家族信託普及のための実務に役立つ情報を会員の皆さまに定期発信中です!

一般公開

#ゼロから始める家族信託・生前対策コンサルティング講座

第15回 組織としての家族信託受任体制を構築するには?

一般公開期間:2024年1月1日 ~ 3月31日

※当記事は2024年1月の内容です。

 家族信託や⽣前対策の個別相談は、知識や実務経験がある所⻑や責任者が担当すれば受任率も⾼くなります。しかし、事務所全体のマネジメントすべき所⻑や責任者が⾯談に時間を使ってしまうと、他にやるべきことに時間を費やせないという問題が⽣じます。そこで、スタッフに個別相談を任せたいところですが、任せてもなかなか受注につながらない、受任率が低いといった悩みが⽣じます。
 所⻑や責任者が家族信託や⽣前対策に関する個別相談を担当すると、その経験と知識があり、場合によって価格交渉となった場合の料⾦設定権限もあるので、スタッフが⾯談するより⾼い確率で受任できます。
 しかし、これには裏⾯があります。所⻑や責任者が⾯談に多くの時間を割くことは、組織全体のマーケティングやマネジメントに必要な時間を奪ってしまいます。⼀⽅で、スタッフに相談を任せると受任率が下がってしまうといった悪影響が出ることがあります。この課題を解決する鍵は、スタッフの適切な育成と所⻑、責任者と同じレベルの提案ができる商品づくりにあります。

今回の記事では、個別相談ができるスタッフを育成するためのポイントについてお伝えします。

ITでは代⽤ができない、⼈の対⾯相談の重要性

 現代の相続専⾨家の事務所経営は、過去と⽐較して⼤きく変わりました。2003年、私が司法書⼠資格を取得した当時と異なり、今は⾏政⼿続きのオンライン化や業務効率化ツールの普及により、⼈⼿が少なくても効率的な運営が可能です。昔は、対⾯、電話、メール、ファックスで⾏っていた顧客とのコミュニケーションが、今ではショートメッセージ、LINE、Messengerなど各種チャットツール、zoomなどのオンライン会議など、多種の⽅法で、コミュニケーションの⽅法でコミュニケーションをとることができるようになりました。
 しかも、クラウドワークスなどの外注サービスの利⽤ChatGPTなどの⽣成AIのツールも登場し、私の事務所でもホームページのコンテンツ、画像作成、顧客へのメール⽂、契約書条項案の起案などの⼀部の業務を外注もしくはAIツールを活⽤し対応しています。各種ツールの採⽤により、事務所経営が効率的に⾏うことができるようになっているのが今の状況です。
 しかし、この技術進化による変化にも関わらず、⼠業・専⾨家においては⼈間との直接的な相談が不可⽋です。特に、顧客が⾼額な料⾦を⽀払うサービスでは、信頼関係を築くために「⼈」の存在が重要です。弊社でも、対⾯⾯談、オンライン⾯談、電話相談LINEなどのチャットツール相談、など今の時代に即した各種相談⽅法を採⽤しており、その統計データをみると、対⾯⾯談での受任率が最も⾼く、その次にオンライン⾯談、電話相談、チャット相談と続いています。
 受任単価別に分析すると、その結果はさらに顕著にあらわれます。私は司法書⼠事務所を経営していますが、被相続⼈死亡に伴う不動産の名義変更(相続登記)などの10万円以下の⼿続き業務については電話相談でも受任できている状況ですが、家族信託、⽣前対策コンサルティング業務など30万円以上の業務については、電話やチャット相談では受任できていない状況です。家族信託や⽣前対策コンサルティング業務は⾯談⽅法別の総数からみると、かろうじてオンライン⾯談で受任できるくらいで、対⾯相談での受任割合が圧倒的に占めています。
 顧客との個別相談や受任後のコミュニケーションに関しては、所⻑や責任者だけではなく、スタッフの育成が求められます。所⻑が常に直接対応するわけにはいきません。事務所のマネジメントや規模の拡⼤を⽬指すならば、スタッフが個別相談を担う体制への移⾏が必要です。

コミュニケーションができる⼈財を育成する仕組が必要

 顧客の問題解決には、⾃分の持っている資格の範囲を超えた全体的な提案が求められます。法務のみならず税務の課題も視野にいれて最適な解決策を⾒つけ出す能⼒、そして⾃分の専⾨分野以外の分野は他の専⾨家と連携するための知識、すながち、最適な解決策を⾒つけるには、幅広い「情報・知識」の習得が不可⽋です。
 今後は⾃分の「専⾨業務」に加え、⾃⾝の専⾨分野以外の「周辺業務」と「コミュニケーション能⼒」を強化することが求められます。⾃社の枠を超えた視点で考えることで、顧客の問題解決はもちろん、サービスの価値向上と持続的な関係構築につながります。
 所⻑や責任者は、これまで培った専⾨知識と経験をスタッフに伝える役割を持っています。所⻑や責任者は受任に必要なスキル「専⾨業務」「周辺業務」「コミュニケーション能⼒」を⾝につけることができますが、スタッフに同じことを求めるのは難しい場合があります。例えば、私が取り扱う相続業務では、法務の専⾨知識と税務リスクの理解、そして顧客との効果的なコミュニケーションが必要です。このような多⾯的な能⼒を持った⼈材が簡単に⾒つかることは稀です。⼤⾕翔平のような多才な選⼿が求⼈広告を⾒て応募してくることはまずありません。
 組織として家族信託、⽣前対策を受任できるようにするためには、単に専⾨知識を持つだけでなく、全⽅位的な視点が求められます。それには「専⾨業務」「周辺業務」「コミュニケーション能⼒」の三つの要素を兼ね備えたスタッフを育てることが不可⽋です。このプロセスには時間と努⼒が要求されますが、組織の将来性を考えると、これは避けて通れない道です。
 スタッフには、インプット(学ぶ機会)とアウトプット(個別相談の機会)を提供することが重要です。私の経験からも、個別⾯談を数多くこなし、忙しさに追われる⽇々を経験しましたが、スタッフに任せることで、スタッフの⾃⽴を促し、事務所全体の受任率も向上しました。

