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一般公開

#諸外国の信託活用事情

第27回 米国の受益者連続信託 – 総遺産に含まれる財産

一般公開期間:2024年1月1日 ~ 3月31日

※当記事は2024年1月の内容です。

検討課題
 日本の跡継ぎ遺贈型の受益者連続信託に関しては、遺留分侵害額請求に於いて第2次以降の承継受益権の評価が困難な場合があります。また相続税に於いて第2次以降の承継受益権に対してその経済的価値からかけ離れた過大な税務評価に基づく課税が行われる場合があり、その場合の二重課税の防止の手当てがありません。そこで本稿では、米国に於いて受益者連続信託の承継受益権の評価がどのようになっているか、遺産税の課税対象となる総遺産に含まれる権利の評価と二重課税の防止の手当てがどのように為されているかについて検討します。

1.米国の受益者連続信託

 受益者連続信託は一般社団法人信託協会が”successive life interest trust”と英訳していますので、この英訳用語によりインプットしてインターネットで米国の受益者連続信託に関する記事や論考を検索しましたがヒットしませんでした(注1)。
 そもそも米国では相続に於いて一般的な遺留分制度がなく(注2)、受益者連続信託を特別な信託とは見ていないからのようです。しかし米国の信託法のリステイトメント第3版に於いては、連続受益者の権利義務等についての規定があり、また連続信託の期間についての永久禁止則に基づく期間制限の規定があります(注3)。
 米国の遺産税法では、従前から遺産税と贈与税の一体課税(注4)が行われ、一般的制度として相続発生時にそれまでの被相続人が行った贈与について清算課税制度があります。これに対し、受益者連続信託の第2次以降の承継受益権のような条件付きの不確実な受益権等について、「ひも付き条項 (the String Provisions)」と呼ばれる特例があり、この条項の適用がある特定の受益権の贈与は委託者の相続発生時に委託者の総遺産(gross estate)に含ませて遺産税を課しますが、既に支払った贈与税は税額控除するので、贈与税と遺産税の二重課税が防止されています。

注1:英国では跡継ぎ遺贈型の受益者連続信託に類似した“life interest will trust”,“successive ownership”についての論考がある。
注2:ニューヨーク州等の一部の州では配偶者のために一定の遺留分割合(elective share)を認めている。
注3:2012年,American Law Institute:Restatement(Third)of Trustsの29条(b)に永久拘束に関するルールに違反する場合の規定があり、79条(2)に信託が2人以上の連続受益者のために設定された場合の規定がある。
注4:統一移転税制(unified transfer tax system)

2.米国の遺産税の税額計算

 米国では遺産税は統一移転税制に基づき内国歳入法2001条により、被相続人の死亡時に総遺産額に生前贈与額を加算して課税移転額合計を算出し税率を掛けて遺産税額を算出し、この算出税額から贈与税額又は税額控除(tax credit)を差し引き確定遺産税額とします。
 このように生前贈与をしても二重課税防止のために算出税額から既に支払った贈与税額又はこれに相当する税額控除が差し引かれるので、生前贈与をした場合としなかった場合と比べて、両者の支払い税額に大差がないと言われています。なお、生前贈与は贈与時期等により税率が異なる等の理由により、生前贈与額の加算のためには一定の調整が必要であり、この調整後の生前贈与額を「調整課税贈与額」(adjusted taxable gifts)と言います。これに対し「ひも付き条項」により生前贈与額が総遺産額に含まれる場合はこの調整がありません。

(1)英米法の不動産権
 土地を無条件で将来にわたって無期限に占有・収益できる権利は「絶対的単純不動産権」(fee simple absolute)と呼ばれ日本法で言う所有権に該当します。
 しかし英米法では伝統的に土地を占有・収益する権利を時系列で区切って、同一の土地上にある期間収益する複数の不動産権を認めています。例えば被相続人が生きている間のみ資産から発生する給付を受ける権利(以下「生涯権」lifeestate と言う)、被相続人の死後に一定期間給付を受ける権利(以下「定期不動産権」tern of yearsと言う)等を設定することができます。定期不動産権のように権利の利益享受が将来になるものは「将来権」future interest と呼ばれ、このような権利の設定は現在では信託により行われます。「残余財産受益権」remainderも将来権であり、確定している場合と条件付きで不確定な場合とがあります。不動産権の期限が到来し消滅すると、不動産権は絶対的単純不動産権に復帰します。
 この「復帰権」reversion も将来権の一種です。設定者が有する将来権、すなわち復帰権、復帰可能権、終了権(将来権を解除して終了させ復帰させる権利)を総称して「復帰権的権利」reversionary interest と言います。また、権利の帰属者を指名する権利を「権利取得者指名権」power of appointmentと言います。この権利は信託設定者が留保する場合と他の者に付与する場合とがあります。権利取得者指名権は指名されて帰属権利者になる者の範囲を限定するもの(特定的指名権)と、限定しないもの(一般的指名権 general power of appointment)とがあります。一般的指名権を有する者は自分自身を帰属権利者として指名することができるので、実質的に受益権を有すると考えられます。

