※当記事は2025年10月の内容です。
「おおいたモデル」の親なきあと相談室を全国へ ~大分県社会福祉事業団~
大分県社会福祉事業団では、平成29年1月から県下6か所に相談室を開設しています。養成研修を修了した相談員を配置し、親なきあとの漠然とした不安を一旦受け止めたうえで、課題を一緒に整理して、福祉分野以外の専門的な相談は必要に応じて士業専門家の方と提携してつなぐ支援をしています。
令和元年度からは大分県と協働で県内の親なきあと相談支援の体制づくりを進めています。具体的には大きく分けて2つあり、1つ目は相談窓口の裾野を広げる機能(親なきあと相談員養成研修の実施、親なきあと相談会や支援者向けの研修会など)の市町村事業としての定着を目指すことと、2つ目は相談会や研修会の情報を把握して相談員を派遣するなど支援体制をコーディネートする機能(コーディネーターの配置)です(図1)。
図1は、そのような体制のイメージ全体像を表しています。

令和7年度からは日本財団の助成を受けて、このおおいたモデルの親なきあと相談室を全国に広げるための取り組みを始めています。まずは、親なきあと相談員養成研修について、全国的に実施ができる仕組みを目指して検討中です。
そのために、次の5つの視点を持って取り組みを進めてまいります。
多様な相談を受け止めて、つなぐスキルを持つ親なきあと相談員の養成を行う仕組み
② しらせる(広報、ネットワークの構築)
相談室設置の必要性や役割を広報周知すること
③ つながる
どこで相談を受けても必要な窓口につながる仕組み
支援者同士や支援者と専門家とのつながり
④ ささえる
ご本人、ご家族、支援者をささえるネットワーク
知識の更新や専門家との連携など、支援を継続するための仕組み
⑤ つづける
相談室の活動を国や行政が予算化し、評価点検する仕組み

この取り組みを着実に進めていくためにも、まずは私たちが取り組んできたものを今一度振り返りながら、大分県内でもさらに事業の定着や推進が図られるように取り組んでまいりたいと思います。
これまでの取り組み内容
親なきあと相談員養成研修の実施(そだてる)
令和元年度から3年間は、親なきあと相談員養成研修を大分県から委託を受けて実施しました。県内の身近な相談窓口となる方々に受講していただくことで、親なきあと支援の視点を持って相談を受け付けることができ、必要に応じてつながる仕組みができるようにしました。
委託事業が終了した後も、大分県社会福祉事業団が隔年で養成研修を継続しており、過去に受講された方等はフォローアップも兼ねて受講できるようにしています。
・経験や活動に基づいた親なきあと相談室の活動報告が参考になった。
・保護者がいる間に課題を共有し、計画を考えていきたい。
・通常の相談業務の中に、親なきあとの課題がたくさんあるのでそれに気づき対応できるスキルを身につけていきたい。
・うまくいかなかった事例も聞いてみたい。
・支援中は視野が狭くなりやすく困っていたが、研修で得た気づきが参考になった。
・年金制度についての手続きは経験済みのため分かっているつもりだったが、良い復習ができた。
・今後も学習を続けて専門職に繋げる前にしっかり説明できるようになりたい。
・利用者主体として、支援のネットワークを、地域を巻き込みながら広げていきたい。
・お金に関するいろいろな制度があることを知り、引き出しが増えた。まずは「話を聞く」ことを大切にしたい。
支援者向け研修会(つながる/ささえる)
知識の更新や支援者同士のつながる機会として、地域ごとに、親なきあと相談員や行政担当者、社協の方向けに研修会を実施しています。令和6年度は年金や成年後見制度について専門家の方から学ぶ機会を設け、事例検討などのグループワークを実施しました。
-1024x768.jpg)
・他の相談員さんと意見交換の時間をしっかり取れたので大変参考になり良かった。
・成年後見支援センターの講話が特に勉強になった。
・未就学児の保護者には「親なきあと」は先の話と思われると思った。少しずつ気づいてもらうための方法を考えたい。
・多くの事例を聞けて参考になったが深堀りするのは難しかった。
・道筋が少し見えたような気がする。参考になった。
・年金制度や後見人制度についての理解を深めることができた。支援関係者が顔を合わせておくことで安心が生まれると感じた。
・県や市はもとより、国の施策としてやっていく必要があると以前から考えている。
・発表後の各グループに対しての先生の助言がとても参考になった。
市町村相談会(しらせる/ささえる)
各市町村に親なきあと相談員を派遣して、親なきあと相談会を実施しています。(頻度は市町村によって異なりますが、市報等で広報をしています。)
1組につき、おおよそ30分~1時間程度を目安にしています。相談会を実施することで親なきあと相談室の存在を知っていただくことにもつながっています。
家族向け研修会(しらせる)
手をつなぐ育成会や精神科病院のデイケアなど団体の方からお声掛けいただいて、ご家族向けの研修会を実施し、法人に配置している親なきあとのコーディネーターや親なきあと相談員が対応しています。「親あるあいだ」の準備が大切であることをお話ししています。
-1024x668.jpg)
支援者連携会議(つながる/ささえる)
支援者と専門家とのつながる機会として、令和6年度は大分県内70名の関係者がハイブリッド形式で参加されました。会場には「親なきあと」相談室主宰 渡部先生をお招きして、「障がいのある子の『親なきあと』相談事例とアドバイス」をテーマに講義をしていただきました。また、パネルディスカッションでは専門家の方々にアドバイザーとして参加していただきました。


