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一般公開

#公証役場の使い方

第4回 続・公用文表記ルール習得の勧め

一般公開期間:2026年1月1日 ~ 3月31日

※当記事は2026年1月の内容です。

〇お詫びと訂正

 前回(第3回)の「公用文表記ルール習得の勧め」中、一部誤りがありました。「又は」「若しくは」のルール5についてです。正しくは「又は」「若しくは」「若しくは」とすべきところ、「又は」「又は」「若しくは」と記載してしまいました。
 現在、前回(第3回)は修正したものを掲載させていただきました。ご迷惑おかけしました。お詫び申し上げます。

1 . 間違いやすい公用文用字用語10語

 前回、「及び」「並びに」「又は」「若しくは」の4つ(「また」を入れると5つ)を取り上げました。5分でマスターできる公用文表記ルールでした。今回は、それに引き続き、最小の努力で公用文表記ルールがマスターできる方法の続きをお伝えします。
 実は、「及び」「並びに」「又は」「若しくは」に関する公用文表記ルールは、同ルールの中で最も難しく煩雑です。最初に山を越えてしまいましたので、ここをマスターしてしまえば、そのほかの公用文表記は、理屈自体はそれほど複雑なものではありません。そのほかの公用文表記については、量こそ多いのですが、出やすい順番に確実に押さえていけば大丈夫です。

 今回は、「間違いやすい公用文用字用語」を10語を解説します。公用文の用字用語は、3000語くらいあるのですが、よく出るものからマスターしておくのが効率的です。わたしなりに「法律文書に出る順」に並べました。早速やっていきましょう。

2 . 法律文書に出る順(⑹~⑽)

 といっても、⑴~⑸は既にやってしまいました。つまり、⑴「および」⇒「及び」、⑵「ならびに」⇒「並びに」、⑶「または」⇒「又は」、⑷「もしくは」⇒「若しくは」、⑸「又」⇒「また」です。
 この中では、「又は」は漢字を用いますが、「また」はひらがなで書くこと、これら⑴~⑸は、法律文書内のルールで、一般文書(出版社の多くは「ひらがな表記」にしていることが多い。)では「および」「ならびに」「または」「もしくは」「また」とひらがなで用いられることも多いで、その点だけ注意が必要です。

 今回は、⑹「すべて」⇒「全て」、⑺「まったく」⇒「全く」、⑻「予め」⇒「あらかじめ」、⑼「但し」⇒「ただし」、⑽「もっぱら」⇒「専ら」です。

 いきなり多くのことをマスターするのではなく、この5語だけでも押さえてください。これだけでもマスターするとかなりの頻度で公用文表記らしさが演出できるようになります。

(6)「すべて」⇒「全て」

 平成23年の常用漢字改訂の読み方に追加されました(厳密には、平成22年11月30日内閣告示第2号。学校教育では23年度から事実上の適用開始)。それまでは、「全て」を「すべて」とする読み方は常用漢字表にはなかったのです。
 改訂の結果、公用文表記では「すべて」を「全て」と漢字表記することになりました。しかし、平成23年よりも前の法令中には、「すべて」の表記が残っているものもあります。信託法もそうです。他方、信託法でも平成23年以降に一部改正した部分は「全て」と表記されています。我々も、契約文言や定款などを起案する場合には、「全て」と漢字表記したいものです。

 用例 
 「全ての国々」「債権者全て」「全ての法定相続人」などと用います。 

 契約書など法令文書の場合も、「全て」と漢字表記をする方が望ましいでしょう。ただし、雑誌やビジネス書などへの寄稿では、出版社から「すべて」としてほしい旨の依頼がある場合もあると思います。使い分けが大切です。

・法令の例(「すべて」と「全て」)

平成23年の改訂前の法令の代表格が日本国憲法です。

 憲法11条で「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない。」とか、13条で「すべて国民は、個人として尊重される」とか、14条で「すべて国民は、法の下に平等であって、・・・・・・」などの「ひらがな表記」です
 次に、信託法を見てみましょう。

