※当記事は2026年7月の内容です。
特定非営利活動法人はばたきソーシャルワークス代表の山口翔多と申します。
当法人は、埼玉県川越市を拠点に、障害のある方とご家族の「親なきあと」の総合相談窓口として活動しております。障害者福祉に関する実務経験がある社会福祉士や行政書士などの専門職を中心に、障害のある子をもつ親御さんやきょうだい児の方からの相談対応のほか、法人後見やエンディングノート作成支援、親御さんの終活準備などの支援実務に対応しております。
今回は、事例やエピソードを交えながら、「親なきあと」に関する相談・実務対応のなかで感じたことを共有させていただきます。
よくあるご相談
「親なきあとが不安だけど、何を相談したらよいかわからない」、これは当法人によく寄せられるご家族の言葉です。お話を伺うと、ご本人の住まい、受けられる支援やお金のこと、親御さん自身のことなど不安を感じていらっしゃる内容はさまざまです。また、成年後見・遺言・信託など、制度の情報収集はしているけれど、具体的なイメージが持てずにいるご家族は非常に多いです。
つまり、ご本人とご家族それぞれについて、「親なきあと」の見通しが立てられていないというところに、準備の難しさがあると日々感じております。一言で「親なきあと」といっても、ご本人の日常生活のこと・医療のこと・お金のことなどさまざまですし、親御さん自身の介護・医療・死後事務や相続の準備も含みます。当法人では、このような状況にあるご家族に対し、まずは個別具体的に考えて見通しを立てるところからサポートしております。
「親なきあと」の準備の見通し
図表1は、当法人がこれまでの相談や後見実務等を通して整理した準備の全体像です。

まず、「親なきあと」という言葉を聞いて多くのご家族が思い浮かべるのは、親が亡くなった後のご本人の地域生活や財産管理であると感じております。もちろん、それらも「親なきあと」の準備として必要なことです。しかし、それ以外にも必要な準備はたくさんあります。
たとえば、親御さん自身の死後事務のうち、亡くなられた直後についてイメージしてみましょう。仮に親御さんが病院で心肺停止となると、病院から親族や後見人等のキーパーソンに連絡が入ります。細かい流れは状況によりますが、キーパーソンが病院に駆けつけ、死亡確認に立ち会い、葬儀社を手配するといった流れが一般的かと思います。その後、病院の残置物を片付け、医療費の精算を行います。そして、葬儀を行うかを決める必要があります。
仮に行わないとしても、火葬は必要となりますので、誰が立ち会うのかの調整をすることになるかと思います。そして、火葬が終わると納骨先について検討することとなります。
このように、見通しの立てかたとして、まずはご本人と親御さん、それぞれについてトピック毎に具体的なイメージをもつところから始めます。具体的なイメージをもつことで、将来どのようなことが起こりうるのかを知るとともに、そのときご自身・ご家族がどうしたいかを考えるとともに、誰がやるのか、どのような支援が必要かについて、気付きの機会となります。
親御さん自身が元気なうちに、将来の見通しを立て、ご自身やご家族の考えや価値観と照らしながら準備をすすめていくことが、「親なきあと」の準備として重要であると、日々実感しております。
見通しの立てかた 〜エンディングノート活用例〜
ここでは、見通しの立てかたについて、エンディングノートを活用した方法を紹介いたします。
当法人では、障害者福祉の経験や後見実務をもとに制作した、『はばたきろく』という親御さん向けエンディングノートを活用しております。
まず、エンディングノートを活用する目的として、情報や想いを残すという役割だけでなく、ご自身やご家族の「親なきあと」の見通しを立てるとともに、想いに気付くという役割を意識しております。エンディングノートの内容のなかには、あとで他人が調べられる内容とそうでないものがあります。たとえば、ご本人とご家族それぞれの延命治療に関する意思や親が亡くなったとき、それをどのようにご本人に伝えるか、誰に伝えてほしい(伝えてほしくない)かなどは、その人の主観的なものであり、あとからご家族や支援者が調べることは困難です。
このように、主観的な内容を重視することで、エンディングノートを機械的に埋めるのではなく、作成しながら将来を具体的にイメージし、そのときご自身がどうしたいかを考える機会を創出しております。
この見通しを前提に、必要に応じた各種制度・サービスを利用していくことで、抜け目のない「親なきあと」の準備をすすめることができます。
家族信託と任意後見の活用事例

