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#ゼロから始める家族信託・生前対策コンサルティング講座

第20回 個別相談で”顧客から”依頼したいといわれるためのポイントとは︖

一般公開期間:2025年4月1日 ~ 6月30日

※当記事は2025年4月の内容です。

 ⼠業や専⾨家にとって、限られた時間内で業務を効率的に進めることは重要ですが、個別相談は単なる実務処理の場ではなく、顧客との信頼関係を築く場と考える必要があります。
 特に家族信託などのサービスは単価が⾼く、複雑な制度を利⽤するため、顧客が⼗分に納得し、⼠業・専⾨家との信⽤を得ることができなければ依頼には⾄りません。⾼価な⾞やブランド品、あるいは旅⾏など、単価の⾼いサービスを購⼊する際と同様に顧客は慎重に検討します。
 そのため、相談の場を業務処理の場ではなく、⼀般の会社の営業の現場で⾔うと“セールスの時間”と捉え、信⽤構築と、顧客にとって何が最適な選択肢かを⽰すことが求められます。

この項では個別相談の考え⽅についてお伝えします。

個別相談の会話時間は顧客の話をメインにおく

 個別相談で何よりも⼤切なのは、顧客からの信頼を得ることです。
 たとえ、知り合いからの紹介といった顧客であったとしても、初対⾯でいきなり本題に⼊ってしまうと、顧客は「私の話を聞いてくれる気がないのかな」と感じてしまうかもしれません。

そこで私が⼼がけているのは、お客様に7割、私(先⽣)は3割の時間配分で話すこと。

 なぜなら、「この先⽣は私の話をちゃんと聞いてくれる」「私のことを理解してくれる」という共感が、ご依頼につながると信じているからです。お客様がなぜ個別相談を申し込まれたのか、その背景にある想いを丁寧に伺い、じっくりと⽿を傾けることで、強固な信頼関係を築いていきます。
 個別相談は、単なる事務⼿続きの時間ではありません。お客様に「この⼈にお願いしたい」と思っていただけるかどうかを決める、まさにセールスの時間なのです。⼠業・専⾨家のサービスは、担当する⼈柄や信頼感が⼤きく影響します。顧客様は、個別相談を通じて、先⽣の⼈となりや専⾨知識、そして何よりも「⾃分に寄り添ってくれるかどうか」を⾒極めようとしています。だからこそ、個別相談はセールスだと意識し、1時間、場合によっては2時間と、⼗分に時間を確保するように⼼がけてください。

 もちろん、⽇々の業務を効率的にこなし、多くの案件を処理することも重要です。しかし、将来的に事務所の売上を⼤きく伸ばしたいのであれば、個別相談の時間を惜しむべきではありません。
 なぜなら、個別相談でお客様と深い信頼関係を築くことで、その後の財産管理、資産承継、ビジネスなど、さまざまな事後的な⼿続きの依頼につながる可能性が広がるからです。さらに、その顧客からのご紹介も期待できます。
 個別相談は、⽬の前のお客様との信頼関係を築くだけでなく、将来のビジネスチャンスを広げるための、⼤切な投資の時間だと捉えることが必要です。

個別相談は「問題の明確化」と「解決策の提案」に重点を置く

 ⼠業・専⾨家は、⾃⾝の知識やノウハウこそが商品であるため、個別相談でついつい解決策を全て伝えがちです。私も、事務所の司法書⼠や他の先⽣⽅の⾯談に同席した際、お客様第⼀で誠実な先⽣ほど、その⼿続きに対する対策から各種⽅法まで、あらゆる解決策を詳細に説明されている場⾯に遭遇します。
 これが、有料相談であれば問題ありませんが、新規のお客様獲得を⽬的とする無料相談で同じことをしてしまうと、「⾃分でもできるかも」「⾃分で解決できるかも」とお客様に思われてしまい、結果的にご依頼に繋がらない可能性が⾼まってしまいます。プロである⼠業にとっては⽇常的な業務でも、お客様にとっては初めての⼿続きである場合が多く、ご⾃⾝で⼿続きをした結果、取り返しのつかないミスが発⽣してしまうことも考えられます。
 個別相談では、まずお客様が抱える問題をしっかりと把握することに時間を割き、解決⽅法については広く浅く伝えることが重要です。お客様が抱える問題に焦点を当て、「もし何も対策をしないとどうなるのか」を具体的に伝え、解決⽅法としてどのような選択肢があるのか、それぞれの費⽤やスケジュールはどの程度なのか、といった概要を説明するように⼼がけましょう。

