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一般公開

#「親なきあと」問題を考えよう

第8回 「親なきあと」相談室の活動報告 ~ 一般財団法人お寺と教会の「親なきあと」相談室 代表理事 小野木康雄 ~

一般公開期間:2025年4月1日 ~ 6月30日

※当記事は2025年4月の内容です。

 はじめに 
 障害者や家族を支えてくれるのは、福祉や医療だけとは限りません。お寺や教会は、昔から地域の中で社会貢献を行っています。そして檀家や信者の困りごとについて、話を聞く機会が多い立場でもあります。
 こういった身近なところにあるお寺や教会が、障害者の「親なきあと」を支える場所になってくれればという思いで、この法人は立ち上がりました。課題について直接的に取り組むというよりは、不安や苦しみを分かち合いながら、地域の専門家と連携して問題解決を図る「伴走型支援」に力を入れています。
 代表理事の小野木氏は、宗教専門紙を発行する会社の代表として、「親なきあと」問題に取り組んでくれる宗教家を増やそうとアピールされています。「親なきあと」相談室の中でも異色の存在ですが、この趣旨に賛同して、活動に参加するお寺も徐々に増えてきています。
レポート
  一般財団法人お寺と教会の「親なきあと」相談室 代表理事 小野木康雄

心の「寄る辺」をつくるために

1)当事者が訪れる相談室

「こんにちは。きょうも早いですね」と私。
「うん。まだ開いてへんね?」と男性。
「まだなんです。そうだ、受付のテントを一緒に立ててくれませんか?」とお願いすると、男性は「よっしゃ」と快諾してくれた。

 京都駅から徒歩8分の街中にある城興寺( 京都市南区)で、3カ月に1度開かれる「親あるあいだの語らいカフェ」。障害のある子やひきこもりの当事者が、親から面倒を見てもらえなくなった後にどう生きていくかという「親なきあと」について、家族や支援者たちが不安や悩みを打ち明ける場だ。

 参加者は毎回20~30人ほど。障害者家族だけでなく、地域包括支援センターの職員や民生委員、税理士、司法書士などの専門家も訪れる。親なきあととは直接関係のない近所の人も開催を楽しみにしている。知的障害や発達障害のある本人が「親が死んでしまったら、自分はどうやって生きていけばいいの?」と、切実な思いを抱えて来ることも多い。

 冒頭の男性も、そうした当事者の一人だ。住職や他の参加者たちと毎回、他愛のないおしゃべりをして、帰っていく。来たときと比べ、晴れやかな表情を浮かべて。

2)「伴走型支援」に力を入れる

 一般財団法人お寺と教会の親なきあと相談室は2021年10月に設立された。さまざまな宗教・宗派を中立に扱う新聞( 宗教専門紙)を発行している株式会社文化時報社が母体となっており、事務所は京都市下京区の同社の中にある。
 財団は、全国のお寺や教会に〝支部〟をつくってもらい、それぞれの支部が独立した親なきあと相談室として活動できるよう支えている。2025年2月現在、まだ教会の参加はないものの、全国18カ所のお寺が支部を設けており、その大半が「親あるあいだの語らいカフェ」を開催している。

 お寺や教会だからといって、高額な商品を買わされたり入信を強制されたりすることは一切ない。特定の宗派に肩入れしているわけでもなく、さまざまな宗派のお寺が参画している。
 各支部は、それぞれが専門家とチームを組み、あらゆる相談に乗れるようになることを目指している。
 親なきあとには実際に亡くなった後を支える公的制度がほとんどない。このため、弔いに関する課題解決を視野に入れながら、簡単には解決しようのない不安や苦しみ、悲しみを分かち合う「伴走型支援」を行うことに力を入れている。

3)継続が一番大事

 「親あるあいだの語らいカフェ」は、開催方法や頻度を各支部のお寺に委ねている。全員で輪になる所もあれば、テーブルごとに分かれて少人数で語り合う所もある。住職は司会をしたり、発言権があることを示すボールを回したりと、参加者が満足して話せるように工夫する。

 開催頻度は月1回、3カ月に1回、年3回…と、まちまちだ。
 お寺には、お盆やお彼岸の法要・行事のほか、子ども食堂やマルシェなど地域に開かれた催しをする所も多い。そうした忙しい中でも「親あるあいだの語らいカフェ」を実施するためには、それぞれのお寺が実情に応じて、無理のないスケジュールを保つ必要がある。
 当事者や家族に、親なきあとのことをお寺に相談してもいいのだと分かってもらうこと、たとえ今は都合がつかなくてもいつか行けるかもしれないと思ってもらうこと―。そのために、継続することを何よりも大事にしている。

4)お寺が穏やかな場をつくる

 「親あるあいだの語らいカフェ」の参加者からは、おおむね好意的な感想をいただいている。よく聞かれるのが「話しやすい」「落ち着く」といった雰囲気に関する声だ。

 一般的な語り合いや分かち合いの場では、運営者が「他の人が話しているときは最後まで聴く」「話を否定しない」「良かれと思っても、自分の意見を押し付けない」などのルールを事前に共有するのが通例だ。

 しかし「親あるあいだの語らいカフェ」では、あえてそのような注意をしなくても、不思議と穏やかな場になる。参加者は互いにリスペクトしながら、肩肘張らずに語り合う。
 どうしてそうなるのかは、開いている私たちにもよく分かっていない。ただ一つ言えるのは、お寺には私たちが想像する以上に「場の力」があるということだ。

 ある障害者家族の女性が、語り合いの輪から外れて1人だけ本堂に座っていたことがあった。女性は本尊の前で、長い時間じっと手を合わせていた。
 親なきあとの問題に直面すると、家族はどうしようもない現実に打ちのめされることがある。そんなとき、お寺は家族を優しく包み込んでくれるのかもしれない。

5)現代の駆け込み寺として

 「駆け込み寺」という言葉がある通り、お寺は昔からあらゆる困りごとに対処し、人々の寄る辺となっていた。
 「親あるあいだの語らいカフェ」では、親なきあとへの不安や悩みを抱える人たち同士が支援者、専門家と緩やかにつながる。話を聞いてくれて、寄り添ってくれる人々がいると分かることで、孤立感が解消される。そして、いざというときはお寺に頼り、相談できると思えること自体が、心のお守りになる。

 私たちは、こうした現代の駆け込み寺が全国津々浦々に広がることを願っている。18カ所の支部の住所・連絡先や「親あるあいだの語らいカフェ」のスケジュールなどはホームページに掲載しているので、ぜひご参照いただきたい。