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一般公開

#「親なきあと」問題を考えよう

第12回 「親なきあと」相談室の活動報告 ~ 親なきあと相談室ファミリア

一般公開期間:2026年4月1日 ~ 6月30日

※当記事は2026年4月の内容です。

 はじめに 
 障害のある方の「親なきあと」を支えるためには、成年後見人のような個人が全権委任されるのではなく、複数の支援者が関わって、本人のために適切なサポートを行うことが非常に重要です。筆者の渡邉さんは。豊富な相談業務のご経験と、本人や家族に寄り添った支援をされる中、「法人後見の普及」と「アプリによる親の情報継承」という、具体的な課題解決の事業にも携わられています。ともに、障害のある方の支援をチームとして行うために、非常に重要で有効な仕組みだと感じました。とても読み応えのある内容ですので、ぜひ多くの専門職のみなさんに目を通していただきたいと思います。
レポート
  障害者の親なきあと問題相談室ファミリア 渡邉護 

 札幌にて「障害者の親なきあと問題相談室ファミリア」を運営する司法書士の渡邉護と申します。日頃、渡部伸先生のご協力のもと、親なきあと問題についての相談・業務に取り組んでおります。

 私は、親なきあと相談室の運営において対応する相談は、大きく分けて二つであると考えています。 ひとつは親あるうちに、親がいかにして障害のある子のために備えるかという「事前対策」のご相談。 もうひとつは、実際に親が亡くなったあとに、障害のある子の支援者や家族からお受けする「事後手続」についての相談です。 本記事においては、「事前対策」「事後手続」それぞれの事例を紹介したうえで、当相談室において親なきあと問題の新しい解決策として取り組んでいる事業をご紹介いたします。

事例1 余命を宣告されたお父さんと向き合った親なきあと

 奥様が先立ち、重度の知的障害のある長男を持つAさんから「親なきあと」のご相談をいただきました。Aさんは、自分の死後に息子がどう生活し、誰が支えてくれるのかを心配され、当相談室へ足を運んでくださったのです。

 初回面談では、成年後見制度をはじめとした障害のある子の金銭管理の仕組みや、死後の手続きなど、一般的な備えを一通り説明いたしました。しかし、Aさんは制度として理解はされている様子でありながら、具体的なイメージを掴みきれていないようにお見受けしました。お話を続けるうちに、実はAさん自身の老後の不安が大きく、そちらの整理ができていないことがわかってきたのです。
 Aさんは高齢の一人暮らしで、日常生活のちょっとした場面でも不安や寂しさを感じることが増えているとのことでした。そこで、息子の将来を考える前に、まずはAさんが安心して暮らせる環境を整える必要があると考えた次第です。相談の結果、定期的に私がAさんの自宅を訪問し、生活状況を確認する「見守り契約」を結ぶことになりました。

 訪問を続けるなかで、Aさんは家族のお話を少しずつ聞かせてくれるようになりました。亡くなった奥様のことや、息子さんの小さな頃からの様子、夫婦でよく話し合ってきた将来の不安などです。ゆっくりと信頼関係が築かれていき、お互いに無理のない距離感で関わることができるようになっていきました。私もAさんとお話することが楽しみになり、Aさんの笑顔も増えていったように思えます。

 そんな中、年末のある日、Aさんから電話があり、Aさん自身が余命宣告を受けたとの連絡を受けました。病状の進行は早く、親なきあとに向けた準備を急ぐ必要が生じたのです。Aさんは「息子の後見人を渡邉さんにお願いしたい」とはっきりと意思を示されたため、家庭裁判所への後見人選任の申立を急いで進めました。
 併せて、Aさんの葬儀や納骨などの希望を叶えるための死後の手続を私が担えるよう、「死後事務委任契約」を締結しました。延命治療を望まないという意思をお持ちだったため、「尊厳死宣言公正証書」を作成し、Aさん自身の判断能力が低下したときに備える「任意後見契約」も整えます。かなりのスピードで進める必要がありましたが、Aさんの意思が明確であったため、迷いなく手続きに着手できました。

 準備の途中、Aさんが悩みを口にされました。
「もう息子とは会わない方がいいのではないかと思っている。最期の場面が息子の負担になるのではないか。このまま息子には自分のことを忘れてもらった方が良いのではないだろうか。」
息子さんが悲しむことを避けたいという一心からの想いでした。法律家としては何が正しいのか、答えが出ませんでした。しかし、人として、親としての気持ちが痛いほど伝わりました。Aさんも私も涙を流していました。
 私は、「会ってあげた方が良いと思います」とお伝えしました。