(2)内国歳入法2033条:被相続人が権利を有する資産
 以下の遺産税に係る検討は主として米国の資産承継対策の解説書からの引用です(注5)。同法2033条によれば、課税される総遺産に、被相続人の死亡時における権利の範囲内のすべての資産が含まれます。これは被相続人の有する「歩き回り生きている富」が課税対象になることを意味します。検認遺産条項によれば、被相続人が有し遺言また無遺言により子孫に遺す資産が2033条により総遺産に含まれます。しかし、被相続人の死亡時に発生する資産は含まれません。
 被相続人の生命に掛けた生命保険証書の給付金は2033条の下では含まれませんが、同法2042条により課税財産に含まれます。被相続人の死亡時に終了する資産も同様に含まれません。死亡時に終了する権利の例は「生涯権」です。このような権利は被相続人の死亡時には他の者に移転すべき権利が何も残っていないので、2033条の下では総遺産に含まれません。しかし、後述の「ひも付き条項」(the String Provisions)の適用がある場合は課税財産に含まれます。また、被相続人に生涯に渡って支払われた信託収益の価値は死亡時の被相続人の純資産を増加するので結果として総遺産に含まれます。
 なお、残余財産受益権が確定した権利である場合は、仮令残余財産受益者が生涯権者より先に亡くなったとしても、残余財産受益者の総遺産に含まれ課税されます。ただし、残余財産受益権に係る課税額の支払いは特則により先行する権利が消滅し残余財産受益者が信託財産を受給できる時点まで猶予されます。

注5:Jeffrey N. Pennel, Alan Newman,“Estate and Trust Planning”Chapter 19“Wealth Transfer Taxation”

(3)同法 2031,2032,2032A条:課税財産の評価
 課税財産の評価の原則は被相続人死亡時の財産価値であり、財産価値は公正な市場における価値とされます。
 生涯権、定期金、残余財産受益権、及び年金のような期限付き権利の評価は財務省規則20.7520条の定める評価表(保険数理表 actuarial tables)により行います。評価表は平均余命、年次収益の推定に基づいて作成されています。

3.同法2035条~2038条「ひも付き条項」

 特定の生前贈与は、同法2035条~2038条の特例により贈与者の死亡時の総遺産に含まれ課税されます。これらの生前の贈与は特例により行われなかったものと見なされ、贈与者の総遺産に含まれます。そのため、これらの特例はしばしば「ひも付き条項」と呼ばれます。特例の適用に当たっては、その生前贈与について贈与者にある種の享受又は管理が留保されているか(この贈与がひも付きで行われたか否か)、そうでなければ事の次第から見て贈与を否認すべきであるかどうかを吟味します。これらの特例は、贈与財産の完全かつ十分な価額より少ない課税評価額に基づいて贈与税を支払った生前贈与に適用があります。
 これらの特例の適用がある生前贈与は死亡時の総遺産に含まれ課税されますが、同法2001条(b)の「除外と税額控除 (purge and credit)」の仕組みにより二重課税にはなりません。
 例えば、納税者(被相続人)Tは200万ドル相当の資産を有していたが、その内20万ドル相当の資産を信託し、Tの直系卑属の中からその信託受益者を指名する権利を留保した事例において、同法2033条の下では、生前贈与の20万ドルは総遺産に含まれないので、Tの死亡時の残余財産180万ドルが総遺産になります。同法2001条(b)による遺産税の計算に於いては、生前贈与の20万ドルは一定の調整を行い「調整課税贈与」として総遺産と合計し、この合計額に遺産税率を適用し仮の税額を算出します。この仮の税額から「調整課税贈与」に対して支払われたであろう贈与税額を差し引き確定遺産税額とします。しかし、この事例では、納税者が信託受益者を指名する権利を留保しているので、同法2036条(a)(2)の適用があり、生前贈与の20万ドルが総遺産に含まれ、総遺産が200万ドルになります。遺産税の計算に於いては、生前贈与の20万ドルは「調整課税贈与」から「除外」purgeして、総遺産額に遺産税率を適用し仮の税額を算出し、この仮の税額から生前贈与の20万ドルに対する既払いの贈与税額を「税額控除」creditして確定遺産税額とします。
 同法2033条の遺産税の計算方式と同法2036条(a)(2)の遺産税の計算方式の違いは、前者では、贈与時から死亡時までの値上がり益が課税されないのに対し、後者では値上がり益が課税される点にあります。

