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一般公開

#「親なきあと」問題を考えよう

第9回 「親なきあと」相談室の活動報告 ~ 一般社団法人あしたパートナーズ

一般公開期間:2025年7月1日 ~ 9月30日

※当記事は2025年7月の内容です。

 はじめに 
 「親なきあと」相談室の活動では、マネタイズすることが難しいため、どうしても思いのある方々のポランティア精神に頼らざるを得ないという課題があります。
今回執筆してくださった首藤さんは、セミナー開催や個別相談対応といった基本的な活動に加え、個人向けにオンラインコミュニティを立ち上げたり、障害者を雇用する法人向けに支援プログラムを提供したりといった、有償の新しいサービスを積極的に立ち上げ、持続可能な団体とするために体制を整えようとしています。
 「親なきあと」相談室の一つのビジネスモデルになる可能性がある取り組みで、私も大いに期待しています。
レポート
  一般社団法人あしたパートナーズ 代表理事 首藤 徹也

1)あしたパートナーズの成り立ち

 きっかけは、私自身の家族が抱える「親なきあと問題」について、後に一緒に団体を立ち上げることとなる伊藤弁護士(前代表)に打ち明けたことでした。

 当時の私は、プルデンシャル生命保険でライフプランナーとして駆け出しの時期でしたが、そんなある日、母が癌を患っているという知らせを受けました。その知らせは、私の中に漠然とした「親なきあと問題」への不安を呼び起こしました。そして同時に、それを誰にも相談できずにいるという歯がゆさと、社会的な孤立感を意識することにもなったのです。
 当時は仕事に追われる日々を過ごしており、「その問題にはまだ向き合いたくない」という思いが本音でした。障害のある兄との間に一定の心理的な距離を感じていた私にとって、「親なきあと問題」は、あまりにも重く、深刻にのしかかる課題だったのです。それから数年が経ち、母が再び癌を患ったことを知ったとき、私はようやく、この問題と真剣に向き合う決意を固めました。そして、公私にわたり日頃から信頼を寄せていた伊藤弁護士に思い切って相談を持ちかけました。話をするうちに、伊藤弁護士ご自身にも似たような背景があることが分かり、「やっと相談できる人に出会えた」と感じたことを、今でも鮮明に覚えております。
 とはいえ、当時の私たちには、「親なきあと問題」に関する具体的な知識は乏しく、ただ漠然とした不安を抱えていただけの状態でした。「もっとこの問題について深く理解したい」そんな思いから、渡部伸先生のご著書を拝読し、さらに多くの当事者家族の皆さまや、障害福祉施設の経営者・職員の方々のもとを訪ね、直接お話を伺いました。その中で見えてきたのは、当事者家族の多くが「親なきあと問題」について、「誰に相談してよいのかわからない」、「士業や専門家に相談するにも、自身の課題が整理できていない」といった、相談以前の段階で立ち止まってしまっているという現状でした。そこには、「気軽に相談ができ、なおかつ課題整理を手伝ってくれる存在」への大きなニーズがあったのです。

 私たちは、自らの育ってきた家庭環境、そして職業を通じて得てきた知識や経験を活かし、障害のある方の親御さんやきょうだいといったご家族の方々に寄り添いながら、「親なきあと問題」を中心としたご相談に対応していこうと決意しました。そして2019年2月、伊藤弁護士と共に「あしたパートナーズ(以下:当団体)」を立ち上げ、「親なきあと問題相談室」としての活動を開始いたしました。

左・首藤、右・伊藤弁護士(2019年2月 あしたパートナーズ設立時に撮影)

2)「親なきあと問題」に関する個別相談とセミナー

 当団体の「親なきあと問題」に関するご相談は、活動開始以降、述べ1,300件ほどの個別相談に対応させていただきました。現在、13名(2025年5月時点)の障害福祉分野に詳しい専門家(ファイナンシャル・プランナー、弁護士、社会保険労務士、税理士、司法書士、小児科医)が所属しており、個別相談の対応やセミナー講演を行なっています。なお、このメンバーのほぼ全員が当事者家族です。