 その後、Aさんは入院されました。容体が悪化し、主治医から「今日が最後になるかもしれない」と告げられた日、関係機関と調整し、後見人として息子さんを病室へ連れて行くことができました。短い面会でしたが、Aさんも息子さんも、落ち着いた様子で過ごされていたのが印象に残っています。

 息子さんが施設に戻った数時間後、Aさんは静かに息を引き取られました。
 その後は、死後事務委任契約に基づき、葬儀、納骨、役所の手続き、年金や保険の整理などを進めました。事務的な作業は多岐にわたりましたが、事前に契約を整えていたため大きな混乱はありませんでした。
 手続きが落ち着いた頃、施設から「息子さんの様子が少し不安定だ」との連絡が入りました。Aさんの死を直接理解していなくても、生活の変化を敏感に受け取っているようでした。今後は、長期にわたる心のケアや生活の安定に目を向けていく必要があります。

 後見人としての息子さんとの関わりは、これから数十年と続きます。 障害のある子の代わりに、または障害のある子と共に、親を見送る。そして次は、親の代わりに子を護る。 親なきあとを支えるということは、単に制度や契約を整えるだけではなく、親の想いを受け継いで支援を考えなくてはならない。そのことを改めて実感した事例でした。

事例2 親なきあと、本人が高齢になってから支援を開始した事例

 精神障害のある男性からご相談をいただいたケースです。本人は長年、入退院を繰り返し、これまではその合間に障害者グループホームで生活されてきました。しかし、65歳を超えた頃、身体的な不自由も重なり、退院後は高齢者施設での生活を選択することになったのです。
 ところが、その入居手続きの段階で問題が明らかになりました。本人の入院中に親が亡くなり、兄弟とは疎遠であったため、身元保証人となれる人が誰もいなかったのです。高齢者施設の多くは身元保証人を必須としますが、この施設からは「成年後見制度を利用するのであれば入居に応じる」という提案がなされました。本人もその方向を望まれたため、当相談室の司法書士である私にご相談をいただき、後見制度の申立てを行う運びとなりました。
 申立相談の段階から私が対応し、本人との信頼関係も築けていたため、申立人の希望でそのまま私(が運営する法人)が補助人に就任いたしました。受任後はまもなく施設との契約を済ませ、本人の新しい生活が始まります。

 補助人として取り組むべき課題は大きく二つありました。ひとつは「親の相続問題」、もうひとつは「施設と本人の間の緩衝材としての役割」です。

 まず相続問題ですが、本人は親が亡くなったことは知っていても、財産がどうなったかを全くご存知ありませんでした。本人は「自分にも相続する権利があるはずだから調べてほしい」と希望されたため、相続財産の調査を開始いたしました。すると、親名義の一定の預貯金が残されていたものの、親の死亡後も預金が引き出されている形跡が見つかったのです。兄弟が関わっている可能性が高かったため、住民票から住所を調査し、手紙で連絡をとったうえで会うことになりました。

 話し合いの結果、兄弟がキャッシュカードを利用して死亡後も預金を引き出していた事実が判明しました。不適切な使用も見受けられましたが、本人の意思を尊重し「今後の公平な遺産分割に協力するのであれば刑事的な責任は求めない」という方向性を提示いたしました。兄弟の側にもさまざまな想いがあったようですが、最終的には反省の意を示し、法的な説明にも納得して協力してくれたため、平和的な解決につながっています。

 相続財産の処理はトラブルやストレスの元であり、当事者に大きな負担がかかります。障害のある子やきょうだい児に余計な負担を残さないためにも、やはり親なきあとに向けて遺言書の作成を検討してもらうことの重要性を再確認しました。

 もう一つの課題は、施設と本人の関係調整です。生活が始まってしばらくすると、本人からは「世話人が自分に配慮していない」という相談が寄せられ、施設からは「本人からの要求が強く、対応が難しい」という話が出ました。本人には持病の影響で言葉の受け取りや事実認識に齟齬が生じることがあり、医療情報からその特徴は把握しておりました。一方、この高齢者施設では精神障害を持つ入居者の対応経験がなかったこともあり、この認識のギャップがこじれの原因となっていたのです。