(1) 同法2035条:3年加算特例
 同法2035条(a)は被相続人の死亡前3年以内の贈与又は権利の放棄が被相続人の総遺産に含まれると規定し、同法2035条(b)は死亡前3年以内の贈与に対して被相続人が支払った贈与税をグロスアップし被相続人の課税遺産に含まれると規定します。贈与税の計算では贈与税額を除外して計算しますが、遺産税の計算では贈与税額を含めて計算します。このグロスアップ方式は税額の除外の利益(デュポン効果)を防止するためです。

(2) 同法2036条(a)(1):生涯権を留保した移転
 贈与資産に対する支配権又は受益権を留保して生存者間で贈与した場合、贈与資産の価額が贈与者の死亡時に同法2036条(a)により贈与者の総遺産に含まれます。2036条(a)(1)の適用があるのは、次の3種の期間の利益享受を留保した生前贈与である。

① 生涯(例えば納税者(被相続人=贈与者)が生涯権を留保しXに対し残余財産受益権を贈与)

② 納税者の死亡を参照しないで決めることのできない一定期間(例えば残余財産受益権が納税者の死亡の1週間前に有効となる)

③ 納税者の死亡前には終了しない期間(例えば期間40年の信託の残余財産受益権をXへ贈与したが、納税者は贈与時に既に85歳であり90歳で亡くなった)

 2036条(a)は第2次承継生涯権又は留保利益にも適用されます。更に留保付き贈与は、留保が間接的又は合意による場合も暗示され又は任意である場合も適用されます。この簡単な例は納税者が子供達に自宅を贈与したが、生涯居住権の留保の文書又は証書がなくても、子供たちが納税者に死亡まで住み続けることを許容する場合です。

(3) 同法2037条:死亡時に発効する移転
 被相続人が受益権を移転し、受益者が被相続人より長生きすることを条件に、信託財産の所有又は享受することができ、かつ被相続人が信託財産に復帰的権利を留保し、その復帰的権利の価値が被相続人の死亡直前に信託財産の価値の5%を上回る場合だけ、信託財産の価値が被相続人の総遺産に含まれます。ここで言う復帰的権利(Reversionary Interests)とは被相続人により信託財産が被相続人又はその遺産に復帰する可能性、又は被相続人の処分権に従う可能性を言います。
 同法2037条の適用の要件は、他のすべてのひも付き条項と同様に、金銭的価値で完全で十分な価値に満たない対価で行われた生存者間の移転です。この移転は贈与であり、通常贈与税の対象になりますが、2重課税回避のために除外と税額控除の仕組みの適用があります。

(4)同法2036条(a)(2)及び 2038 条(a)(1):留保権限付き生存者間贈与
 
この2036条(a)(2)及び2038条は誰が生存者間の贈与資産の利益の享受をするのか、又は何時彼らが享受するか、に影響を与える権限を留保する場合の特例です。この2条は同じ鞘の中にある同じような豆のように、多くの場合両方の条文の適用があります。それぞれの事例に於いて、贈与資産が委託者の総遺産へ含まれる理由は、2種類の財産権、すなわち、贈与資産の個人的な財産の利益享受と、誰か別人の財産の利益享受に対する支配権を留保していることです。既に見たように2036条(a)(1)は委託者による贈与資産の個人的な利益享受の留保に適用がありましたが、この2条は同条とは別の形による利益享受の留保(別人の利益享受の支配権)に適用があります。この2条は条文の基本的類似性にもかかわらず、いくつかの重要ではあるがいささか微妙な違いがあります。

① 2036条(a)(2)は被相続人(委託者)が権利の享受への影響力又は指定を行う権限を有する場合に適用があり、被相続人が個人的に利益を享受するか又は権利を留保すると、2036条(a)(1)の適用により贈与資産が被相続人の総遺産に含まれます。分かり難い原因は 2036条(a)(2)が単に収益の分配又は蓄積を行う権限又は収益を生まない元本の所有に対する支配権のみを適用対象にすることです。

② 2038条(a)(1)は被相続人が移転した権利を変更、修正、取り消し、または終させる権限を留保する場合に適用があります。利益享有の取り消し権があれば適用があります。

4.その他の注意すべき特則

(1)同法2041条:一般指名権
 同法2041条の適用により被相続人が所有しない又は所有する意思のない資産が被相続人の総遺産に含まれます。2041条の適用のあるのは下記のような一般指名権(general power of appointment)です。

