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#司法書士事務所"発" 信託現場レポート

第5回 相談者の本音を引き出す!最初のヒアリングで絶対に聞くべき10の質問

一般公開期間:2026年10月1日 ~ 12月31日

※当記事は2026年10月の内容です。

 家族信託が社会に浸透し、「家族信託を検討したい」とお客様から直接ご指名を受ける機会が格段に増えました。実務家にとって大変喜ばしい状況である一方、現場ではある種の「危うさ」も感じています。
 それは、お客様が「家族信託をやること」自体をゴールに設定してしまっているケースです。 これまで繰り返しお伝えしてきた通り、家族信託は目的ではなく、あくまでもお客様の課題を解決するための「ツール」に過ぎません。最初から「信託ありき」でヒアリングを進めると、実務家の「自己満足の設計」に陥り、将来ご家族を混乱させる失敗した信託を生み出しかねません。

 これまで累計300件超の家族信託、そして200件超の成年後見に携わってきた経験から言えるのは、最も重要なのは契約書の条文をこねくり回すことではなく、最初の面談でお客様の「本当の課題」と「家族のリアルな関係性」を浮き彫りにする「想像力」です。

 今回は、私が初回のヒアリングで、お客様の“本音”を引き出すために必ず投げかけている「10の質問」をご紹介します。

【第1段階】信託ありきの発想をリセットする質問

 まずは、お客様が抱える本当の不安(課題)の根本を探ります。

1
「今日、一番解決したいご不安を『一つだけ』挙げるとしたら何ですか?」
「テレビで見たから」「友人に勧められたから」という理由で来所される方は少なくありません。そこで、あえて「一つだけ」に絞っていただくことで、「認知症で実家が売れなくなること」なのか、「事業の決定権が凍結すること」なのか、最もクリティカルな課題をあぶり出します。
2
「なぜ、遺言や生前贈与ではなく『家族信託』が良いと思われたのですか?」
この質問で、お客様の制度に対する「誤解」を解きます。お客様によっては、単純な遺言や生前贈与で十分に解決できるケースもあります。不必要に複雑な信託を組むことは、将来の運用段階でご家族に過度な負担を強いるだけです。

【第2段階】「実務として回るか」を見極める質問

 信託は設計して終わりではありません。受託者となるご家族が、将来にわたって無理なく運用できるか、現実的な想像力を働かせます。

3
「受託者となるご予定の〇〇さんは、日頃どれくらいお忙しいですか?」
信託が始まると、受託者には専用口座(信託口口座)の管理や、帳簿の作成、税務申告の負担が発生します。平日に銀行や役所へ行く時間が全くないほど多忙なご家族を受託者にしてしまうと、実務が完全にストップしてしまいます。
4
「もし将来、ご兄弟間で意見が対立するとしたら、どんな場面が想像できますか?」
家族信託は、一部の親族だけで進めると後から「不公平だ」と揉める原因になります。不動産ごとに受益権を細かく設定したり、複雑な受益者連続型信託を組んだりすると、かえって新たな紛争の種になります。親族間の隠れた火種を事前に把握しておくことは必須です。
5
「今回のご相談内容について、ご家族の皆様はどこまでご存知ですか?」
「まだ誰にも話していない」という場合は要注意です。「家族会議での切り出し方」からサポートするのも、実務家の重要な役割だと感じています。

【第3段階】成年後見制度との「ハイブリッド」を探る質問

 家族信託は万能ではありません。成年後見制度(身上保護の機能など)とどのように組み合わせるかを見据えます。

6
「もし将来、施設に入ることになった場合、誰に手続きや契約を頼みたいですか?」
家族信託には、施設への入所契約や医療に関する同意といった「身上保護」の権限がありません。お金の管理は信託で身内がやり、身上保護のために一時的に後見制度(補助人など)を活用する「いいとこ取り」の視野を持つためのヒアリングです。
7
「ご自身の『物忘れ』などで、少しヒヤッとしたご経験はありますか?」
信託契約には、当然ながら明確な意思能力が必要です。後見制度を避けるために無理をして信託契約を結ぼうとするケースを防ぎます。「判断能力が落ちてしまっている状態では、新しく信託契約を結ぶことはできない」という事実を丁寧にお伝えします。

【第4段階】出口戦略(終わり方)をデザインする質問

 信託の「入り口」だけでなく、どう終わらせるかという「出口」を明確にします。

8
「将来ご実家を売却したとして、そのお金は『誰のため』に一番使いたいですか?」
「自分の介護費用のため」なのか、「孫の教育資金のため」なのか。お金の使い道の優先順位を明確にすることで、信託の目的(信託条項)がブレなくなります。
9
「最終的に信託が終わった時、残った財産はどう分けるのが一番『公平』だと思いますか?」
「長男に家を継がせたいが、次男にも現金を残して不公平感をなくしたい」といった想いを引き出します。複雑すぎる受益権の承継設計は避け、最もシンプルで実務的に合理的な形を提案するための土台となります。

【第5段階】決断を後押しする質問

 最後に、お客様に行動を起こしていただくための質問です。

10
「もし今日、何も対策をせずに先延ばしにした場合、最悪のシナリオはどうなると思いますか?」
「成年後見制度が使いやすくなる(2026年以降の法改正)まで待とう」と考えるお客様もいらっしゃいます。しかし、認知症は法律の施行を待ってはくれません。口座が凍結するリスクや、後から信託を組むことはできないという「空白期間」の恐ろしさに気づいていただくことが、生前対策の第一歩となります。

結びに:書類作成屋からの脱却

 今回ご紹介した10の質問は、単に情報を集めるためのものではありません。依頼者の人生の物語を丁寧にくみ取り、将来起こり得る場面を一つひとつ検証していくためのプロセスです。

 自由度が高いからこそ、実務家が「これだけ複雑な信託を組めるのは自分だけだ」と自己満足に陥る危険性は常にあります。しかし、私たちに求められているのは、制度の型を押し付けることではなく、シンプルで「将来にわたって安心して使える仕組み」を見極めることです。

 「手続きの代行・書類を作るだけの人」から、ご家族の将来に寄り添う「本当の相談相手」へ。 お客様の本音を引き出す最初のヒアリングにこそ、今後の家族信託実務家としての真価が問われているのではないでしょうか。