・専門家と接する機会が少なく、専門的な話を聞く機会が得られてよかった
・講師の先生との連携を図っていきたい。
・専門家からの事例を通してのアドバイスが分かりやすかった。
・家族信託や遺言について参考になった。
・スポット的な成年後見制度の利用が始まることを知り参考になった。
・突発的に生じた金銭面の困りや一時的な入院などで親なきあと問題に直面するが、困りが解消すると満足してしまう。根っこにある課題を先送りにせず専門家に繋ぐなどしてしっかり対応することが必要と感じた。
その他
(しらせる)親なきあとの課題について認識し、相談できる場所があることをお知らせするためのリーフレットを作成し、ホームページに掲載しています。
(つづける/ささえる)親なきあとの支援体制が市町村事業として定着するように、事業をコーディネートする役割を法人に位置づけています。


「おおいたモデル」の親なきあと相談室を全国へ
大分県のように、社会福祉法人が行政と一緒になって親なきあと支援の体制整備に取り組んでいるのは全国的にもあまり例が多くありません。想いを込めて始めた取り組みがどこかで途切れてしまわないように、最初の相談をどこが受けても必要な場所につながるように、持続可能な仕組みは全国的に必要となるはずです。実際に、当法人や大分県のホームページ、渡部先生の書籍などをご覧になった県外の方から、直接お問い合わせいただくことや視察に来ていただくこともあります。
大分県社会福祉事業団の親なきあと相談室は令和8年度(令和9年1月)に開設10周年を迎えます。その大きな節目を前に、「おおいたモデル」の親なきあと相談室を全国に広げるため、「多様な相談を一旦受け止めて整理し、つなぐスキルを持つ相談室」と、「継続して支える仕組み」を各地で取り組むモデル事業の実施を実現したいと考えています。
将来的には、全国各地の身近なところで親なきあとの不安を受け止められる相談員さんが増えたり、相談窓口が明確になり、そこから必要な支援や窓口につながるネットワーク体制があらかじめ整えられるようになることを目指しています。
まずは、全国の皆様と交流を育み、ネットワークを繋いでいただきながら、この取り組みを進めていきたいと思っています。
矢野 和彦(事業推進コーディネーター)
後藤 寛子(親なきあと担当)
大分県大分市大津町2丁目 1-41(速見郡日出町大字藤原 4617)
(直通)0977-76-7171 (メール)jigyo-kyokasuishin@oitaswo.jp