  指名権を有する被相続人、指名権者の遺産、又は両者の債権者を資産の受益者として指名する権限。
  指名撤回権限も自分を指名する権限と同じく一般指名権を構成する。
  信託証書の修正権も指名権者が個人的に利益を得ることができるなら一般指名権である。
  間接的に指名権者の個人的な利益になる一定の権限。例えば指名権を有する被相続人を受益者として指名しその法的義務を免除する権限等

 死亡時に終了する一般指名権は2041条の適用により課税されます。一般指名権の保有は(この行使のための体力的又は精神的な能力に反して)、この2041条の適用による総遺産に含める原因として十分です。この適用の例外は、この指名権限が健康、教育、扶養又は生活維持に関する確認給付基準(ascertainable standard)により制限される場合です。

(2)同法2042条:生命保険金
 被相続人の生命保険証書に基づく保険金収入は、同法2042条(1)により被保険者である被相続人の遺産又は遺産に係る費用、債、又は税の支払いに充てる範囲で総遺産に含まれます。
 もし被相続人がその死亡前3年以内に保険証書所有に基づく付随的権利(incidents of ownership)を有していた場合、保険金はそれが誰に支払われるかを問わず同条(2)により総遺産に含まれます。付随的権利には経済的享有、保険給付、又は保険証書又は保険金の支配権を構成し、保険金受取人又はその受け取り方法の変更権等の権限を含みます。
 この2042条の適用は被相続人を被保険者とする生命保険証書に対してあり、被相続人が有するが他の者を被保険者とする生命保険証書は2033条により支払った保険料の価値が被相続人の遺産に含まれます。

(3)同法2043条(a):不十分な対価による移転
 完全で十分な対価をと引き換えに行った移転には2035条から2038条までのひも付き条項の適用がありません。但し、被相続人が移転したものが不動産か発生する収益に対する権利(生涯権)であるなら、完全で十分な対価は生涯権の価値として評価されるのであって絶対的単純不動産権、すなわち所有権の価値ではありません。これに対し金銭的対価を支払ってひも付き条項及び2041条に基づく移転が行われたが、金銭的に十分かつ完全な対価による善意の売買でない場合は、2043条により相続発生時の公正な市場価額と被相続人が受領した対価の額の差額が被相続人の総遺産に含まれます。

5.日米の制度の比較

(1)相続財産に対する課税制度
 日本では被相続人の財産を取得した相続人に対して課税が行われます。相続人が受益者連続信託の収益の受益権を取得した場合は、収益の受領権しかないにもかかわらず、相続税法9条の3の特例により、元本の受益権を含む信託財産の全額を受領したものと見なして過大な課税が行われ、更に元本の受益権を取得した受益者が信託財産を受領した時に信託財産の全額に対して再度課税が行われますが、この二重課税の防止の措置はありません(相続税法基本通達9の3-1)。
 これに対し米国では遺産税は被相続人の遺産財団に対して課され、被相続人の代表者である遺産管理人が遺産税の申告納税を行うので、遺産をもらった個別の相続人に対して課税は行われません。贈与額が統一移転税制により総遺産へ加算され又はひも付き条項により総遺産に含まれるとしても、贈与税額相当額の差し引き計算又は既払い贈与税額の税額控除により二重課税にはなりません。

(2)総遺産に含まれる受益権等の範囲
 日本では跡継ぎ遺贈型信託(信託法91条)、受益者指定権等を有する者の定めのある信託(同法89条1項)、受益権が継伝承継される信託、その他これらの信託に類する信託が前述の特例対象となる受益者連続型信託とされ(相続税9条の3、法施行令1条の8)ますが、この条文は拡張解釈の余地があり、元本受益権が相続される可能性のある信託が「その他これらの信託に類する信託」に該当するとされた事例があります(注6)。また「受益者指定権等有する者の定め」には一般指名権のみならず特定的指名権まで含むように読めます。
 これに対し米国ではひも付き条項等に該当する権利を生前贈与した場合、当該権利又はこれに係る財産が、贈与者の総遺産に含まれますが、このひも付き条項の適用のある権利は、留保利益、復帰権的権利、留保権限、一般指名権に限定されています。

注6:大阪国税局審理課インフォメーション115号 (平成20年5月28日)

(3)適正な対価を負担して取得した場合
 日本では受益者連続型信託の受益権を適正な対価を負担して取得した場合は受益者連続信託の収益の受益権評価の特例の適用がありません。
 米国でも財産に係る権利を十分かつ完全な対価を負担して取得した場合はひも付き条項の適用がなく、贈与者の贈与した権利又は財産が総遺産に含まれません。