 説明する際のポイントとしては、第三者の事例を積極的に活⽤すること、そして、⼝頭だけでなく視覚的な資料も併⽤することです。顧客に顧客⾃⾝や家族が抱える問題点を直接指摘してしまうと、反発を招いてしまう可能性があります。

 過去の相談事例の中から、お客様の状況に近いケースを選び、失敗事例や成功事例を紹介することで、お客様⾃⾝に問題点を認識してもらうように促します。また、説明の際には、サービス内容や提案を視覚的に分かりやすくまとめた資料を活⽤することも有効です。
 個別相談の⽬的は、解決策を詳細に伝えることではなく、あくまで「問題の明確化」と「⼠業・専⾨家サービスで問題が解決できることの認識」を顧客お客様に持っていただくことだと理解しましょう。具体的な解決⽅法は、正式に依頼を受けた後にじっくりとお伝えし、顧客の問題解決を全⼒でサポートしていくことが⼤切です。
 ただし、中には「お⾦がない」「まだ具体的にどうするかは決めていない」「とりあえず知りたいだけ」といった理由で、すぐに依頼に繋がらない顧客もいます。そのような顧客に対しては、無理にご依頼を迫るのではなく、現状でできる範囲の解決策やアドバイスを誠⼼誠意お伝えするようにしています。例えば、「認知症になるかもしれない」「⾦銭の管理をできるようにしたい」というご相談に対して、費⽤⾯で不安がある場合は、「まずは銀⾏の代理⼈カードでしばらく対応し、状況を⾒ながら成年後⾒制度の利⽤を検討されてはいかがでしょうか」といった提案をします。
 このように、お客様の状況に合わせた現実的な解決策を提⽰することで、お客様に寄り添う姿勢を⽰すことができます。たとえすぐに依頼に繋がらなくても、「親⾝になって相談に乗ってくれた」という印象を残すことができ、後⽇改めて依頼をいただいたり、こちらからGoogleマップのグーグルレビューを投稿を依頼すると、⾼評価をいただけたりすることに繋がっています。仕事につながらないというような相談も、レビュー投稿など出⼝戦略を⾒極めて対応することで、⾃社の⼤切な財産となります。

専⾨⽤語は顧客には伝わらない

 家族信託や相続対策の知識と経験を積んでいくと、個別相談の中で思わず専⾨⽤語を使ってしまうということがよくあります。専⾨⽤語は専⾨家同⼠の会話の中では共通⾔語として成⽴しますが、⼀般の顧客には通じません。理解しやすくするために私の経験をお伝えします。過去に私が、事務所職員の⾯談に同席した際、お客様から家族信託に関するご相談を受けたときのことです。

それはいいですね。
家族信託の⼿続きは、まず、信託契約の内容を決めることから始まります。
信託契約には、委託者、受託者、信託財産、信託の⽬的、信託終了事由、受益者代理⼈、信託監督⼈などを記載します。
信託契約ですか︖
はい。
信託契約は、委託者と受託者の間で結ばれる契約です。信託契約の内容は、家族信託の根幹となる部分ですので、慎重に検討する必要があります。
わかりました。
信託契約の内容が決まったら、次は、信託財産の名義変更を⾏います。
不動産の場合は、法務局で所有権移転登記を⾏う必要があります。
名義変更ですか︖
はい。信託財産の名義を、委託者から受託者に変更します。
これにより、受託者が信託財産を管理・運⽤できるようになります。
その後、受託者による財産管理が必要です。
信託財産から賃料などの収益がある場合には、税務申告が必要となります。
あの、ちょっと待ってください。
受益者代理⼈、信託監督⼈とか、税務申告とか、私にはよくわからないのですが…。
あ、申し訳ございません。信託監督⼈とは、受託者の業務を監督する⼈のことです。
信託財産の運⽤状況や、信託契約の内容が守られているかなどをチェックします。
税務申告は、信託財産から⽣じた賃料などの所得に対して、税⾦を納める⼿続きのことです。
うーん、やっぱり難しいですね。
ご安⼼ください。
弊所では、お客様の状況に合わせて、わかりやすく丁寧にご説明いたします。
まずは、お客様の現状の課題や、家族信託で実現したいことをお聞かせください。
あ、はい。