 信託法182条2項は、ひらがな表記の「すべて」を用いています。平成23年以前成立(改正)の法令だからです(公用文表記が異なっても、そのためだけの法令改正はしません)。

(帰属権利者)
182条
2 信託行為に残余財産受益者若しくは帰属権利者(以下この項において「残余財産受益者等」
  と総称する。)の指定に関する定めがない場合又は信託行為の定めにより残余財産受益者等
  として指定を受けた者のすべてがその権利を放棄した場合には、信託行為に委託者又は
  その相続人その他の一般承継人を帰属権利者として指定する旨の定めがあったものとみなす。
(解説)
 信託契約書に「帰属権利者」の定めを記載しなかった場合の帰属権利者は、第1順位が委託者、第2順位が委託者の法定相続人(複数の場合は法定相続分)など一般承継人になります。帰属権利者がその権利を放棄した場合も同様になります。ただし、形式上、記載がなかったとしても諸々の事情を総合して帰属権利者の定めがあったと認定した裁判例(東京地判令和3年2月2日 判例秘書L07633733)があることに注意が必要です。

 信託法でも平成23年以降に改正がある部分は「全て」が用いられています。例えば、

(詐害信託の取消し等)
第11条 委託者がその債権者を害することを知って信託をした場合には、受託者が債権者を害することを知っていたか否かにかかわらず、債権者は、受託者を被告として、民法(明治29年法律第89号)第424条第3項に規定する詐害行為取消請求をすることができる。( ただし、受益者が現に存する場合においては、当該受益者(当該受益者の中に受益権を譲り受けた者がある場合にあっては、当該受益者及びその前に受益権を譲り渡した全ての者)の全部が、受益者としての指定(信託行為の定めにより又は第89条第1項に規定する受益者指定権等の行使により受益者又は変更後の受益者として指定されることをいう。以下同じ。)を受けたことを知った時(受益権を譲り受けた者にあっては、受益権を譲り受けた時)において債権者を害することを知っていたときに限る。
(解説)
 委託者が詐害信託をした者(財産隠しをした者)である場合は、受託者が知らなかったとしても、受託者を被告として、民法の詐害行為取消権を用いて、その信託の取消しを請求することができます。ただし、他益信託の受益者(受益権を譲り渡してしまった場合、その全ての者)が全員そのことを知っていた場合に限ります。
なお、この条文には、後述の「ただし」の使用例も入っています(但し⇒ただし)。

(7)「まったく」⇒「全く」

  これは、平成23年の常用漢字改訂でも変更されませんでした(従前から「全く」のまま)。「全く」は、「ない」など否定的な連用語にかかる修飾語です。副詞は原則的に漢字表記します。
 「全く違う。」「全く異なる。」
 法令で、「全く」が出てくることは少ないのですが、民法には1か所だけあります。まず、使用することがない条文です。

(永小作権の放棄)
第275条 永小作人は、不可抗力によって、引き続き3年以上全く収益を得ず、又は5年以上
     小作料より少ない収益を得たときは、その権利を放棄することができる。

(8)「予め」⇒「あらかじめ」

 「予め」には、常用漢字表に「あらかじめ」という読みが入っていません。国語辞書を引いていただくと、「常用漢字表外音訓」とあります。昭和56年内閣第138号の「公用文における漢字使用等」という「通知」に、「副詞は原則として漢字表記である」とされており、例外として、「かなり」「ふと」「やはり」「よほど」があるだけで、「あらかじめ」はその例外に入っていません。そのため、副詞は漢字と誤解して「予め」と用いる人が時々おられるのですが、そもそも「表外音訓」なので、そこで漢字表記はアウトなのです。
 民法108条の例を挙げておきます。

