の者の生涯の間の普通の収益に対する権利の評価率は、同様に1.000000から年齢に対応する普通の残余財産権評価率を差し引いて求められますが、便宜的に内国歳入局が計算した保険数理表Sの収益に対する権利の評価率を使うことができます。残余財産権評価率が適用利率による複利現価率ですから、差し引き計算で得られる普通の収益に対する権利の評価率も信託収益率を適用利率と同じとみなして算出していることを意味します。これは、財産から発生する収益は年次に変動する可能性がありますが、収益に対する権利の評価のためには収益の年次変動を無視して一律に同じとみなす必要があるからです。

④ 普通の年金権
 確定期間又は1名の者の生涯の間に普通の年金を受領する権利の現在価値は、年間支払われる額に適用利率の年金評価率を乗じて計算されます。確定期間に支払われる年金の評価率は1.000000から同確定期間後の普通の残余財産権評価率を差し引いた結果を適用利率で割って算出された複利年金現価率ですが、便宜的に内国歳入局が計算した保険数理表Bの年金権評価率を使うことができます。
 1名の者の生涯の間に支払われる年金の評価率は同様に1.000000から同じ1名の者の生涯の普通の残余財産権評価率を差し引いた結果を適用利率で割って算出された複利年金現価率ですが、便宜的に内国歳入局が計算した保険数理表Sの年金権評価率を使うことができます。
 年金の支払方法が半期ごと、四半期ごと、月次、週次の期末の場合(普通の場合)は年金評価率に対してその適用利率に対応する調整率を乗じて求められます。この調整率は適用利率と年間支払回数に基づく計算式から得られますが、便宜的に内国歳入局が計算した保険数理表Kの調整率を使うことができます。
 年金の支払方法が半期ごと、四半期ごと、月次、週次の期初の場合(普通でない場合)は年金評価率に対してその適用利率に対応する調整率を乗じて求められます。この調整率は適用利率と年間支払回数に基づく計算式から得られますが、便宜的に内国歳入局が計算した保険数理表Jの調整率を使うことができます。

⑤ 確定期間又は期前の死亡時までの年金権またはユニトラスト受益権
 一定の年数の経過又は受領者の死亡の発生のいずれか早い時期まで支払われる年金の現在価値は、中途の変更による因子及び調整因子に基づく計算式を用いて計算されます。この計算式は適用利率と生命表記載の被相続人の年齢の死亡率から導かれる基準によりますが、便宜的に内国歳入局が計算した保険数理表Hの因子を使うことができます。

2.贈与税に関する改正財務省規則 25.2512-5 条(d)項

(1)年金権、ユニトラスト権、生涯不動産権又は定期不動産権、並びに残余財産権又は復帰権の贈与の評価
 これらの権利の贈与の公正市場価額は、本条の(d)項に基づき決定される権利の現在価値です。但し、金融商品の年金及び保険契約(内国歳入法7720条)の価値は別途に同規則 25.2512-6 条により決定されます。また同規則 25.7520-3(b)条に定める保険数理表の使用制限のある特定の権利は例外とされます。遺産税に関する財務省規則 20.2031-7 条(d)及び関連する条文は、これらの権利の贈与の公正市場価額の現在価値を算定するための標準的な保険数理因子を有する保険数理表とその使い方を示す事例を提供します。これらの保険数理因子と事例は贈与財産の評価額の算定に一般的に適用することができます。

(2)贈与の評価方法
 移転(すなわち贈与)された年金権、生涯不動産権又は定期不動産権及び残余財産権の公正な市場価値は、本条の(d)(2)項に基づき、かつ内国歳入法7520条の標準又は特別な保険数理因子の使用により決定される現在価値です。保険数理因子の多くは遺産税に関する財務省規則 20.2031-7 条(d)(2)にある計算式、基準利率及び、適用がある場合は、生命表の死亡率成分を使用して導き出されます。内国歳入法2702(b)に規定される適格年金受益権及び適格ユニトラスト受益権の公正な市場価額は 財務省規則 25.7520-1(c)条に基づき決定される現在価値です。