 このように、専⾨知識がない⽅が専⾨⽤語を聞いていても、理解ができません。何を⾔っているのか、ほとんどわかっていない可能性があるのです。それでは、お客様との信頼関係は構築できません。 
 今後、この先⽣に知り合いを紹介したいという気持ちが⽣じない、つまり、紹介も発⽣しないことになります。関係性を構築するには、顧客が普段使う⾔葉で分かりやすく伝えていく必要があるのです。

専⾨分野に固執せず、顧客の課題全体を把握し対応する

 個別相談で最も重要なことの⼀つは、顧客が抱える問題を正確に把握することです。この点を間違えると、顧客の視点ではなく専⾨家の視点、つまり資格の枠内で解決策を提案してしまうことになります。
 例えば、「遺⾔を作成したい」というご相談があったとします。しかし、詳しくお話を伺うと、ご両親は80代で、⻑男と⻑⼥(50代)がいらっしゃいますが、お孫さんはいらっしゃらない。ご両親それぞれが資産、⾃宅、セカンドハウス、複数のアパート、⾦融資産などをお持ちである、といった状況だったとします。

 この場合、ご本⼈は「遺⾔を作成したい」とおっしゃっていますが、本当に遺⾔だけで問題が解決できるのでしょうか︖⻑男、⻑⼥ともに独⾝で⼦供がいないことを考慮すると、遺⾔を作成するだけで良いのか、⼀度⽴ち⽌まって検討する必要があります。ご両親だけの世代で考えるのか、⼦供の世代まで含めて考えるのか、財産管理対策や相続税対策は不要なのか、セカンドハウスなどの不動産をどうするのか、など、検討すべき点は多岐にわたります。将来、ご両親が認知症になり判断能⼒が低下する可能性、相続税が発⽣する可能性、納税資⾦が⼿元の⾦融資産だけでは⾜りない可能性なども考慮しなければなりません。**相談を受けた⼠業は、これまで培ってきた知識と経験を活かして、これらの選択肢を検討し、顧客に提⽰する必要があるのです。顧客が話した「遺⾔」だけでは、家族全体の問題解決には不⼗分な可能性があるのです。

 あなたが提供するサービスだけでは解決できない場合もあります。そのような時、そこで終わらせてしまうと、お客様との関係も途絶えてしまいます。特に⼠業など資格者の先⽣⽅に多いのが、⾃分の資格の範囲内で提供できるサービスだけを考えがちな点です。
 例えば、司法書⼠であれば登記や成年後⾒といった枠組みにとらわれてしまう。しかし、不動産の売却や税⾦の問題が発⽣する可能性もあります。そのような場合には、提携している専⾨家と連携して対応したり、⾃分の資格の範囲を超えて、提供するサービスの範囲を広げてみたりすることも考えてみてください。家族全体の将来を考えるのであれば、他の選択肢も検討する必要がありますし、専⾨分野以外のプロフェッショナルと連携することで、より良い選択肢と提案が可能になります。

 ⼠業・専⾨家は、その信⽤⼒から顧客の情報を引き出しやすい⽴場にありますが、同時に、⾃社が“提供できる”サービスのみに誘導してしまう危険性も孕んでいます。顧客の問題解決のためには、資格・業務の範囲内にとどまらず、全体を俯瞰した提案が求められます。
 そのためには、「情報・知識」が必要です。選択肢を増やすためには、常に学び続けなければなりません。しかし、現代はインターネットを使えば、様々な情報にアクセスできます。周辺知識の概要を把握し、個別相談でお客様に概要を説明できるレベルの情報は持っておき、詳細は⾯談後に調べたり、詳しい専⾨家につなげたりすれば良いのです。つまり、これからは⾃分の”専⾨業務”に加えて、”周辺業務”+”コミュニケーション能⼒”の3つを磨いていく必要があると⾔えます。⾃社の資格やサービスにとらわれず、枠をはみ出して考えてみることで、お客様の問題解決だけでなく、他のサービス提供、単価アップ、継続的な関係構築など、顧客サービスの付加価値向上につながっていきます。

 特にこれからの時代は、「誰に」相談するかが重要になってきます。⾃分の仕事の概念を狭めるのではなく広げるといったことを意識して、まずは相談を受け、⾃分⼀⼈ではできない業務は隣接業種と協⼒して対応していけばいいのです。