 個別相談はオンラインか来所(ご希望があれば出張も可)にて面談を行います。ご相談内容は多岐に渡りますが、親なきあとの「住む場所」「ライフプラン」「障害年金」「成年後見制度」「財産の遺し方や財産管理」「きょうだい児」「相続・事業承継」等ついて、ご相談をいただきます。各種専門家がご相談内容に応じて、チーム編成をして、ご相談に対応させていただきます。
 このような「親なきあと問題」に関するご相談は有料となっており、月会費1,480円(オンラインコミュニティ「あしたね」の入会が必要)です。有料にしている理由としては、当事者家族の抱える「親なきあと問題」について、社会的な問題として捉えていますが、障害者本人ではなく、当事者家族が抱える問題に対して、国や自治体の予算で事業運営していくことは難しいからです。また、実際にご相談をされる親御さんが亡くなる時期は数十年後となる可能性が高いことから、そのような大切なご相談を対応させていただく上で、当団体として、経済的にも持続可能な運営をしていくことが重要であると考えています。
 当団体の専門家は大きく2つに分類されます。主に、生命保険会社に勤務するファイナンシャル・プランナーを「パートナー」、弁護士、社労士等の士業を「アドバイザー」としています。パートナーは当事者家族であるご相談者の「親なきあと問題」に関する伴走者です。
 「親なきあと問題」に関するご不安を含めて傾聴に徹し、ライフプランニングの設計やキャッシュフロー表を用いて資産計画を立て、今後の見通しを一緒に考えます。
 その中で、成年後見制度や遺言、信託等の法律面、相続時の税務面、障害年金、きょうだい児の心のケアといった専門性の高いご相談が出てきた場合には、適宜内容に応じて、パートナーがアドバイザーと連携し、パートナー同席の元、面談に対応していく形をとっています。
 パートナーが生命保険会社の保険外交員であることについて、ご意見をいただくことも稀にありますが、個人的には、当事者家族の抱える「親なきあと問題」や生活に関する苦労がイメージできて、かつ「資産」「法律」「税務」「相続」等に関する幅広い専門知識を持ち合わせてご相談の対応ができる職業として、保険外交員が適任だと感じています。もちろん、課題に対して生命保険の見直しが必要な場合には、ご案内させていただくこともございますが、大切なのは「親なきあと問題」に関する準備になりますので、必要なアドバイスや対策等を中心にご案内しております。また、現時点で、パートナーはプルデンシャル生命保険のライフプランナー(ファイナンシャル・プランナー)のみとなっておりますが、特定の生命保険会社のみに限定している訳ではありません。
 ご相談者から当団体にご相談いただくきっかけとしては、直接HPにお問い合わせをいただいたり、障害福祉事業者や相談支援機関、特例子会社等の企業担当者からご紹介いただいたり、保険外交員や士業の顧客をご紹介いただいたりと様々ですが、一番多いのは、「親なきあと問題」に関するセミナー講演後に個別相談に進むケースです。社会福祉協議会、障害福祉施設、特別支援学校、親の会、特例子会社等主催のセミナー(ウェブセミナー含む)で累計約300回の講演をしてきました。このセミナーをきっかけに「親なきあと問題」の準備を始められる方が多いです。

2025年3月に実施されたセミナー風景

3)「親なきあと問題」に関するご相談の事例紹介

 1つのご家族からのご相談について、1回の面談で終わる場合もございますが、多くのご家族が「今後の見通しを立てたい」という理由で、継続的なご相談や生前対策の準備を含めて、短くて数ヶ月、長くて2〜3年程の期間をかけてご相談いただきます。ある程度、今後の見通しがたった後でも状況の変化に応じて、アフターフォローが必要となるケースが多いです。このようなケースでも、後述する「あしたね」に入会いただいていれば、いつでも、専門家へご相談いただくことができます。
 親なきあと対策が完了した後のフォローとして、特に多くご連絡をいただく内容は「障害のある本人がグループホームを利用することを検討したい(利用することになった)」というものです。
当団体が対応させていただいた親なきあと対策に関するご相談事例については、下記のURLよりご参照ください。

参考:https://www.ashita-partners.com/case/(当団体のHP「相談事例」より)

4)オンラインコミュニティ「あしたね」の運営

 オンラインコミュニティ「あしたね」(以下:「あしたね」)は、当事者家族限定の匿名で参加できる「親なきあと問題専門」のオンラインコミュニティです。会員費用は、月会費1,480円(ご入会から1ヶ月間は無料)になります。なお、弁護士による遺言作成など、別途費用が発生する場合がありますのでご了承ください。
 今までのセミナー講演や個別相談を通じて、「全国各地域で孤立している当事者家族」を目の当たりにしてきました。また、活動の中で、情報発信が専門家側から当事者家族へ一方通行になっていることや、リアルな繋がりだけではなく、多忙な方でも都合の良いタイミングで参加できるオンライン上のコミュニティがないことも、この取り組みを行なっていく上での課題だと感じていました。そこで、当団体で「親なきあと問題」相談室と当事者家族を繋ぐオンラインコミュニティを構築することで、当事者家族と専門家が気軽に交流し、当事者家族が「親なきあと問題」についての準備を始めるきっかけが創出できると思い、サービス提供を開始しました。

「あしたね」にご入会いただくと、当事者家族の方は、以下3点の特典があります。

① 「親なきあと問題」に関して、専門家に直接相談できる(回数制限なし)
② 「親なきあと問題」に関して、他の当事者家族と情報交換ができる
③ 「親なきあと問題」に関する最新情報や会員限定のイベントを実施

 主に、当事者家族の方が「あしたね」に入会される目的としては、「専門家に親なきあと相談をしたい」「親なきあとが起きた後に残された家族の相談相手になってほしい」というものです。実際に、「あしたね」内では、当事者家族の方が、他の当事者家族や専門家に「親なきあと問題」に関して、ご自身が抱えている「住む場所」「生活や就労」「お金のこと」「きょうだいのこと」など、様々な質問や経験などを投稿しており、その投稿を見た他の会員や当団体の専門家がアドバイスやリアクションをしている様子を見て、「あしたね」がエリアやご年齢に関係なく、一つの居場所になっていることを実感しています。