(3)贈与者が権利を留保した場合
 贈与者が財産を信託に移転し一定の権利を留保した場合、この贈与の価値は移転された財産価値から贈与者が留保した権利の価値を差し引いた額になります。
 内国歳入法2702に基づき贈与者がその家族の者のために財産を税制適格な信託に移転した場合、贈与の価値は移転された財産価値から贈与者が留保した権利の価値を差し引いた額になります。しかし、税制非適格な信託に移転した場合は、贈与者が留保した権利の価値が零とみなされるので、移転された財産価値からこれを差し引くことができません。

(4)贈与した権利の種類による評価方法
(ⅰ)合同収益基金と公益残余権年金信託

 合同収益基金の残余財産権の公正市場価値は信託財産の価額から年次の信託収益の給付金の現在価値を差し引いた額になります(同規則 1.642(c)-6(e))。
 公益残余権年金信託の残余財産権の公正市場価値は信託財産の価額から年次の定期金の現在価値を差し引いた額になります(同規則 1.664-2(c))。

(ⅱ)普通の残余財産権等
(A)確定期間の残余財産権等

 確定期間後に効力が発生する普通の残余財産権等の公正市場価額は当該財産の価値に対して、適用利率と期間に対応する残余財産権評価率を乗じて算出されます。普通の確定期間後の残余財産権の評価率は期間と適用利率による複利現価率ですが、便宜的に内国歳入局が計算した保険数理表Bの評価率を使うことができます。
(B)1 名の者の生涯に依存する残余財産権等

 1名の者の死後に効力が発生する残余財産権等の公正市場価額は、適用金利とその者の年齢に対応する残余財産権の評価率を乗じて算出されます。死亡による普通の残余財産権の評価率は当該年齢以降の年次死亡率の適用金利の現在価値の合計による計算式から得られますが、便宜的に内国歳入局が計算した保険数理表Sの評価率を使うことができます。

(ⅲ)通常の定期不動産権及び普通の生涯不動産権
 確定期間又は 1 名の者の生涯の間に特定財産の収益に対する権利の現在価値は、当該財産の価値に対し適用金利、期間又は年齢に対応する保険数理評価率を乗じて計算されます。確定期間の普通の収益に対する権利のための保険数理評価率は、1.000000から同じ期間の普通の残余財産権の評価率を差し引いて求められますが、便宜的に内国歳入局が計算した保険数理表Bの評価率を使うことができます。1 名の者の生涯の間の普通の収益に対する権利のための保険数理評価率は、同様に1.000000から同じ期間の普通の残余財産権の評価率を差し引いて求められますが、便宜的に内国歳入局が計算した保険数理表Sの評価率を使うことができます。

(ⅳ)年金権
 確定期間又は 1 名の者の生涯の間に各年末に支払われる年金を受領する権利の現在価値は、年間支払われる額に適用される年金評価率を乗じて計算されます。確定期間に支払われる年金の評価率は1.000000から同じ一定期間後の普通の残余財産権の評価率を差し引いた結果を適用利率で割って算出した複利年金現価率ですが、便宜的に内国歳入局が計算した保険数理表Bの年金の評価率を使うことができます。
 1名の者の生涯の間に支払われる年金権の評価率は同様に1.000000から同じ1名の者の生涯の普通の残余財産権の評価率を差し引いた結果を適用利率で割って算出した複利年金現価率ですが、便宜的に内国歳入局が計算した保険数理表Sの年金権の評価率を使うことができます。
 年金の支払方法が半期ごと、四半期ごと、月次、週次の期末の場合は年金評価率に対してその適用利率に対応する調整率を乗じて求められます。適用利率に対応する調整率は利率と年間支払回数に基づく計算式から得られますが、便宜的に内国歳入局が計算した保険数理表Kの調整率を使うことができます。
 年金の支払方法が半期ごと、四半期ごと、月次、週次の期初の場合は年金評価率に対してその適用利率に対応する調整率を乗じて求められます。適用利率に対応する調整率は利率と年間支払回数に基づく計算式から得られますが、便宜的に内国歳入局が計算した保険数理表Jの調整率を使うことができます。

