※当記事は2024年10月の内容です。
一般社団法人 障害のある子のライフプランサポート協会 代表理事 佐藤加根子
1.障害のある子のライフプランサポートとは?
障害のある子のライフプランサポート協会、代表理事の佐藤です。
私には今年33歳になる知的障害を伴う自閉症の息子がいます。シングルで息子を育てながら、ファイナンシャル・プランナーとして、多くの方にお金に関するアドバイスをしてきましたが、50歳を超えたある時、急に不安に襲われたのです。「自分がもし死んでしまったら、残された息子はどうやって暮らしていけばいいの?お金はいくらあればいいのだろう?」と。
自身でライフプランやお金を扱う仕事をしていながら、障害のあるわが子の親なきあとの準備ということについは、恥ずかしながら全く知りませんでした。ショックを受けると同時に、同じような親御さんにお伝えしなければと思い、この活動を始めました。
福祉のサポートは相談窓口がありますが、障害者家族のお金やライフプラン全般に関する窓口はありません。もちろん相続に精通した専門家はたくさんいらっしゃいますが、障害のある人やそのご家庭への親なきあと問題を含めたアドバイスができる方は少ないのが実情です。
中でもお金の持ち方、残し方について、親の気持ちを一緒に考えてサポートできる窓口が必要と強く思い、2020年に中沢信義司法書士(理事)の協力を得て、一般社団法人障害のある子のライフプランサポート協会(以後、サポート協会)を立ち上げました。
現在は、社会福祉士で発達障害者の自立生活をサポートしている吉田佳代子氏にも理事に加わっていただき、「お金・法律・福祉」3つの輪で活動しております。
2.理念と活動について
わが子に知的や発達障害があると、親はライフステージの色々な場面で選択肢が限られてしまうという苦い経験を持ちます。それ故に未来に希望が見いだせず、自分たちが子を見守ることができなくなった「親なきあと」への不安はより一層大きくなるのではと考えています。
障害のある人とそのご家族が『これしかない』という選択肢から多様な未来を描ける社会を創り出し、親子が共に心豊かに生きるためのサポートを全力で行います
サポート協会ではこのような理念のもと、まずは多くの方に情報発信していくことを重要課題として取り組んでいます。具体的には、講演会やブログ・SNSでの発信と定期的なオンライン講座の開催を軸に活動しております。
3.オンライン講座について
具体的には、毎月1回福祉や教育、医療も含めた様々なジャンルから専門家をゲストにお招きし、ZOOMとアーカイブ動画でオンライン講座を開催しています。ここでは2023年度に開催した親なきあとに関する講座の一部をご紹介させていただきます。
講師:宮内康二氏(後見の杜代表)
◎ 親の想いを未来につなぐ民事信託(家族信託)~きょうだい児や親せきの負担を減らす準備とは?
講師:上木拓郎氏(アンド・ワン司法書士法人行政書士法人代表)
◎ ここでしか聴けない銀行&保険信託~事例でわかる!今やること、やってはいけないこと
講師:佐藤(サポート協会)
中でも、成年後見制度を利用した人たちのトラブル事例は大きな反響を呼び、講座をお聴きになった親御さんたちの間で、民事信託や商事信託を活用しての資産管理ニーズが高まったと感じました。ご参考に福祉型信託講座に参加された親御さんの感想を一部ご紹介させていただきます。
・親なきあとに障害のあるわが子が困らないようお金を残したいと思いつつも、どのようにして残せば良いのか分からない状況でした。今日の講座を受け、残すためには様々な方法があるということが分かりました。そして、その家庭やその時々により臨機応変に対応していくことが重要ということを学べて良かったです。(41歳 母親)
4.親子のライフプラン作成(未来準備マップ)
ここからは、個別相談と実務サポートについてお話させていただきます。講座をお聴きになった方の次のステップは、「わが家の場合を詳しく知りたい」という思いです。希望される方には無料でご相談をお受けし、このような流れでサポートしております。
5.個別のサポート事例
ここでは、実際のサポート事例をご相談者の同意を得てご紹介させていただきます。
<ご家族構成>
父 (会社役員) 75歳 母 (主婦) 72歳
長男 42歳 … 発達障害があり体調すぐれず現在無職、活動支援センターに通う
次男 40歳 … 医師・結婚して独立
<ご相談の経緯と内容>
相談者である母のお母様 (95歳) の相続問題もあり、社会福祉協議会の相談会で2人の弁護士に相談されるも全く解決しなかったため、ネットで見つけた弊協会に相談にいらっしゃいました。発達障害のある息子さんは病気がちで親の見守りが必要なのに、ご自身の体調もすぐれないため、早目に親なきあとの準備をしたいが、なにから手をつけたらいいかわからないというご相談でした。
<実施した対策>
お祖母様は施設で過ごされ、すでに認知症で遺言などの対策ができないため、対策でできるところからやっていきましょうとお話し、以下の対策をご提案・実行させていただきました。
・ご夫婦それぞれの遺言を作成。
・長男名義の預金が1000万近くあるので、親が生活費として計画的に受取りし、親の名義で管理する。
・生命保険信託・特定贈与信託も比較した上で、最終的に次男を受託者とした民事信託が一番ニーズに合うとのことで、今後実行サポートしていく。
・ご夫婦の預金は、老後資金の運用と認知症発生時の資産凍結予防を兼ねて、受取人を次男にした一時払い終身保険にそれぞれ加入。
<対策後のご感想>
お母様のご感想をいただきましたので、ご紹介させていただきます。
6.今後の活動について
最後に、サポート協会の今後の活動目標をお話しします。
① 親子のライフプラン作成サポートの推進
自分で意思決定ができない障害のある人が家族にいる場合、ただ資産を残すだけではなく、いかに本人のために有効に使ってもらうかが重要です。サポート協会では、親子のライフプラン作成の大切さを親御さんやご家族だけではなく、支援者の方々にも知っていただくために、福祉・教育・医療など多彩なジャンルの専門家とネットワーク作り情報発信してまいります。
※写真はオンライン座談会「住まい方の選択肢を広げる」配信の模様、
左から吉田理事、南山達郎氏(NPO 法人ぱれっと)田中恵美子氏(東京家政大学教授)佐藤(サポート協会代表)
② 福祉型信託の推進
今までご相談させていただいた500件を超える親御さんやご家族のニーズを踏まえて、福祉事業者や民間サービス提供者との連携を今後も進めて行くと共に、資産管理は親が結んだ信託契約に沿って行う方法を多くの方に知っていただきながら、親なきあと準備の選択肢を広げてまいります。
最後までお読みいただきありがとうございました。