学びの機会の提供

 スタッフの育成には、⾃ら学ぶ意欲を尊重することが⼤切です。私の⽅針として、スタッフが⾃ら希望するセミナーや書籍に関しては、積極的に全額負担を⾏っています。押し付けられた学びよりも、⾃発的な学びの⽅がより効果的であると考えています

実践の機会の提供

 知識だけでなく実践の機会も重要です。個別相談は基本的にスタッフに任せ、彼らが顧客と直接対話することで、実務能⼒とコミュニケーションスキルの向上を図ります。所⻑、責任者の役割は、ガイドとしてサポートを提供し、必要に応じてフォローを⾏うことです。
 育成⽅法としては、まず所⻑、責任者が最初の顧客対応の窓⼝となり、その後はスタッフを顧客に紹介しつつスタッフを顧客対応のメインにおいて⾏う、所⻑や責任者は必要に応じてフォローにシフトします。初回相談は所⻑、責任者、受任後の対応はスタッフがメインで⾏うというイメージこの⽅法は、スタッフに⾃信を持たせ、顧客にも所⻑や責任者がバックでついているという安⼼感を与えます。また、オンラインツールを活⽤することで、リモート環境でもスタッフ育成を進めることが可能です。
 コミュニケーションスキルの向上は、特に重要な要素です。スタッフが顧客と効果的にコミュニケーションをとることで、信頼関係の構築と受注率の向上に繋がります。そのために、リアルタイムのグループチャットやグループメールなどのツールを活⽤し、顧客対応のコミュニケーションの過程を可視化します。

サービスの商品化と⾯談マニュアルの整備

 スタッフが⼀貫したサービスを提供できるように、サービスの商品化と⾯談マニュアルの整備に注⼒します。これにより、スタッフは所⻑や責任者に依存せずに、独⾃の判断で顧客対応を⾏えるようになります。さらに、サービスの標準化によって、スタッフにも価格決定権やサービス内容の調整権を委ねることが可能となり、受任をすることでスタッフの能⼒と⾃信を⾼めます。

成果に基づく評価制度の導⼊

 スタッフのモチベーションを維持するためには、成果に応じた評価制度の導⼊が不可⽋です。どんなにやる気があるスタッフでも、”新規案件を受注する≒⾃分の仕事が忙しくなる”ということにつながるので、そのうえで待遇が変わらないではモチベーションが維持できません。かくいう私も、勤務司法書⼠時代はそうでした。忙しくなり過ぎるから、⼀定以上は仕事をどうしても意識的に抑えてしまいがちです。固定給を上げるというのも⽅法の⼀つですが、⼀度上げてしまうと下げることは、⾄難の業です。
 受注した仕事に対しては歩合制を採⽤し、スタッフの貢献度に応じた報酬を提供します。これにより、スタッフは新規案件の受注に積極的になり、事務所全体の成⻑に貢献するようになります。歩合という評価があることで、既に述べた⾃ら学ぶという成⻑意欲にもつながります。待遇という評価ではなく、安定性を求めている⼈材は処理など別の場所を提供するという経営側の判断材料にもなると考えています。

まとめ ・所⻑、責任者の時間をつくるには「専⾨業務+周辺業務の辺りを付ける+コミュニケーション能⼒」この3つができる⼈材育成が必要

・所⻑や責任者は、育成するスタッフができる環境、つまり、学ぶためのインプットとアウトプットの場をつくり、圧倒的な量をやらせる

・学び(インプット)も⾯談(アウトプット)も基本は任せる。成⻑意欲がある⼈材は、学び、実践できる場所を提供すればいい。

・サービスの商品化とツールの整備、評価体制は所⻑や責任者でなければできない重要な仕事である

・成果に基づく評価制度の導⼊を進め、受任をすることについてのインセンティブを与える

 家族信託、⽣前対策などのコンサルティング業務を受任できる組織づくりの成功の鍵は、単に専⾨知識を持つスタッフを育成することだけではありません。それは、多⾯的な能⼒を持つスタッフを育て、彼らが⾃⽴して顧客対応を⾏う環境を作ることです。これには、教育、実践、評価、フィードバックの構築が含まれます。これらの要素を組み合わせることで、事務所は顧客の信頼を獲得し、組織として受任ができる体制を構築することができるようになります。