参考:https://www.oyanakiato.net/(「あしたね」専用ランディングページ)

5)企業・障害福祉事業者とのパートナーシップ

 世間的に、当事者家族の抱える「親なきあと問題」について、あくまで「その家族の問題」であると捉えられている現状を多く目の当たりにしてきました。しかし、ご家族だけで、「親なきあと問題」の準備を進めていくことは難しい側面もあります。そこで当団体としては、障害者雇用を行う企業や障害福祉サービスを提供する障害福祉事業者(以下:当該企業)との業務提携を行うことで、当事者家族が「親なきあと問題」の準備を始めるきっかけを創出し、親なきあとが起きたあとも、障害のある本人を始め、そのご家族がそれぞれ安心して生活できるよう、一緒にその問題に向き合っていく取り組みを行なっています。

① 「親なきあと」支援プログラム

 「親なきあと」支援プログラムは、企業・障害福祉事業者が当団体と「親なきあと」支援プログラムの利用契約を締結することで、企業であれば障害のある従業員のご家族様や当事者家族である従業員様、障害福祉事業者であれば施設利用者のご家族様や当事者家族である従業員様(以下:対象者)が「あしたね」を割引価格(1,000円または0円)で利用できるようになり、「親なきあと問題」に関するご相談および準備を促進させる目的のプログラムです(企業・障害福祉事業者が福利厚生等の一環として、上記差額分をご負担いただくことになります。)。
 障害者雇用を行う企業においては、障害のある従業員がご家族から様々なサポートを受け、仕事に定着していることも少なくなく、親なきあとが起きた場合に、就労を継続できなくなってしまうリスクがあります。また、当事者家族である従業員様に関しても、その方のお子様やきょうだいの対応で就労時間の制限を余儀なくされ、就労を継続していけるかの不安を抱えながら、働かれている方もいらっしゃいます。これらの問題は企業としても大きな課題でありますが、企業において、どのようにその問題に関わっていくかという部分においては難しさを感じていらっしゃるのが実情です。そこで、当団体が対象者と「親なきあと問題」の準備を一緒に進めていき、いざ親なきあとが起きた場合に備えることで、それぞれが安心して働いていける環境の構築を一緒に目指していきます。
 障害福祉サービスを提供する障害福祉事業者においても同様です。施設利用者のご家族様より、施設の管理者や職員は「親なきあと」に関してのご相談を受けることは少なくありません。特に、障害者グループホーム事業の施設運営をされている場合、「親なきあと問題」がその当事者家族の問題だけではなく、その施設側の問題としても捉えられています。
 企業・障害福祉事業者と、そこに関係する当事者家族と、当団体が三位一体になり、この問題と向き合うことで、「親なきあと問題」に関して、社会全体で支え合っていく、一つの基盤ができていくと信じています。

② よりそいサポート

 よりそいサポートは、主に障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)や、相談支援事業所といった、障害福祉事業者と当団体が利用契約を締結することで、障害福祉事業者の管理者や相談専門員等が、相談者である当事者家族から「親なきあと問題」に関してのご相談を受けた際に、当団体の専門家(パートナー)にご相談していただける後方支援サービスです。
 元々、「親なきあと問題」のご相談先として、障害のある方が利用している施設や相談支援事業所、なかぽつ等といった相談支援機関にご相談の多くが寄せられていました。そのご相談内容は、障害のあるご本人の福祉サービスに関することや、今後の計画相談についてはもちろんですが、そのご家族が抱える「親なきあと問題」に関してもご相談が入っていきます。そのご相談の中には、「今後の必要なお金の話」「財産管理」「資産の遺し方」「相続・事業承継」等に関する専門性の高いご相談も入っています。
 ある相談支援事業者の相談専門員の方から、こんなことを伺いました。「現在、施設長の個人的なネットワークで『親なきあと問題』に対応しているが、施設長が退職されたり、万が一があったら、施設として対応が難しい」というものでした。こういったご相談を当団体にお寄せいただくことが多くなってきたため、このサービスを立ち上げ、リリースすることしました。

参考:https://www.ashita-partners.com/service/support.html(当団体HP「私たちにできること」内の「「親なきあと」支援プログラム」より)
参考:https://www.ashita-partners.com/service/yorisoisupport.html(当団体のHP「私たちにできること」内の「相談支援機関向け よりそいサポート」より)
参考:https://www.ashita-partners.com/archive/(当団体のHP「導入事例」より)

6)さいごに

 私たち、あしたパートナーズは、これからも、自らの育ってきた家庭環境、そして職業を通じて得てきた知識や経験を活かし、障害のある方の親御さんやきょうだいといったご家族の方々に寄り添いながら、活動してまいります。