※当記事は2025年10月の内容です。
信託登記簿の見方 権利登記との関係・信託目録の各欄
信託登記は、信託を原因とする所有権移転登記と同時申請で行われます。この所有権移転登記は、物権変動の対抗要件に関する民法177条の登記です。そして、信託登記は、信託法14条に基づく登記です。これは、信託財産への帰属に関する対抗要件です。不動産信託における信託登記は、信託法32条1項で、受託者の分別管理義務の内容となっており、2項で、その免除も禁止されております。
順位番号 登記の目的 受付年月日・受付番号 権利者その他の事項
3 所有権移転 昭和××年×月×日 原因 昭和××年×月×日相続
第××号 所有者 ×市×町×丁目×番×号
法務太郎
4 所有権移転 平成××年×月×日 原因 平成××年×月×日信託
第××号 受託者 ×市×町×丁目×番×号
法務一郎
信託 信託目録10号
信託登記の内容は、信託目録を介して公示されます。信託目録は、不動産登記法で規定されている信託登記の登記事項を記録するものです。まず、信託登記の登記事項がありきです。それを公示する方法が信託目録です。
信託登記の登記事項 ⇦ 不動産登記法97条1項各号
⇩
信託目録に記録すべき情報 ⇦ 申請人または資格者代理人
⇩ (司法書士)が作成
信託目録 ⇦ 登記官が作成
信託目録の作成権者は登記官ですが、これの素材となる信託目録に記録すべき情報は、申請人側が提供します。信託目録は旧法では信託原簿と言われており、申請人が作成した信託原簿が、作成者の氏名が付されて、そのまま公示されておりました。これは2004年に成立して2005年施行の不動産登記法改正で大きく修正された点です。
信託目録の素材となる情報は、申請人側で作成するわけですが、現行不動産登記法では、信託目録の最終的な作成者が登記官であると規定されていることが重要です。
ここで旧不動産登記法を見てみましょう。
信託ノ登記ヲ申請スル場合ニ於テハ左ノ事項ヲ記載シタル書面ヲ申請書ニ添附スルコトヲ要ス
一 委託者、受託者、受益者及ヒ信託管理人ノ氏名、住所法人ニ在リテハ其名称及ヒ事務所
二 信託ノ目的
三 信託財産ノ管理方法
四 信託終了ノ事由
五 其他信託ノ条項
前項ノ書面ニハ申請人署名、捺印スルコトヲ要ス
第百十条ノ六
前条ノ規定ニ依リ申請書ニ添附シタル書面ハ之ヲ信託原簿トス
信託原簿ハ之ヲ登記簿ノ一部ト看做シ其記載ハ之ヲ登記ト看做ス
カタカナで読みづらいのですね。昔、私が司法書士試験を受験した時代は、不動産登記法だけではなく、民法も商法も、民事訴訟法も全てカタカナでした。ですから、法律の条文を読めるようになるまでが、一苦労でした。
2004年に至る旧不動産登記法時代には、信託登記を申請する申請人が、信託原簿を作成して、信託原簿に申請人が署名捺印を行い、これを法務局に提出することで、登記簿の一部と見做されるという構造でした。そして、その記載が登記と見做されました。ですので、信託原簿に対して登記官の審査があるのか否か、法文上だけではよくわかりませんでした。
信託原簿 ⇦ 添付書類 ⇦ 申請人が作成し、署名捺印
⇩
登記簿と見做される
⇩
その記載が登記と見做される
現行の不動産登記法と、旧不動産登記法では、信託登記の登記事項に対する考え方が真逆であった、ということが言えると思います。
信託登記の登記事項
信託登記の登記事項は、不動産登記法97条1項に規定されておりますが、その8号から11号までは(とくに11号は)、抽象的・概括的な規定であり、大正11年の信託法制定による不動産登記法改正の時点から、改正法による新たな登記事項を除いては、あまり変わっておりません。
(信託の登記の登記事項)
第九十七条信託の登記の登記事項は、第五十九条各号に掲げるもののほか、次のとおりとする。
一 委託者、受託者及び受益者の氏名又は名称及び住所
二 受益者の指定に関する条件又は受益者を定める方法の定めがあるときは、その定め
三 信託管理人があるときは、その氏名又は名称及び住所
四 受益者代理人があるときは、その氏名又は名称及び住所
五 信託法(平成十八年法律第百八号)第百八十五条第三項に規定する受益証券発行信託であるときは、その旨
六 信託法第二百五十八条第一項に規定する受益者の定めのない信託であるときは、その旨
七 公益信託ニ関スル法律(大正十一年法律第六十二号)第一条に規定する公益信託であるときは、その旨