未経験の業務でも⾃信を持って対応する

 家族信託を学び始めて間もないなど、今まで経験したことのない業務に対して、「できます」と⾃信を持って答えることは、意外と多くの⼠業・専⾨家の⽅がためらってしまうことです。特に真⾯⽬な⽅ほど、「経験がないから」と正直に答えてしまいがちです。これは⼠業・専⾨家に限らず、あらゆる仕事において共通する課題と⾔えます。

 例えば、あなたが病院で⼿術を受けることになったとします。⾃信なさそうに「やったことがないので…」と答える先⽣と、「私ならできます」と⾃信を持って答える先⽣と、どちらに⼿術をお願いしたいでしょうか︖おそらく、ほとんどの⽅が後者の先⽣を選ぶでしょう。
 なぜなら、前者の先⽣からは「経験不⾜で不安だ」という印象を受け、後者の先⽣からは「困難な状況でも、なんとかしてくれるだろう」という期待感を持つことができるからです。

 初めての業務で、「経験がない」と正直に伝えてしまうと、顧客は本当にその⽅に依頼して良いのかどうか、不安を感じてしまいます。私⾃⾝も、開業当初は経験のない業務ばかりでしたが、お客様に対しては「できます」と⾃信を持って答え、その後、必死に周りの⽅々の協⼒を得ながら実績を積み重ねてきました。個別相談を受けるからには、ある程度のハッタリも必要です。まずは⾃信を持って受任し、その後、全⼒を尽くして仕事を完成させ、成果を上げれば良いのです。
 もし困難な状況に陥ったとしても、その業務に精通している⽅と協⼒すれば、必ず乗り越えられます。やったことのない業務も、経験を重ねることで⾃分のスキルとして⾝につきます。恐れずに挑戦し、⾃分の可能性を広げていくことが⼤切です。

受任するべきでない顧客を⾒極める

 個別相談は、顧客が先⽣を評価する場であると同時に、こちら側が顧客を⾒極める場でもあります。ここで⾒極めるべきは、「受任するべきでない顧客」の存在です。顧客を選ぶ視点を持つことは、円滑なビジネスを展開する上で⾮常に重要です。

 私⾃⾝の経験として、相続業務を始めたばかりの頃、どうしても仕事を受託したくて、⼤幅な値引きを要求してくる顧客を安易に受けてしまったことがあります。遺産整理の案件で、本来であれば150万円を超える報酬を頂くべきところを、「半額なら依頼する」と⾔われ、つい受諾してしまったのです。半額での対応は、プロとして決して褒められるものではありませんが、それ以上に問題だったのは、その後の顧客対応でした。
 半額で受任した⼿前、どうしても対応が後回しになり、正規の報酬を⽀払ってくださるお客様を優先してしまいがちだったのです。また、値引きを要求される⽅は、⼀概には⾔えませんが、進捗状況の頻繁な確認や、昼夜を問わない問い合わせなど、対応に⼿間取ることが多い傾向にあると感じています。案の定、そのお客様も、値引き要求に留まらず、その後も様々な要求をされ、多くの時間を割かれ、⼤きなストレスを感じる結果となりました。

 この経験から、⼠業側も個別相談で顧客の⼈間性をしっかりと⾒極め、受任すべきでない顧客を判断することが重要だと学びました。受任すべきでないと判断した場合には、勇気を持って断ることも⼤切です。そうすることで、より良い顧客との関係を築きながら、⼠業ビジネスを発展させることができるのです。

まとめ

● 個別相談では、顧客に7割、⾯談者は3割の時間配分で話すことを⼼がけ、顧客の共感を得て信頼関係を構築する。
● 個別相談の⽬的は、顧客が抱える問題と、⼠業・専⾨家のサービスによってその問題が解決できることを理解してもらうことにある。
● 専⾨⽤語は顧客には伝わらないため、顧客が普段使う⾔葉で分かりやすく説明する。
● ⾃分の専⾨分野だけでなく、周辺業務やコミュニケーション能⼒も磨き、顧客の多様なニーズに対応できるようにする。
● ⼠業の枠にとらわれず、未経験の業務でも「できる」と⾃信を持って対応し、経験を積む。
● 個別相談では、顧客が⼠業を⾒極めるだけでなく、⼠業側も顧客を⾒極め、受任すべきでない顧客の場合は、勇気を持って断ることも重要である。