本事例は、お母様が亡くなり、お父様も高齢であり、認知症対策を考えるようになったケースです。
お父様は、きょうだい児名義のご自宅に居住しながら、別途貸家(現状空き家)を所有している状況です。貸家の所有者であるお父様が高齢であることと、同居するご本人のこれからの生活や貸家の管理に不安を抱えているご家族の事例となります。なお、ご本人は、お父様と同居しており、今後もご自宅に住み続けることを希望されております。
まず、相談者様ご家族は、貸家と将来の介護看護等に要する金銭を信託財産とし、委託者兼受益者をお父様、受託者をきょうだい児とする信託契約を締結しました。つぎに、生活面についてです。現実的に、お父様については、近い将来、各種介護保険事業者との契約や入院契約などの必要性が見込まれる状態にありました。また、「親なきあと」を考えると、ご本人についても障害福祉サービスの契約や各種行政への申請などの必要性が生じる可能性があります。信託財産以外の財産管理についても同様です。そのため、お父様を委任者、きょうだい児を受任者とする任意後見契約を締結しました。また、ご本人についても、現時点で契約しうる判断能力があったため、同様にきょうだい児を受任者とする契約を締結しております。
これにより、お父様やご本人にかかる信託財産以外の財産管理や各種契約手続き等を、きょうだい児が権限をもってサポートすることができます。なお、後見人等について、法定後見の場合は家庭裁判所が決めることになりますが、任意後見の場合は、当事者間の契約となるため、ご家族を含めご自身が信頼できる人に任せることができるのが特徴です。
家族としての機能
本事例に限らず、「親なきあと」の準備をすすめるうえで、きょうだい児自身の将来についても見通しを立てておく必要があります。きょうだい児の方からは、物心ついたときから、自分の進学・就職・結婚などのライフイベントごとに、「親なきあと」に関する不安を強く感じ、将来についても一体自分の生活や人生はどうなるのかといった不安を感じているといった声も寄せられております。ご家族とはいえ、きょうだい児にはきょうだい児の生活や人生があります。
たとえば将来的に、ご自身の子育てをしながら、両親の介護、ご本人の支援などが同時期に重なることも考えられます。また、「親なきあと」にご本人の面倒をみてもらおうと思っていたきょうだい児が先に亡くなってしまったというようなご相談を、親御さんからいただくこともあります。ご家族についての価値観や機能については、ご家族によって異なるため、家族間での話し合いが重要であると、日々の実務で実感しております。

当法人では、ご家族の考え方や価値観、状況に合わせたサポートをしております。本事例では、きょうだい児がお父様やご本人をサポートできなくなった場合に備え、条件付の任意後見契約を、お父様とご本人それぞれが当法人を受任者とする契約をしていただきました。
これにより、お父様の今後や「親なきあと」について、原則きょうだい児が支援をしつつ、もしもきょうだい児による支援ができなくなったときには、当法人がサポートできるという体制を構築いたしました。
「親なきあと」の準備のコーディネート
ここまで、当法人の取組みやエピソードを紹介させていただきました。最後に「親なきあと」の準備をコーディネートする際のポイントを紹介いたします。それは、相談者様の想いや希望を知ることの重要性です。ご家族それぞれについて、どのような関係・想いでいらっしゃるのか、特定の制度・サービスについて、どのような認識をお持ちで、何を望んでいらっしゃるのかなど、気持ちの部分が重要であると感じております。
当法人としては、相談者様の想いを特定の制度・サービスに押し込めるのではなく、その想いを実現するために制度・サービスを上手に活用いただけるよう、意識していきたいと考えております。