 補助人としては、双方の話を丁寧に聞き取り、本人の特性や医療情報について改めて施設側に説明し、本人には施設側の立場や対応の理由を伝えるなど、緩衝材として関係調整を進めていきました。親なきあとにおける後見人の役割は、法的な支援だけでなく、本人への理解を深め、本人と支援者の間のコミュニケーションを整えることが欠かせないと実感しております。
 特に、障害のある方が高齢期に入り、環境が大きく変わる時期は、本人にとっても支援者にとっても負担が大きいものです。親なきあとに後見人がその課題を引き受ける場面は多く、そういったときは支援の要となります。 障害者の親なきあと問題においては、制度だけではなく、生活・心・人間関係まで含めた総合的な支援が必要であることを改めて実感することができた事例でした。

2つの事例を通して伝えたいこと

 ひとつは、「親が行う備えには非常に大きな価値がある」という点です。事例2のように、生前に親なきあとの準備がほとんどされていなかったとしても、後見人が関わることで本人の生活は十分に成り立ちます。生活保護など公的制度の支えもあるため、財産がなくても生活が破綻することはありません。
 しかし、本事例から明らかなように、遺言書の有無は本人だけでなく、きょうだいにかかる負担を大きく左右いたします。また、親自身の晩年の希望や死後の手続きも、事前に意思を示しておけば叶えることができるのです。親が備えておくことで、家族全体の負担が軽減され、幸せのかたちが大きく変わると言えるでしょう。

 もうひとつは、「親からの情報がいかに重要か」という点です。事例1のように、親から託されて後見人になる場合には、子どもの特性、生活の工夫、困りごと、治療の経緯といった細やかな情報を受け取ることができます。これらは親が長年積み重ねてきた「支援の知恵」であり、支援を行ううえで何より役立つものです。しかし、親なきあとに後見人が就任するケースでは、その情報の引き継ぎが一切なされないことも少なくありません。本人の人生に深く関わる情報は、親しか知らないことが多く、その欠落は支援の質にも関わります。

 だからこそ、親が生前のうちに、子の支援に関する大切な情報を残しておくことには計り知れない価値があると考えます。これは支援者や後見人にとって大きな助けとなり、最終的には本人の生活の質の向上につながります。

親なきあと問題に対するこれからの解決策

 当相談室では、事例で紹介したような日々の相談対応や業務に加えて、親なきあと問題という社会課題の解決を目指して社会全体に働きかけている事業が2つあります。ひとつは「法人後見の普及」、もうひとつは「アプリによる親の情報継承」です。

法人後見の普及

 後見制度に関わる中で見えてくる最大の課題は、信頼できる後見人の絶対数が足りないことです。個人に頼るのではなく、「組織として後見を担う」法人後見の普及が不可欠であると考えています。
法人後見には、下記のメリットがあると考えます。
・担当者の不調や死亡の際にも、同じ組織内で対応できる
・法人内での相互監査機能による不正の防止
・組織で後見業務に取り組むことで、多角的な支援が可能になる
 当相談室では、こうした法人後見の立ち上げ支援に関わってまいりました。特に、以下の二つのタイプの法人後見に携わった経験があります。

① 親の会による法人後見・・・障がいのある子どもの親たちが自ら法人を設立し、地域で後見活動を担っていくケースです。
親の会は、
・子どもの特性や生活の実態
・地域の福祉サービス状況
・家族が抱える不安
を長年にわたり理解してきた存在であり、その蓄積を法人後見の形で次世代につなぐ意義は非常に大きいと言えます。 実際に立ち上げを支援した法人でも、初めての相談は「親なきあとの不安」に関するものでした。親たちが互いに自身の経験や悩みを共有する中で、「自分たちの子どもを守る仕組みを、地域に残すべきだ」という思いが高まり、法人化へとつながりました。

 ただ一方で、親の会は会員の高齢化や運営の負担など課題も抱えており、無理なく継続できる体制づくりを整えることも大切です。運営面のアドバイスや制度理解のサポートも、当相談室が担った役割のひとつでした。

② 医療職を中心とした法人後見・・・もうひとつ当相談室が関わってきたのが、医療の専門職を中心に組織された法人後見です。
 後見業務の中で最も重要な要素が「身上保護」であり、生活や医療の場面を深く理解した支援が求められます。こうした考えから、本人の健康や医療に精通した医療職が後見の中核を担うべきではないかという理念をもとに考案された後見のスタイルです。
 組織構成としては、看護師、作業療法士、保健師といった医療の資格者が身上保護を担当いたします。一方で、司法書士、行政書士が財産管理や契約事務、法務監査、バックオフィス業務を担い、組織全体の法的安定性を確保する仕組みといたしました。 医療と法務の専門性を分担しながら一体的に支援することで、本人の生活全体をより確実に支えることができる体制となっています。