(ⅴ)一定期間又は受領者の期前死亡まで支払われる年金権及びユニトラスト受益権
 一定の年数の経過又は受領者の死亡の発生のいずれか早い時期まで支払われる年金の現在価値は、中途の変更による因子及び調整因子に基づく計算式を用いて計算されます。この計算式は適用利率と生命表に基づきますが、便宜的に内国歳入局が計算した保険数理表Hの因子を使うことができます。

3. 保険数理表に関する改正財務省規則 20.7520-3 条

(1) 内国歳入法 7520 条(保険数理表)の適用のない信託
 同法2702(a)(2)(A)条に規定される、委託者が信託を設定し自身が一定の権利を留保してその家族の者のために権利を移転する信託に対しては、保険数理表の適用がありません。この信託が税制適格な信託(委託者定期金留保信託 Grantor Retained Annuity Trust)である場合は、定期金評価額を信託財産の価額から控除できますが、税制非適格な信託では定期金評価額が零とみなされるので、これを控除できません。
※前出共著「受益権複層化信託の法務と税務」日本法令2020年の第5編第3章309頁をご参照。

(2)同法7520条(保険数理表)の適用はあるが制限される場合
① 適用が制限される受益権

 何らかの偶発性、受託者等の権限、又はその他の制限を受ける年金権、収益受益権、残余財産権、復帰権は、その制限が信託証書、遺言、その他の管理文書に規定されるか又は他の状況により引き起こされたかを問わず、原則として7520条に定める標準の評価率を使用することができません。その場合は財務省規則20.2031-7条(d)(2)にある計算式により算出するか、又は内国歳入局に解釈の裁定を求めることができます。

 死亡率に基づく評価率が適用できない事例   被相続人の死亡時に受益者が末期の病気を患っていた場合、年金権、収益受益権、残余財産権又は復帰権の現在価値の算定に7520条の下に規定された評価率を使用できません。不治の病又は悪化する健康状態の受益者は1年以内に死亡する確率が50%以上ある場合は、本条の目的として病気が末期にあると考えられるからです。但し、個人の死亡日後に受益者が18か月以上長生きした場合は、反証がない限り、その受益者は病気が末期にあったと推定されません。

② 支払いの源泉に関する管理文書の条項及びその他の制限
(ⅰ)年金権の評価制限

 例えば年金信託の財産が今後枯渇する可能性がある場合のように、信託、遺言他の管理文書が定められた全期間に渡っての年金支払いを保証しなければ、7520条の年金の評価率を適用してはなりません。
(ⅱ)収益受益権及び類似の権利の評価制限
(A)受益者の利益享受の保証がない場合の評価制限

 普通の収益受益権の7520条の標準評価率は、信託、遺言他の管理文書が受益者にその水準の利益享受を保証しなければ、適用してはなりません。
(B)収益と元本の横流しの危険がある場合の評価制限
 次のような場合は、普通の収益受益権の7520条の標準評価率を適用できません。
(1)信託、遺言他の管理文書が受益者の同意なしに、他の者の利益のために、受益者の収益等の享受を留保し横流し、又は蓄積することを容認する場合
(2)管理文書が受益者の同意なしに他の者の利益のために、信託元本を引き出すことを容認する場合