八 信託の目的
九 信託財産の管理方法
十 信託の終了の事由
十一 その他の信託の条項
2 前項第二号から第六号までに掲げる事項のいずれかを登記したときは、同項第一号の受益者(同項第四号に掲げる事項を登記した場合にあっては、当該受益者代理人が代理する受益者に限る。)の氏名又は名称及び住所を登記することを要しない。
3 登記官は、第一項各号に掲げる事項を明らかにするため、法務省令で定めるところにより、信託目録を作成することができる
1号は、信託当事者の特定とその表示です。委託者、受託者、受益者ですが、受益者欄だけは、受益者に関する事項等とあり、「等」が入っていることに注意してください。これは受益者代理人のように受益者以外も記録できるようになっているからです。
2号は、受益者を指定する条件や受益者を定める方法とありますが、民事信託における第二次受益者の定めが、これに該当するのか否か、明らかではありません。2号の典型例としては、懸賞論文で1位となった者を受益者として定める、などの定め方です。
2号の定めがあれば、1号の受益者の表示を省略できるのですが(97条2項)、例えば、受益者は信託行為で定める、という程度の定めで、2号の登記事項の要件を充足できるのか否か、よくわかりません。
受益者連続の定めは、受益者の定めなのか?
更に言えば、信託法91条の受益者連続に関する信託行為の定めが、ここで言う「受益者の指定に関する条件又は受益者を定める方法の定め」に該当するのか否か、という問題がありますが、これまで検討されたことはないのではないでしょうか。信託法91条の前段を抜き出すと次のとおりです。
2号は、あまり研究が進んでいない登記事項ですし、民事信託で利用されたことが少ない登記事項ではないでしょうか。
3号から6号までは、受益証券発行信託や目的信託などの改正信託法で創設された新制度に関する登記事項であり、7号は公益信託に関する登記事項です。ですので、特殊な登記事項であると言えますね。
信託の登記事項に関する97条1項8号は、信託の目的です。登記官は、信託の目的を見て、その他の事項との整合性を審査すると思われますので、最重要の登記事項です。
信託財産の管理方法
97条9号は、信託財産の管理方法を規定しておりますが、これも難しい条項です。概括的というか、抽象的です。皆さんは、「信託財産の管理方法」というのは何なのか、と思いますでしょうか。
なんとなくわかるような、でも、よくよく考えると、あれも、これも、と思い浮かんでこないでしょうか。
この辺りも、実に難しいです。
例えば、信託契約書上、「受託者は善管注意義務を以て信託財産を管理しなければならない」という信託条項があったとします。これは、信託財産の管理の方法なのでしょうか。管理の方法として善管注意義務で以て管理するというように読めなくはない気がしてきます。「受託者は信託財産を分別管理する」という信託条項はどうでしょうか。まさしく、信託財産の管理の方法のように思わないでしょうか。
それでは「受託者は信託不動産の賃貸から得た金銭を、金融機関の「信託口」預金口座に預けて管理する」という信託条項があったら、それは「信託財産の管理方法」に該当するから、信託目録に記録すべき情報であると考えるべきなのでしょうか。また、「受託者は、不動産管理会社に委託して信託不動産の管理を行う」という信託条項はどうでしょうか。これも、「信託財産の管理方法」の範疇に入るのではないか、と感じるのではないでしょうか。更には「受託者は、信託不動産を賃貸することができる」とか、「受託者は、5年後に信託不動産を大規模修繕しなければならない」なども、「信託財産の管理方法」の一つであると言いたくならないでしょうか。
しかしながら、そのように考えていくと、何でも信託登記の内容として登記しなければならなくなってしまい、きりがなくなってしまいます。何でもかんでも登記して公示の対象にしてしまうのでは、公示の作法に落第してしまいます。よく考えてみてください。抵当権の設定の場合などでも、細かい取り決めは沢山あるはずです。例えば、抵当権を設定した不動産の所有者は、善管注意義務を以て不動産を使用しなければならない、などの規定があっても、それを抵当権の設定登記の登記事項にはできないはずです。賃貸借の登記などでも、同様に、類似の取り決めが存在するはずですよね。