 実際に、入院や治療方針の判断が必要な場面でも、医療職が状況を正確に把握したうえで後見人としての意思決定支援に反映でき、支援の質が高まるという実感があります。障害のある子の親御さんからも、「法律家よりも日ごろ関わることのある医療職が中心になってくれると安心できる」というお声をいただくことがあり、医療職による後見への期待は想像以上に大きいものがあります。 これまで法律職が中心となって担ってきた後見業務に、医療職が主体的に関わる仕組みは、今後の「親なきあと」の支援の選択肢を大きく広げる可能性を秘めています。
 当相談室としても、医療職主体の法人後見の実践と検証を続け、より良い形を探っていきたいと考えております。

アプリケーション「ファミリアノート」による「支援者の情報」の継承

 当相談室が「親なきあと問題」の解決に向けて取り組んでいるもう一つの柱が、障がいのある方の大切な情報を将来へ引き継ぐためのアプリ「ファミリアノート」の開発と普及です。
 親なきあと問題の中でも特に深刻なのは、親御さんのような特定の支援者しか知らない日々の生活情報が途切れてしまうことです。

 好き嫌いや普段の生活リズム、通院の工夫、コミュニケーションの方法など、細やかな情報は本人の生活にとって不可欠であるにもかかわらず、紙のメモや口頭の引き継ぎだけでは残りづらいのが現状です。親が亡くなったあとなど、支援者が変わるたびに情報が失われ、支援の質が安定しないという課題は全国共通と言えるでしょう。

 ファミリアノートは、こうした問題を解決するために生まれました。「子どもを護る記録のバトン」というコンセプトのもと、親が持つ生活情報をアプリの中で整理し、日々の支援者へなめらかに引き継ぐことができる仕組みを目指しております。本人の性格や障害特性、医療・健康情報、生活のリズム、好き嫌い、将来の希望などを一つの場所にまとめて記録することができ、必要に応じての更新も容易です。

実際のアプリの画面

 このアプリの特徴は、親だけが入力するのではなく、学校や施設、就労支援事業所、グループホーム職員など複数の支援者が参加し、日々の様子を記録できる点にあります。親が残した情報と支援者の記録がアプリの中で積み重なることで、本人の理解が深まり、支援の継続性が確保されます。支援者が変わっても、アプリを開けばその人がどんな生活をしてきたのか、過去の支援者が確立したノウハウや本人に合う支援がすぐに分かるため、引き継ぎの負担が大幅に軽減されます。

複数の支援者が記録できる支援記録の画面

 また、緊急時に必要な医療情報や連絡体制をひと目で確認できる画面も用意しており、支援現場での対応を助ける役割も担います。特に、医療情報や服薬の履歴は誤りがあってはならない領域であり、紙のメモだけに依存しないデジタルでの一元管理には大きな価値があると考えています。

医療情報の登録画面

 ファミリアノートが生まれるきっかけとなったのは、成年後見人として関わったある事例でした。知的障害のある本人の生活歴を知りたいと思った場面がありましたが、両親はすでに亡くなっており確認ができなかったのです。些細な生活の癖や子どもの頃のエピソード、医療機関とのやり取りの経緯など、親でなければ分からない情報の多さを痛感した経験が、アプリの企画へとつながりました。

 提供開始から多くの親御さんが利用を始められており、「情報を残せているという安心感が生まれた」「支援者への説明が楽になった」というお声も届いております。親なきあとを考える時、財産のことや後見人の選任と同じくらい「情報の引き継ぎ」は重要なテーマです。それを誰でも使える形で実現することが、当相談室のもう一つの使命だと考えております。 ファミリアノートが、親なきあとも途切れず続く支援の一助となり、本人の生活を安定させるための新しい選択肢となるよう、今後も改善と普及を進めてまいります。

まとめ

当相談室が現在取り組んでいる「親なきあと問題の解決」は、大きく二つです。

① 法人後見の普及によって、地域に信頼できる後見体制をつくること
② ファミリアノートによって、親の持つ情報と希望を次の支援者へ確実に引き継ぐこと

 この二つがそろうことで、親なきあとの不安は大きく減り、本人と家族が安心して暮らせる環境に近づくと信じております。 引き続き、地域の実情に合わせた支援のあり方を模索しながら、親なきあと相談室としての取り組みを進めてまいります。