 収益と元本の横流しの事例  ⚫ 非生産的財産の場合
 Aが遺言により株式を信託しBにその生涯の間信託収益を支払い、Bの死亡後は信託を終了させ、信託財産をCに交付することにしたが、会社はAの生前も死後も株式配当をしなかった事例では、Bの収益受益権は非生産的と考えられるので、7520条の保険数理表の標準評価率を適用してその評価をすることができません。
 なお、信託証書に於いて明文で受託者が信託株式の保持の権限を有せず、収益受益者が受託者に対し信託財産を生産的にするよう要求できる場合は、収益受益権の算定のために標準の評価率を使用することができます。
⚫ 信託元本の恣意的侵害の危険がある場合
 Aが財産を信託しAの子にその生涯の間信託収益を支払い、残余財産をAの孫に交付することにしたが、信託は受託者に無制限にAの配偶者にその安楽と幸せのために信託財産を交付する権限を与えた事例では、受託者が信託元本を侵害し、収益受益権を終了させる結果になる可能性があるので、収益受益権を保険数理的に評価してはなりません。
⚫ 信託財産を無制限に費消する権限がある場合
 被相続人が生涯不動産権を生存配偶者に、その残余財産権を子に遺贈したが、配偶者は受託者として財産の一部または全部を売却しその代金を配偶者の生活、慰安、幸福、その他の目的に使用することを含む無制限の財産費消権限を有した事例では、受託者の権限の行使が残余財産全体を枯渇させる可能性があるので、子の遺産に帰属可能な残余財産権は保険数理的に評価してはならないとされます。

(ⅲ)残余財産権及び復帰権
 普通の残余財産権等の7520条標準評価率は、これに先行する権利の管理処分規定が信託法による信託財産の保持及び保存規定に矛盾することなく、残余財産権等のために信託財産を浸食、侵害、減損、損害から十分に保持及び保存することを保証するのでなければ、その現在価値の算定に使用してはなりません。
(ⅳ)合同収益基金:省略

第 4  一般的指名権の対象資産の課税

1.内国歳入法2041条に基づく一般指名権の遺産税課税
 死亡時に終了する一般的指名権(general power of appointment)の対象資産は同法2041条の適用により遺産税が課税されます。一般的指名権の対象となる資産は被相続人の所有意思の有無にかかわらず、同法2041条の適用により被相続人の総遺産に含まれます。

(1)一般的指名権の定義
① 指名権者自身、指名権者の遺産、又は両者の債権者を受益者として指名する権限
② 信託財産を引き出す権限
③ 指名権者の個人的な利益のために信託証書を修正する権限
④ 間接的に指名権者の個人的な利益になる一定の権限。例えば指名権者を受益者として指名することによりその法的義務を免除する権限等
2)一般的指名権とはみなされない権限
 指名権者のために財産を費消し、侵害し、流用する権限であっても、この権限の行使が指名権者の健康、教育、扶養又は生活維持に関する確認給付基準(ascertainable standard)により制限される場合は一般的指名権とはみなされません。

2.内国歳入法2514条に基づく一般指名権の贈与税課税
 一般的指名権の行使または権利放棄はこの権限の所有者による財産の移転と見なされ贈与税が課税されます。一般的指名権の定義及び一般的指名権とはみなされない権限については上記の同法2041条の遺産税の課税と同じです。

第5 相続時の統一移転税制による課税

 米国では遺産税の計算では、被相続人の遺産総額に過去のすべての贈与額を累積的に加算した合計額に遺産税率を課して統一移転税額を計算し、これから過去の納税贈与額を控除して遺産税の納税額を算出します。日本の相続税時清算課税制度はこの米国の課税方式を参考にしたものです。米国では相続発生時点でこの統一移転税制により生前贈与額の全額が遺産総額に加算されて課税され、「ひも付き条項」の特例による遺産税課税が行われますが、いずれの遺産税課税についても二重課税の防止の措置があります。

後書き

 今回は米国における受益者連続信託の遺産税・贈与税の評価方法の条文を紹介しましたが、次回はこれらの評価方法がどのように適用されるかを事例に基づいて紹介します。その上で、冒頭に掲記した日本に於ける受益者連続信託評価の問題点を米国の評価方法により解決できるかどうか検討します。
 しかし、法改正をしなければ米国の評価方法を日本に適用することはできません。日本の現行法の下で何か解決方法はないでしょうか。例えば受益者連続信託については継伝承継型等が使えないか。受益権の承継にどのような条件を付けるべきか。相続税法の受益権評価特例については収益受益権を法人に持たせたらどうか。受益権を適正な対価を負担して取得したらどうか。今後検討すべき課題が多くあります。