(自己契約及び双方代理等)
第108条 同一の法律行為について、相手方の代理人として、又は当事者双方の代理人としてした行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、この限りでない。
2 前項本文に規定するもののほか、代理人と本人との利益が相反する行為については、代理権
 を有しない者がした行為とみなす。ただし、本人があらかじめ許諾した行為については、
  この限りでない。
(解説)
・Aさんは、自らの土地を本人Bに売ろうとしましたが、このときBさんからBの財産管理の一般的な委任を受けていました。この委任を基に、「A」は「B代理人A」との間で売買契約を結んでしまいました。この契約は自己契約で無権代理なので、契約の効力はBさんに帰属しません(Bが追認すれば有効)。ただし、個別にBさんがこの土地を買いますという個別の委任を得ている場合はこの契約は有効です。利益相反行為も同様に考えます。
・Aさんが、BさんとCさんの双方から代理人になっていた場合も同様です(双方代理)

(9)「但し」⇒「ただし」

 法律を詳しく調べると、「但」「但し」とあったり「ただし」とあったりします。現在ではほとんどが、「ただし」とひらがな表記しますが、公証人法は、古い法律表記と新しい法律表記が混在しています。これは、戦前に成立した法律(明治41年法律第53号)であり、古い表記が残存し、その後、「継ぎはぎ」で新しい表記にしたものも混在しているのです。
 法律の教科書では、「本文」に対する「但書」などと用いていますが、教科書は行政文書ではありませんので、必ずしも公用文で記載する必要はありません。字数が少ないので教科書への記載にはその方が便利です。

(公証人法)
第18条 公証人ハ法務大臣ノ指定シタル地ニ其ノ役場ヲ設クヘシ
 2  公証人ハ役場ニ於テ其ノ職務ヲ行フコトヲ要ス但シ事件ノ性質カ之ヲ許ササル場合
    又ハ法令ニ別段ノ定アル場合ハ此ノ限ニ在ラス
(解説)
・公証人は、公証役場内で執務を行うのが原則ですが、事件の性質上、やむを得ない場合や法令に定めがある場合には、公証役場の外で執務をしても構わないという趣旨です。遺言や任意後見では本人(遺言者、委任者)の意向を強く反映させる必要があるので公証人が直接確認する必要があり、代理人対応が許されていません。しかし、嘱託人が自宅や病院などから外出することが困難な場合には例外的に出張対応ができるという趣旨です。他方、離婚給付契約や賃貸借契約などは、代理人をつけて公正証書を作成することが可能ですので、公証人が出張することができません。信託契約の場合、微妙なのですが、委託者について遺言的要素があるので、出張は可能というのが公証役場の通説的な運用です。
・「ただし」は、信託法でも数多く用いられていますが代表的なものだけ取り上げます。
(受託者の注意義務)
第29条
2 受託者は、信託事務を処理するに当たっては、善良な管理者の注意をもって、これを
  しなければならない。 ただし、信託行為に別段の定めがあるときは、その定めるところに
  よる注意をもって、これをするものとする。
(解説)
 信託の受託者の注意義務の程度は、原則として「善管注意義務」(軽過失も責任を問われる。)であるが、信託契約などに特約があれば、「自己の財産におけるのと同一の注意義務」(自己物注意義務)(故意又は重大な過失がなければ責任を問われない。)とすることも許される。

(10)「もっぱら」⇒「専ら」

 副詞として用いられるので、漢字表記が原則です。昭和56年内閣閣第138号の1⑵イの中で、原則として漢字表記の例の中にも「専ら」が入っています。信託法では、第2条第1項に用いられています。

(定義)
第2条 この法律において「信託」とは、次条各号に掲げる方法のいずれかにより、特定の者が一定の目的(専らその者の利益を図る目的を除く。同条において同じ。)に従い財産の管理又は処分及びその他の当該目的の達成のために必要な行為をすべきものとすることをいう。
(解説)
 受託者に関し、「専ら」と書いてあるので、反対解釈をして、専らでなく、「共に」であれば受託者が利益を得ても良いと解釈することが可能になります。つまり、他の受益者がいれば、自らも受益者になることもあり得ることになります(複数受益者の信託)。